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おいしい夏がやってくる

山形県 庄内で“美食”に出合う

標高2236メートル、なだらかな裾野をもち「出羽富士」とも呼ばれる鳥海山と、緑の大地が広がる庄内平野。(写真提供:rara/PIXTA)

山形県北西部の庄内地域は、出羽三山や鳥海山などの険しい山々から、広大な庄内平野、日本海へと至る変化に富んだ地形が特徴。そのなかで多彩な食材に恵まれ、豊かな食文化が育まれてきた。この夏はガストロノミーツーリズムをテーマに、庄内地方の食と文化にふれる旅に出かけよう。

2026.05.15

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名シェフがけん引する庄内の美食

「アル・ケッチァーノ」から車を15分程走らせたところにある広大なハウスで、その日に使用するハーブや野菜を収穫する奥田氏。無農薬で育てている。

 地元の旬の食材を使った独自のイタリア料理で、国内外に庄内地方の「食」のすばらしさを発信し続けている料理人・奥田政行氏。日本各地に系列店を展開するが、そのフラッグシップとなるのが鶴岡市にある「アル・ケッチァーノ」だ。店名はイタリア語のような響きだが、実は庄内弁の「あるのよね〜/ここに全部あるからね」という言葉からきているという。

  • 2022年に鶴岡市遠賀原に新築移転した店舗は、田園に囲まれ、月山を望むロケーション。

  • レストラン入口。ランチ5,500円~、ディナー8,800円~のコースを中心に、アラカルトも用意されている。

 「幼いころから普通に食べていたものが、実はすごいものだと気が付いたのは、東京で料理修業をしていたころでした。調べてみたら、庄内には江戸時代から続く在来作物は60種類以上、食べられる魚介は140種類、山菜も100種類前後ある。豚・鶏・牛は当たり前だけど、羊や鴨も育てている。25歳で山形に帰ってから、地元食材にこだわってメニューを考案していたら、世界でここだけの料理になっていた」という奥田氏。

鶴岡産のだだちゃ豆のさやを食べて育つ月山高原花沢ファームの羊。羊を使ったメニューは看板料理のひとつ。

 何を食べているかしっかりわかるように皿の上の食材は3つまでに抑え、その比率は5対4対1が黄金比など、食材のもち味を前面に出すための奥田流のルールが構築されている。

  • 「丸山さんの羊のロースト」(4,000円)。臭みがなくジューシーな羊と鶴岡産ジャガイモを一緒にロースト。合わせたワインも山形県産。

  • 「ノドグロと月山長芋のバルサミコ焼き」(2,500円)。バルサミコ酢をかけて照り焼きにしたノドグロと月山高原産の長芋に、炭塩を振ったひと皿。

  • 「外内島きゅうりのフェデリーニ」(1,500円)。※価格は仕入れによって変動あり

 テーブルには四季ごとの食材の番付表がのっている。「庄内んめもの夏場所」を見ると、東の横綱に白山(しらやま)だだちゃ豆、大関に外内島(とのじま)きゅうり、西の横綱に吹浦(ふくら)岩牡蠣、鼠(ねず)ヶ関アワビ、大関に三瀬(さんぜ)アユなど。夏の食材がびっしりと書き込まれ、その豊かさが可視化されている。ゲストをわくわくさせるとともに、こうして素材の生産者を応援し、未来に食材を継承していくことも考えられているのだ。
 庄内の「食」を知るなら、この店から始めてみてはどうだろう。

各テーブルの上に置かれている食材の番付表。四季でページが分かれていて、眺めていると、異なる季節にまた訪れたくなる。

アル・ケッチァーノ

TEL 0235-26-0609
山形県鶴岡市遠賀原稲荷43
11:30AM~2:00PM(L.O.)、6:00PM~8:00PM(L.O.)
要予約
水曜、年末年始休(ほか不定休あり)

https://alchecciano.com

地産地消にこだわる気鋭のフレンチ

 食材の宝庫である庄内エリアには、これらを使ったフランス料理店が多く根付いている。鶴岡市のフレンチビストロ「Pomme de Terre(ポムドテール)」もそのなかの一軒だ。

