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対談・夏のワインの正解を探す

おいしい食事をより豊かに演出してくれるワイン。いつもはフルボディの赤ワインが好みの人でも、夏ばかりは冷やした白ワインを選ぶことが多いだろう。スパイスやハーブを使うなど、夏らしいひと皿に合わせるワイン選びは、なかなか難しい。今回、ふたりのワイン通をお招きして、昨今のトレンドを踏まえつつ、とっておきの銘柄を紹介してもらった。

2026.05.20

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語ってくれたのは……

君嶋哲至氏(右)(横浜君嶋屋代表取締役社長)
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西森陸雄氏(左)(建築家)

 「夏のおすすめ」をテーマにワイン談議に花を咲かせたのは、「横浜君嶋屋」代表取締役社長で日本ソムリエ協会監事の君嶋哲至(さとし)氏と、事務所の一角に「ワインショップnodino(ノディーノ)」を設ける建築家の西森陸雄氏。生粋のワインラバーのふたりに、この夏おすすめのワインを聞いた。

君嶋夏向きのワインということで、今回は冷涼感とさわやかさをポイントに選んでみました。

西森僕がセレクトした基準は、汗をかいた後に飲むとおいしいワイン。やわらかで、ミネラル感のあるタイプが中心です。僕はイタリアに暮らしていたときにワインに惚(ほ)れ込んでしまったので、今回選んでいるものもイタリア産がほとんどなのですが、そのなかでも海沿いで造られるワインや、化石が出るような畑で造っている、ミネラルが豊富なワインが多くなりました。

君嶋興味深いですね。

西森試飲しながら始めましょう。

君嶋最近注目しているのが、イギリスのワインです。今日お持ちしたのは「ナットボーン・ヴィンヤーズ」のスパークリングワイン。2018年だから、ちょうど飲みごろです。

西森いい香りですね! ゴールドの色あいがたまらなくきれいです。酸がしっかりしていて、ミネラル感もあっていいですね。

君嶋ピノ・ノワールが主体で、ほかにシャルドネとピノ・ブランの3種のブドウを使っています。心地よい酸と冷涼感があるので、少し冷やして、まず1杯飲んで、常温に近づくとボディも出てくるので、冷製のサーモンなど、魚料理と合わせるといいでしょう。

西森たしかにサーモンに合いそう。

君嶋ナットボーン・ヴィンヤーズは、ロンドンから南西に車で1時間半くらいのウエストサセックスというところにある、家族経営のワイナリーです。僕も数年前まではイギリスの生産者を訪ねることなどなかったのですが、行ってみたらすごくいいところでした。ブドウ品種はバッカス(白ブドウ)が有名ですけれど、実はシャルドネとピノ・ノワールもすばらしい。かつてイギリスのワイン造りは寒さとの闘いでしたが、地球温暖化によってその状況が変化してきています。

西森本当に、これからイギリスのワインは注目されていくと思います。

君嶋ぜひ一度味わってみてほしいですね。

イギリス南東部、ウエストサセックスにある「ナットボーン・ヴィンヤーズ」。グラッドウィン家が1991年から所有する家族経営のワイナリーで、サステイナブルなブドウ栽培に取り組んでいる。

西森僕が今日お持ちしたひとつ目は、大西洋に浮かぶポルトガル領アソーレス諸島のワイン。9つある火山島のうちのひとつ、ピコ島で造っている白ワインです。ピコ島のワイン造りはちょっと面白くて、16世紀ごろから小さな島の海岸沿いだけでブドウが栽培されているんです。溶岩石を使った石垣で潮風を防ぎながら栽培されていて、その景観は世界遺産に登録されています。

君嶋世界遺産にあるブドウ畑で造っているというのは話題性がありますね。

西森石垣のなかなので機械が入れず、ブドウはすべて手摘みなんです。一時期、ほとんど造られなくなったのですが、フランスで醸造学を学んだ若い人たちが島に戻ってきて、あらためてワイン造りに挑んでいます。「エントレ・ペドラシュ」社のピコアリント・ドシュ・アソーレスは、土着のブドウ品種を3種類くらい一緒に、皮や種も含め足踏みして潰してから、ステンレスタンクと古い樽を半分ずつ使って天然酵母で発酵させています。飲んだ後に、強い塩味を感じるのが特徴で、汗をかいた後にぜひ飲んでほしいワインです。

