「あをによし」の枕詞とともに、咲く花が照り映えるようと詠われた奈良市の中心部。桜に彩られる季節は、その魅力もひときわ増す。奈良の伝統工芸や季節の味覚にふれながら、古都で美しい春の景色を探してみよう。
2026.02.18
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咲き誇る奈良の桜と伝統工芸を間近に
1300年以上の歴史をもち、世界遺産「古都奈良の文化財」の社寺などが点在する奈良市内は、春になると美しい桜に彩られる。東大寺や興福寺、春日大社などの社寺と豊かな自然の調和が美しい「奈良公園」も、桜の名所のひとつだ。若草山のふもとや鷺池に浮かぶ浮見堂周辺、春日野園地ではヒガンザクラやソメイヨシノ、茶山園地では奈良の県花であるナラノヤエザクラなどが開花する。品種によって3月下旬から4月下旬ごろまで、長い期間にわたって花見を楽しむことができ、天然記念物である「奈良のシカ」の愛くるしい姿とともに旅人の心を魅了する。また、春日大社の神域である春日奥山を源流に、奈良市内から大和郡山市を流れる佐保川の両堤は、約5キロメートルにわたり、市内最大規模の桜並木が続く絶好の散策コースとして知られる。江戸時代末期の奈良奉行・川路聖謨が景観整備の一環で桜を植樹したのが始まりといわれ、いまも「川路桜」の名で親しまれる樹齢約170年のソメイヨシノが一部に残る。
奈良は長い歴史のなかで多くの工芸品が生み出され、いまも職人によって受け継がれている。「なら工藝館」はそんな伝統工芸品を一堂に集めたミュージアムだ。なかでも代表的な奈良漆器、古楽面、奈良団扇、奈良一刀彫、大和郡山市にも窯元がある赤膚焼、奈良筆、奈良墨、奈良晒の8工芸を季節の移ろいとともに紹介。成り立ちや製作道具、材料などと一緒に詳しく解説している。美術工芸品としての価値が高い大家の作品も展示。販売コーナーでは職人や若手作家による工芸品の販売もしている。奈良を訪れた記念に購入してみてもいいだろう。
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空海が日本に伝えたという奈良筆など、各工芸品を解説する常設展示室。筆の穂先に使う動物の毛にふれられるなど、工芸品の特徴がわかるコーナー展示も。
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販売コーナーで扱っている、漆作家・阪本 修氏の「うるしのおはし」(1膳・3,740円~)と、赤膚焼作家・大塩まな氏の「箸置」(各550円)、大塩玉泉氏の「鹿箸置」(各1,000円)。
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日本で唯一の専門店、池田含香堂の奈良団扇(1本・3,960円~)
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ならまちの中心に位置。時期によっては制作体験ができる。
奈良公園
TEL 0742-22-0375(奈良公園事務所)
奈良市登大路町・春日野町ほか
散策自由
なら工藝館
TEL 0742-27-0033
奈良市阿字万字町1-1
10:00AM~6:00PM ※最終入館は閉館30分前
月曜(祝日の場合は翌日)、祝日の翌平日(土・日・祝を除く)休 ※展示替え等で臨時休館あり
入館無料
歴史ある奈良の食文化に舌鼓
かつて都だった奈良は、全国からさまざまな物資が届き、大陸文化もいち早く伝来。国内の食材のみならず、海外の野菜や果物の種はこの地から全国に広まったものも多い。日本の食文化のルーツが奈良にあるとされる理由でもある。
近鉄奈良駅近くの「リストランテ ボルゴ・コニシ」は、オーナーシェフ・山嵜正樹氏が、奈良の生産者や食材と向き合いながら生み出すイタリア料理が味わえる一軒だ。ときには平城宮跡出土の木簡を読み解き、古来の食材を巧みに用いることも。それがイタリア料理として成立しているのは、「奈良がシルクロードでヨーロッパと繋がっていたからかもしれませんね」と山嵜氏。伝統の茶粥をベースに、奈良漬などを使って仕上げたリゾットはその真骨頂。ひと皿ごとのストーリーとともにコースを楽しんでみよう。
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「十津川ゆべし パプリカのアクセント」(奥)など、“ようこそ奈良”をテーマにしたフィンガーフードからスタート。コースは昼8,000円~、夜11,000円~(前日までに要予約)。
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ソムリエの妻・愛子氏とともに山嵜氏が温かく迎えてくれる。
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コースから「奈良漬けのリゾット 大和茶のスープ茶粥仕立て」。
「粟 ならまち店」は、大和伝統野菜をはじめ、エアルーム(家宝種)と呼ばれる海外伝統野菜を自社の畑で年間約100種類以上栽培。コースでは一度で数十種類の野菜を用いるという。「大和伝統野菜は生産量が少ないものの、おいしく、育てやすいことから、県内各地で受け継がれてきました。料理を通じて奈良の豊かな食文化を知ってもらえれば」と店長・新子大輔氏。最後のデザートまで奈良尽くしのコースを古民家でじっくりと堪能してみたい。