シェフとの会話が楽しめるカウンター席。店内は気取らずにリラックスできる雰囲気。

 オーナーシェフの有坂公寿(きみとし)氏は、この土地にフランス料理が根付くきっかけとなった地元の名店で修業した後、東京や仙台での経験を経て2016年に独立。「食材は生産者と直接やりとりをして、郷土風フランス料理を提供しています。古典的なフレンチですが、ビストロの気軽さで、ゲストの8〜9割は地元の人なんです」と有坂氏。

オーナーシェフの有坂氏。「100年以上前のレシピを見たりして、古典的なフレンチを作っています」。

 ここでは、まず前菜盛り合わせをオーダーしたい。肉も野菜も魚介も庄内産。ジャンボンブラン、テリーヌ、スフレなど丁寧に手作りされた品がワンプレートに盛り付けられ、見た目にも楽しくワインがすすむ。季節ごとに何度も通いたくなる魅力にあふれている。

  • スペシャリテの「庄内鴨とフォアグラのパテ・アンクルート」(2,400円)。付け合わせの野菜も厳選している。

  • 「前菜盛り合わせ」(1,500円)。手前から桜美豚(さくらびとん)のジャンボンブラン、月山高原にんじんのラペ、ポワロネギのテリーヌ、赤エビのスフレ、ズワイガニとはえぬきのキッシュ。ワインはチリ産の自然派ワイン「カトララ シャルドネ 2020」(750ミリリットル・14,000円/グラス・2,400円)。そのほか、グラスワインは750~2,500円。

 酒田フレンチを代表する一軒が「Restaurant Nico(レストラン ニコ)」。おいしさはもちろんのこと、ナイフを入れるのがためらわれるほど美しいビジュアルの料理でゲストを虜にしている。

天井が高く、シンプルでありながら温かみのある店内。

 「地元の食材が、組み合わせによってこんなふうに変わるんだということを目で見て驚き、味わって楽しんでもらいたい」と語るのはオーナーシェフの太田舟二氏。

祖父、父ともにフランス料理の料理人という家庭で育った太田氏。

 「黒バイ貝のコロッケ ブルゴーニュ風」は、オープン当初からのスペシャリテだが、徐々に進化を遂げ現在のスタイルに。緑の球体で苔玉のような形状。なかからはレモン風味のバターソースをまとった黒バイ貝がごろごろと出てくる。黒バイ貝はもちろん地元産を使用している。

  • アート作品のような「黒バイ貝のコロッケ ブルゴーニュ風」。ディナーコースの前菜の一例。ランチコースは2,970円、5,500円。ディナーコースは7,150円、11,550円、17,325円。

  • 鳥海山のふもと、遊佐町産の「パプリカのブリュレ」。ディナーコースの前菜の一例。筒のなかはジャガイモと刈谷地区で栽培される梨のソテー、上にパプリカのババロアがのっている。香り付けに遊佐町に蒸溜所があるウイスキーを使用。

 鳥海山(ちょうかいさん)の伏流水が海底から湧き出る海は、夏は岩牡蠣や、アワビ、ガサエビなどが旬を迎える。いずれの店も庄内の風土と人が作りあげてきたこだわりの食材を使用。先人たちから学んだ技法を軸に、創意工夫を凝らして、この土地を感じる、ここにしかない料理へと昇華させている。