君嶋アロマティックでもありますね。ちょっとコルシカのワインに似ているような感じもあるかな。

西森赤身の魚やハーブを使った料理に合います。カツオのたたきとか、マグロのカルパッチョとか。このスタイルでのリリースは、まだ3、4年目。今後がますます楽しみです。

大西洋に浮かぶアソーレス諸島のピコ島では、火山岩質の溶岩台地でブドウを栽培しワインを造っている。ブドウは標高の低い海岸近くに溶岩石の石垣で囲んで栽培され、その景観は「ピコ島のブドウ畑文化の景観」として世界遺産に登録されている。
ポルトガル・ピコ島の海岸近くで栽培するブドウで造る白ワイン、ピコ アリント・ドシュ・アソーレスは、独特の塩気と凝縮感が特徴。マグロのカルパッチョなどとよく合う。

夏の定番・スパークリングから、とっておきの個性派を紹介

君嶋夏はシャンパーニュもいいのですが、今回はもう少しカジュアルに飲めるスパークリングワイン、クレマン・ダルザスをご紹介します。造り手は、フランス・アルザス地方の「ドメーヌ・アルベール・ボクスレ」。ブドウの品質向上のため、すごく収量制限をしていて、凝縮された風味をもっています。泡もしっかりしていて、冷やして飲むと凝縮感はあるのに重くない。軽快に飲めて、濃いのに軽いみたいな……。

西森ワインって、重いか軽いかだけでは表現できないですよね。

君嶋まず、このスパークリングワインで始めて、さあ次は何を飲もうかという感じで楽しんでほしいです。

西森僕は大学のプログラムで毎年行くベネチアに、好きな酒店があって、そこで見つけた造り手、「カステル・サン・マウロ」のリボッラ・ジャッラを紹介します。オーナーはおじいさんの畑を引き継いでいて、彼の代になってからまだ数年なんですけど、大理石を積みあげた独自のタンクを使うなど、ユニークなワイン造りをしています。とてもミネラリーで、泡も細かくて、青リンゴや洋梨のような香りがするんです。

君嶋フリッツァンテ(微発泡ワイン)ですか?

西森いいえ、スパークリングワインで、気圧は高めです。これだけで味わっても十分だと思いますが、スイカやメロンなどと合わせてもいい。

君嶋果物と、いいですね。

君嶋哲至(きみじまさとし)氏
1960年、横浜生まれ。横浜君嶋屋代表取締役社長。1892(明治25)年創業の酒販店の4代目で、ワインと和酒卸販売業、ワインの直輸入を行う。日本ソムリエ協会監事でもあり、書籍の監修や講演など、酒類の魅力を国内外へ積極的に発信している。ロックミュージシャンとしての一面ももつ。2003年、シュヴァリエ・コトー・デクサン・プロヴァンス、2004年、シュヴァリエ・デュ・タストヴァン・ブルゴーニュなどを叙任。

西森続けて赤の泡もご紹介します。ランブルスコはイタリア、エミリア=ロマーニャ州のポピュラーな赤の泡ですけど、甘口がわりとよく知られています。でも、これは完全な辛口。「カミッロ・ドナーティ」は自然派の造り手で、泡が強かったり弱かったりと年によって若干違いがあるのですが、共通しているのは泡がきれいで、ブドウそのものを味わっているようなピュアなところ。泡が抜けてしまったら、スティル(非発泡性)ワインとして楽しめます。油を使った料理に合うので、天ぷらとかフリットとか。場合によっては、鰻に合わせてもいけると思います。

君嶋土用の鰻にも合わせたいですね。

西森ポテトフライと一緒でもおいしそうです。

赤のスパークリングワイン、ランブルスコの辛口は、鰻のかば焼きとも好相性。繊細な泡が、鰻の脂を中和し、甘辛いたれともよく合う。

いま注目の若手が造る、ハイクオリティーな白ワイン

君嶋もうひとつ、アルザスの生産者の「ユウキ・アキタ」をご紹介します。海外で頑張っている日本人の造り手で、これがとてもいいんです。

西森海外で活躍する日本人の造り手が増えましたね。

君嶋秋田悠樹さんは、独立してまだ2年目なんですが、先に紹介したボクスレで10年間勤めた後、自らのブランドを立ちあげました。こちらもかなり収量制限をしていて、シルヴァネールを使った辛口の白ワインを造っています。飲み飽きなくて、1本スルッと飲めて、すぐまた飲みたくなるようなワインです。