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一部のコースで登場する「大和牛のリブロースステーキ」にも大和伝統野菜や海外伝統野菜が添えられる。
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築140年以上の古民家内のあちこちに野菜を飾る。
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コースは昼夜で数種類あり、予約はウェブサイトから。奈良時代の食材・食文化を取り入れたフルコース「はじまりの奈良~来寧コース」(8,800円・4名から・1週間前までに要予約)もある。
薄切りの魚の切り身をごはんにのせ、柿の葉でくるんで押しをかける柿の葉寿司は、奈良県の郷土料理のひとつ。「平宗 奈良店」は創業160年以上の柿の葉寿司の専門店だ。国産真鯖、鮭、穴子など、種類もさまざま。持ち帰りのほか、煮麺などとのセットメニューを店内で味わうことができる。
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「柿の葉ずし盛り合わせ」(1,500円・赤だしまたは吸い物付)や、煮麺などが付く「まほろば」(2,790円・~2:30PM)などが店内で食べられる。
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猿沢池から徒歩すぐ。「柿の葉ずし鯖」(8個・1,689円~)などの持ち帰りができる。
リストランテ ボルゴ・コニシ
TEL 0742-26-5581
奈良市小西町24 フラッツ小西2階
11:00AM~3:00PM、6:00PM~10:00PM(完全予約制)
月曜(祝日の場合は翌平日)休
粟 ならまち店
TEL 0742-24-5699
奈良市勝南院町1
完全予約制
11:30AM~1:00PM(最終入店)、2:00PM(L.O.)
5:30PM~7:00PM(最終入店)、8:30PM(L.O.)
火曜休
平宗 奈良店 本館
TEL 0742-22-0866
奈良市今御門町30-1
10:30AM~8:30PM(飲食 11:30AM~7:30PM(L.O.))
月曜(祝日の場合は翌平日)休 ※ほか不定休あり
歴史と文化を体感する奈良公園の美しきホテル
奈良公園の西端に位置する「紫翠 ラグジュアリーコレクションホテル 奈良」は、大正時代築の奈良県知事公舎をリノベーションしたホテルメイン棟や、新築の宿泊棟、敷地内には日本庭園「吉城園」、旧興福寺子院「世尊院」を改修したカフェも有するホテル。名前の由来でもある「紫幹翠葉」(山々が青々と美しい様子)の古都の情景とともに、滞在中は多彩な施設で奈良の歴史や文化を体感できる。
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床まである窓からの景色と室内のデザインが調和した「スタンダードルームツイン」(1泊12万6,500円~・室料・サービス料込)。「いばら」をあしらった仕切りの意匠も印象的。
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写真は旧興福寺子院「世尊院」をリノベーションしたカフェ。滞在中は敷地内にある「吉城園」の散策もぜひ。池の庭、苔の庭、茶花の庭と茶室からなる。
なかでもホテルメイン棟は、1951(昭和26)年、昭和天皇が奈良巡幸中にサンフランシスコ講和条約と日米安全保障条約の批准書に署名した部屋「御認証の間」など、歴史の舞台にもなった。当時の雰囲気が感じられる、上品な調度を配した隣部屋のラウンジも利用したい。また、レストランは知事公舎の客間を修復・再生。庭園が屏風のように見渡せる空間で奈良の魅力にあふれた食を体験できる。隈 研吾氏設計の宿泊棟は全43室の客室を備え、そのうち23室は温泉風呂付。いずれも奈良の自然を感じさせる色合いでまとめられている。
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日本の独立回復に繋がる歴史の重要な場となった「御認証の間」は概ね当時のまま保存されている。
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室内に温泉を備えた「デラックスルーム ツイン(温泉風呂付)」(1泊15万1,800円~・室料・サービス料込)。
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宿泊棟には奈良の伝統工芸をモチーフにした照明も。
紫翠 ラグジュアリーコレクションホテル 奈良
TEL 075-744-0951(翠 SUI カスタマーエンゲージメントセンター(宿泊予約))
奈良市登大路町62
1泊12万6,500円~(室料・サービス料込)
取材・文/mado.lab 写真/合田慎二
●取材時期:2025年9月上旬
※価格は消費税込。 L.O.=ラストオーダー
※掲載内容は時期や天候、施設の諸事情により変更となる場合があります。