鶴岡と酒田は、ともに山形県北西部の庄内地域を代表する都市。両市は隣接し、ともに豊かな自然に恵まれているが、歴史的背景から町の魅力は異なっている。鶴岡は庄内藩の城下町として栄えた武家の町、一方の酒田は北前船の寄港地として繁栄した商人の町。双方の歴史と文化の違いを感じ取りながら旅をしよう。
2026.05.20
SERVICE
鶴岡 藩校教育による風土と新しい潮流
庄内地方は鶴岡市と酒田市が二大都市として並立するが、それぞれの文化や気風は大きく異なる。鶴岡は江戸時代、庄内藩の城下町として栄えた武家の町だった。
鶴岡市の中心地、市役所の正面には「庄内藩校 致道館(ちどうかん)」がある。江戸時代後期の1805(文化2)年、時の藩主・酒井忠徳(ただあり)が優れた人材の育成を目的に創設したものだ。幕府が上下秩序を重んじる朱子学を正学に指定するなかで、致道館では儒学者・荻生徂徠(おぎゅうそらい)が提唱する徂徠学を教学とし、自主的に学ぶ姿勢や各自の長所を伸ばすことを重んじ、質実剛健を旨とする教育文化を築いた。
明治維新前後の動乱期、庄内藩は幕府のために戦い、新政府軍に降伏した後は、武士は刀を農具に持ち替え、月山山麓の広大な原生林の開墾を短期間で成し遂げた。さらに養蚕事業を行い、田を拓(ひら)き、柿や洋梨といった果木の植栽をすすめた。致道館の教えは、伝統を重んじる一方で、柔軟性に富み新しいことに挑戦する気質を育んだと考えられる。
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致道館の重厚な表御門。
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致道館の学問の基盤となった徂徠学の提唱者、荻生徂徠や、同校に強い影響を与えた服部南郭(はっとりなんかく)、太宰春台(だざいしゅんだい)らの肖像画。
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講堂奥にある「御入間(おいりのま)」。藩主が来校の際に使用した部屋。
鶴岡市に誕生した未来創造田園都市「鶴岡サイエンスパーク」の一画には、世界的建築家、坂 茂(ばん しげる)氏設計による「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE(ショウナイ ホテル スイデン テラス)」がある。コンセプトは“晴耕雨読の時を過ごす 田んぼに浮かぶホテル”。進取の精神が息づく美しいデザインに、知的好奇心を満たすライブラリーや温泉、地元食材の魅力を引き出すレストランが備わり、実用的。致道館の精神と共鳴する庄内らしいホテルといえるのではないだろうか。
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田んぼの上に浮かぶように立ち、田園風景に溶け込むようなたたずまい。試験的に水を張らない稲栽培を行っている。
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「ハリウッドツインルーム田園ビュー」(おひとり様1泊朝食付22,860円~)。坂氏の建築を象徴する意匠で、被災地支援などでも使われた紙管が、ベッドのヘッドボードや椅子に使われている。
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開放的な空間に、10のテーマの約1000冊の本が並ぶ共用棟ライブラリー。
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「Farm to Table」の考えのもと、80パーセント以上の料理に庄内産の食材を生かしたブッフェスタイルの朝食。
庄内藩校 致道館の近くには山形の特産品を揃える「HOUSE清川屋」もある。ぜひ訪ねたい。
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山形県河北町「アベホームシューズ」の帆布バブーシュ(Mサイズ・3,410円)と、山形県在住のイラストレーター竹永絵里氏によるサクランボ柄の布巾(1,650円)。
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右/「月山山麓 メルローヴィンテージ」(720ミリリットル・2,600円)。左/鶴岡市西荒屋地区産の甲州ブドウを100パーセント使用した「月山ワイン 西荒屋甲州」(750ミリリットル・2,750円)。
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山形県産の食品から手工芸品まで、豊富なアイテムが揃う店内。
庄内藩校 致道館
TEL 0235-23-4672
山形県鶴岡市馬場町11-45
9:00AM~4:30PM
水曜、12/29~1/3休
入館無料
SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE
TEL 0235-25-7424
山形県鶴岡市北京田下鳥ノ巣23-1
おひとり様1泊朝食付12,640円~
HOUSE清川屋
TEL 0235-29-3111
山形県鶴岡市馬場町8-13 鶴岡商工会議所会館1階
9:00AM~5:30PM
無休
酒田 北前船で栄えた町の名残を味わう
鶴岡が武家の町だったのに対し、酒田は北前船の寄港地として繁栄した商人の町。山形県を貫くように流れる最上川の河口に位置し、舟運を利用して米や内陸の紅花を酒田港に集積。それを主に上方に輸送することで発展した。
江戸時代に北前船の交易で富を築いた本間家は、その繁栄ぶりを「本間様には及びもせぬが、せめてなりたや殿様に」と詠われた大地主。「本間家旧本邸」は、3代目光丘(みつおか)が、幕府の巡見使を迎えるための本陣宿として藩主に献上した屋敷で、武家造りと商家造りが一体となった珍しい建築様式。双方の違いは、木の材質や壁の仕上げ、欄間や梁の細工などに表れているので見比べてみよう。
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玄関前の「門かぶりの松」は、「奢り高ぶらず、つねに低姿勢でいなさい」という本間家の精神を表す。
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幕府の巡見使を迎えた御座敷。質実剛健でありながら、造作の細かいところに当時の豊かさが垣間見える。