西森白ワインならマルサラ酒で知られるシチリア島の西部、マルサーラの造り手、「マンフレディ」もおすすめです。造り手は弁護士を辞めてワイン造りを始めたという人で、2019年がファーストリリース。3種類のブドウ品種をひと区画の畑で一緒に育てていて、まとめて収穫・醸造するというやり方をしています。一般的にはブドウ品種ごとに醸造して最後にブレンドするわけですが、自然派の造り手には、こういう新しい挑戦をしている人もいます。

君嶋斬新な造りですね。

西森ニューヨークの有名なレストランのワインリストに載ったことで、にわかに注目されるようになりました。ただ、まだ生産量が少なくて、日本に入ってくるのはわずかなんですよ。色味はオレンジ系の濃い色。やわらかで飲みやすいワインですが、最後の印象にとても深みがあって、スパイシーな料理や、ミョウガや大葉など夏のハーブを使った料理にも合うと思います。

西森陸雄(にしもりりくお)氏
1961年、東京生まれ。建築家、工学院大学建築学部建築デザイン学科教授。文化庁芸術家在外研修員として世界的建築家、マッシミリアーノ・フクサス氏の事務所に勤務したのを機に、イタリアワインに傾倒。1997年、西森事務所設立。受賞歴多数。設計活動を通じてワインの造り手やインポーターとの縁を育み、2024年から「ワインショップnodino」の運営を開始。世界のサステイナブルなワインを厳選して紹介している。

フランスとイタリアの銘醸地のおすすめ白・赤・ロゼ

君嶋白をもう1本ご紹介します。夏にソーヴィニヨン・ブランを飲むならこういうのがいいなと思って選んだのが、フランス・ロワール地方「ドメーヌ・アンドレ・ヌヴー」のサンセール ラ・コート・デ・モン・ダネです。

西森「スイカにサンセール」ってよくいわれていて、夏に合いますね。

君嶋モン・ダネは、サンセールのなかでもとくに銘醸畑といわれていて、日当たりのよい南向きの急斜面の丘でブドウを栽培しています。サンセールは場所によって土壌が違っていて、このワイナリーに行くと土を見せてくれるのですが、モン・ダネは粘土石灰質でアンモナイトや貝の化石が多く見られるような土壌なんです。味わいは、サンセールらしい酸味があるだけでなく、とてもまろやか。

西森さわやかで、飲みごたえもあるわけですね。

君嶋そこがいいなと思っていて、白身の魚や鶏肉とよく合いますし、アスパラガスなどの野菜とも相性がいいですね。寿司とか酸味のある料理にも合うと思います。夏が旬の貝類なんかもいいですね。決して重いワインではないけれど、ボディがしっかりしているので、生の魚介と合わせても変に生臭くならないのはすばらしいです。

フランス・ロワール地方のシャヴィニョル村で代々ワイン造りを行う「ドメーヌ・アンドレ・ヌヴー」。4ヵ所に土壌の異なる畑を所有し、ラ・コート・デ・モン・ダネはサンセール最良畑といわれる。

西森夏向きの赤なら、「フラスコレ」のキャンティ・ルフィナ。キャンティといえばフルーティーでありながらタンニンもしっかり感じられるキャンティ・クラシコが有名ですが、キャンティ・ルフィナはそれより透明感があって、やさしい口当たり。少し冷やして飲める赤ワインです。冷しゃぶやバンバンジーなど、夏らしい肉料理に合わせるといいと思います。

君嶋夏のワインといえば、プロヴァンスのロゼは外せません。夏は辛い料理が食べたくなりますよね。でも白ワインだと辛さを増幅させてしまうことがあって、合わせるのが難しい。でも、今回ご紹介する「ドメーヌ・デュ・デフォン」のロゼワイン、ニュイ・ローズはとてもドライで、スパイスが効いて辛い料理ともうまく調和してくれます。強すぎず、でも決して弱々しくない。食欲が湧いてきて気軽に飲むのに最適のワインです。