Pomme de Terre

TEL 0235-29-2533
山形県鶴岡市昭和町12-61 昭和ビル1階
6:00PM~10:00PM(L.O.)
アラカルトの場合はチャージ400円
日曜、年末年始休(ほか不定休あり)

https://www.pomme-de-terre-shonai.com/

Restaurant Nico

TEL 0234-28-9777
山形県酒田市亀ケ崎3-7-2
11:30AM~2:30PM(1:30PM(L.O.))、5:30PM~9:30PM(料理 ~8:30PM(L.O.)、ドリンク~9:00PM(L.O.)) 
要予約
日曜、12/31・1/1休 
※サービス料:5パーセント(ディナーの2コースのみ)

http://nico-sakata.com/

山伏文化に育まれた精進料理

杉並木の参道に導かれた先に忽然と現れる「羽黒山五重塔」(国宝)。平将門の創建とされ、現在の塔は約600年前に再建されたものといわれている。

 庄内の食文化の奥深さを知るうえで、「羽黒山(はぐろさん)」へも足を延ばしたい。羽黒山、月山(がっさん)、湯殿山(ゆどのさん)からなる出羽三山(でわさんざん)は、古より山伏が駆ける修験道の行場。羽黒山は開祖・蜂子皇子(はちこのおうじ)が難行苦行の末に羽黒の大神を山頂に祀ったといわれ、三山のなかで最も村里に近い場所にある。山頂には羽黒山・月山・湯殿山の三神を合祀した「羽黒山三神合祭殿」があり、そこから少し山を下ると精進料理がいただける羽黒山参籠所「斎館」がある。

  • 羽黒山の入口にあり、聖域への入口でもある隨神門。ここから2446段の石段が始まる。頂上へは羽黒山有料道路を使って車で行くこともできる。

  • 山頂にある「羽黒山三神合祭殿」。茅葺木造建築で国指定重要文化財。

 「出羽三山の精進料理は、修行する山伏が山のなかを歩きまわって食べられそうなものを探し、生きていくために食していたものが起源です。とったものを生で食べていた時代から、ゆでたり、干したり、やがて塩漬けなどのアク抜きの技術が編み出されました。手間ひまをかけ、いろいろなものが食べられるようになり、精進料理と呼べるものになったのだと思います」。こう教えてくれたのは料理長の伊藤新吉氏。

「斎館」で精進料理の道に入って約30年という伊藤氏。

 この地域では先祖代々、山菜をとる人がいて、生えている場所も継承されていく。「山の幸はだれもとらず放っておくと、やがてそこに出なくなります。とる人、作る人、食べる人がいて、循環し、お山も守られているのです。季節ごとのお山の恵みを中心に、地元の在来作物も取り入れた精進料理を作っています」。
 伊藤氏曰く、“精進”とは手間を惜しまず、結果を期待しないこと。山菜は土や虫を取り除き、食べられるようにするまでに、とても手間がかかる。だからといってその味を評価されることを期待することもないという。お膳の上に並ぶ料理は、どれも滋味深く、庄内の豊かな食文化の原点を見るようだ。食べることで元気になれるような気がする。

「精進料理 お膳」(10品+お汁・ご飯・漬物 3,850円)。写真は干し赤コゴミの炒り煮、ごま豆腐の餡かけ、イタドリとトマトの甘酢、浅葱の酢味噌、蕗と蕗の薹のお味噌、宝谷かぶのごまだれなど。内容は季節によって異なる。

羽黒山

TEL 0235-62-2355(出羽三山神社)
山形県鶴岡市羽黒町手向手向7
境内参拝自由
羽黒山三神合祭殿(羽黒山頂):授与所・朱印受付 8:30AM~4:30PM、祈禱受付8:30AM~3:45PM 
隨神門授与所(羽黒山麓):授与所・朱印受付 9:00AM~4:30PM

http://www.dewasanzan.jp/

羽黒山参籠所「斎館」

TEL 0235-62-2357 
山形県鶴岡市羽黒町手向羽黒山33
昼食:11:00AM~2:00PM(3日前までに要予約)
宿泊:おひとり様1泊2食付13,200円~
月2~3日休(公式ウェブサイトなどで要確認)

http://www.dewasanzan.jp/publics/index/64/

取材・文/土井ゆう子 写真/秋田大輔
●取材時期:2025年11月下旬 
※価格は消費税込。L.O.=ラストオーダー
※掲載内容は時期や天候、施設の諸事情により変更となる場合があります。

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