米の積出港としてにぎわった酒田の歴史をいまに伝える「山居(さんきょ)倉庫」は、1893(明治26)年、旧藩主、酒井家によって建てられた米保管倉庫。夏の高温防止のため背後にケヤキ並木を配し、内部の湿気防止のために二重屋根にするなど、自然を利用した低温倉庫となっていた。大きく枝を広げるケヤキ並木が、いまも美しい景観を生み出している。
1895(明治28)年建築の旧料亭「山王くらぶ」もまた、酒田の歴史や文化を知るうえで欠かせない場所だ。館内では北前船が運んだ富、その主役となった酒田商人が育んだ料亭文化などが紹介されている。
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海運によって上方文化が入ってきたことから、社交や商談の場として使われた料亭のしつらえや什器は、洗練され華やかだった。その様子を再現した「料亭文化の間」。
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名棟梁といわれた佐藤泰太郎によって建てられた建物。国の登録有形文化財に指定されている。
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曳舟(ひきふね)の様子を表した繊細な建具が美しい「酒田商人の間」。
かつて多くの旦那衆が闊歩した料亭街の坂道は、いまは舞娘坂と呼ばれ、その一角に地元で人気の「寿司・割烹 鈴政 酒田本店」がある。暖簾をくぐると職人の威勢のいい声が響き、庄内浜の旬の味覚に出合える。
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職人の技を目の前で見られるカウンター9席のほか、小上がりや座敷もある。
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「おまかせにぎり」(4,950円~)12貫のうちの一部。炙り、粗塩、柚子こしょうなどで味付けされ、しょうゆをつけずにそのまま味わえる。ネタは季節によって異なる。
本間家旧本邸
TEL 0234-22-3562
山形県酒田市二番町12-13
9:30AM~4:30PM(11~2月~4:00PM)
12月中旬~1月下旬休(ほか展示替え休館あり)
入館料:大人1,100円
山居倉庫
TEL 0234-25-4139(山居倉庫インフォメーションセンター)
山形県酒田市山居町1-1-20
9:00AM~4:30PM(外観見学は常時可)
12/29~1/3休(山居倉庫インフォメーションセンター)
入場無料(外観見学・山居倉庫インフォメーションセンター)
https://www.city.sakata.lg.jp/bunka/bunkazai/bunkazaishisetsu/sankyosouko.html
山王くらぶ
TEL 0234-22-0146
山形県酒田市日吉町2-2-25
9:00AM~5:00PM(入館受付~4:30PM)
12~2月の火曜(祝日の場合は翌平日)、12/29~1/3休
入館料:大人490円(2026年2/27~11/14の特別展は1,000円)
寿司・割烹 鈴政 酒田本店
TEL 0234-22-2872
山形県酒田市日吉町1-6-18
11:00AM~1:30PM(L.O.)、5:00PM~9:30PM(L.O.)(祝~8:00PM(L.O.))
日曜(連休の場合は最終日)、1/1・8/13休
お通し330~550円
山あいと日本海沿いのふたつの温泉宿でくつろぐ
山形県鶴岡市の山あいにある開湯1200年を超える名湯「あつみ温泉」と、日本海に沈む夕陽が美しい「由良温泉」の人気宿を紹介する。
清流、温海(あつみ)川沿いにある「あつみ温泉 たちばなや」は創業から約370年の老舗宿。まず目に入るのは、錦鯉が泳ぎ、緑あふれる日本庭園だ。開放的な大浴場や露天風呂、貸切露天風呂では、まろやかな湯が身を包み、心身をリラックスさせてくれる。客室は広々とした和洋室、庭園に囲まれた温泉付の離れなど、ぜいたくなひとときが期待できる。近年ラウンジやカフェ、みやげ処などがリニューアルされ、さらなる進化を続けている。
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入口は重厚感のある和風のたたずまい。
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開放感あふれる男性用大浴場。外には石造りの露天風呂がある。
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「東館デラックス」は和室12畳+4.5畳(おひとり様1泊2食付 21,050円~)。
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足を伸ばしてくつろげるラウンジ「四季」。奥の小上がりは座面が高く庭の眺めが抜群。
全国渚百選にも選ばれた風光明媚な由良海岸に立地するのは「由良温泉 八乙女(やおとめ)」。全室オーシャンビューの客室からは、由良海岸のシンボルともいえる白山島が眺望でき、日本海に沈む夕陽が眺められる。ホテル前の白砂のビーチは海水浴場になっている。西館・東館があり、展望大浴場、潮風を感じる露天風呂にサウナなど、多彩な風呂を備えている。由良漁港の仲買人の資格をもつ料理長が仕入れる、旬の魚介料理も堪能したい。
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潮風を感じながらゆったりとくつろげる露天風呂からは、沈みゆく夕陽が海に溶け込む美しい景色が広がる。
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海と空が目の前に広がるオーシャンビューのベランダ付「西館客室」(16畳の間)。
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日本海に向かって立つ眺望のよいホテル。
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西館3階の日本海を望む展望風呂。東館にはサウナ付大浴場もある。
あつみ温泉 たちばなや
TEL 0235-43-2211
山形県鶴岡市湯温海丁3
おひとり様1泊2食付18,850円~(サービス料・入湯税込)
由良温泉 八乙女
TEL 0120-23-3831
山形県鶴岡市由良3-16-31
おひとり様1泊2食付19,950円~(サービス料・入湯税込)
取材・文/土井ゆう子 写真/秋田大輔
●取材時期:2025年11月下旬
L.O.=ラストオーダー
※価格は消費税込。
※掲載内容は時期や天候、施設の諸事情により変更となる場合があります。