イタリア・トスカーナ州の赤ワイン、キャンティ・ルフィナとバンバンジーは意外に合う組み合わせ。硬質感がありながら、やさしい口当たりが魅力。
ピリ辛のたれに絡めるベトナム風生春巻きをはじめ、暑い時期に食べたくなるスパイシーなエスニック料理と合わせるなら、フランス・プロヴァンスの辛口ロゼワイン、ニュイ・ローズがおすすめ。

これから大いに注目したい、番外編の2本とは……

君嶋今回はおすすめの5本に入れなかったのですが、日本ワインにはますます注目したいですね。「楠ワイナリー」のピノ・ノワールもそうした1本です。自分のなかの常識が覆される日本ワインに出合う機会がとても増えました。

西森日本のワインは海外でもとても注目されていますね。

君嶋夏向けには山ブドウ系のワインもいいと思います。クオリティーがますます上がっていますね。

西森気候変動の影響をあまり受けていないエリアに注目が集まっているなか、個人的に注目しているのが、ルーマニアとウクライナに国境を接する東欧の国、モルドバです。「シャトー・プルカリ」は、昔からある造り手ですが、ヴィオリカやマスカット・オットネルは、マスカット系のブドウ品種で、味も香りも華やか。こういうタイプのワインを、今後もこの国でいろいろと造っていくんだろうなと想像するだけで楽しくなります。

君嶋興味深いですね。夏のワインのチョイスの幅がますます広がって、楽しみになってきました。

西森夏の訪れが待ち遠しくなりました。ありがとうございました。

1827年創業、モルドバの南東部、プルカリ村に拠点を置く「シャトー・プルカリ」。英国王室御用達のワインなど、古くから高い評価を得ている造り手で、2003~2004年に植え付けを行ったブドウ園は品質が大きく向上している。

君嶋氏、西森氏おすすめの12銘柄

夏におすすめしたいワインのラインアップを、対談で登場した10銘柄と、今後注目したい2銘柄を番外編として紹介する。若い造り手が次々に登場する一方、気候変動などでワインを取り巻く状況が変化するいま、トレンドをつかむヒントとして試してみたい。

君嶋氏おすすめ

  • ナッティ・ヴィンテージブリュット2018 ナットボーン・ヴィンヤーズ(9,900円)イギリス・ウエストサセックス

  • クレマン・ダルザス2019ドメーヌ・アルベール・ボクスレ(6,600円)フランス・アルザス

  • シルヴァネール リンゼンランド 2022 ユウキ・アキタ(8,250円)フランス・アルザス

  • サンセール ラ・コート・デ・モン・ダネ2022 ドメーヌ・アンドレ・ヌヴー(6,600円)フランス・ロワール

  • ニュイ・ローズ2024ドメーヌ・デュ・デフォン(4,730円)フランス・プロヴァンス

  • 番外編
    ピノ・ノワール ドラゴン 2023 楠ワイナリー(11,000円)日本・長野

西森氏おすすめ

  • ピコ アリント・ドシュ・アソーレス2022エントレ・ペドラシュ(7,700円)ポルトガル・ピコ島

  • リボッラ・ジャッラ2024カステル・サン・マウロ(7,590円)イタリア・フリウリ=ベネチア・ジュリア

  • ランブルスコ2024 カミッロ・ドナーティ(3,080円)イタリア・エミリア=ロマーニャ

  • マンフレディ・ビアンコ2024 マンフレディ(7,700円)イタリア・シチリア

  • キャンティ・ルフィナ2023 フラスコレ(4,510円)イタリア・トスカーナ

  • 番外編
    ヴィオリカ/マスカット・オットネル2024 シャトー・プルカリ(4,180円)モルドバ

[お問い合わせ]

●君嶋氏おすすめ
横浜君嶋屋ワイン館
TEL 045-325-8527
横浜君嶋屋オンラインショップ

https://shopping.kimijimaya.co.jp/

●西森氏おすすめ
ワインショップnodino
TEL 03-6280-7754

https://shopnodino.jp/

取材・文/土井ゆう子 写真/伏木 博、PIXTA
●取材時期:2025年12月上旬
※価格は消費税込。
※価格など掲載内容はインポーター、店舗の諸事情により変更となる場合があります。

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