春の奈良の旅は、豊臣秀吉の弟・秀長が城下を発展させた大和郡山市へ。見事な桜が咲き誇る城跡、江戸時代から続く金魚の養殖地、伝統の酒造りなど、この町の歴史と文化が感じられる場所を訪れてみたい。
2026.01.29
豊臣秀長ゆかりの町を歩く
奈良県北部に位置する大和郡山市は、安土・桃山時代に大和・紀伊・和泉におよぶ100万石の中心部として栄えた。大和統一を果たした戦国武将・筒井順慶が郡山城主の築城を開始。1585(天正13)年には、豊臣秀吉の右腕として天下統一への道を支えた弟の秀長が、居城にふさわしい大改修を行って城下を発展させた。以降は郡山藩主の居城となり、江戸時代の町割りが残る市街地にはいまも古い商家や町家が点在している。
「史跡郡山城跡」は往時の曲輪や石垣、堀が残る城郭中心部を整備。明治の廃城で失われた追手門や櫓などを再建している。桜の名所としても知られ、「さくら名所100選の地」にも選定された。ソメイヨシノをはじめ、ヤマザクラ、枝垂れ桜、八重桜など、多彩な品種が植えられている。開花時期には毎年お城まつりが行われ、多くの花見客が訪れる。
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天守台の石垣を修復整備した展望施設からの眺め。敷地内に移築された近代和風建築の旧奈良県立図書館をはじめ、若草山や薬師寺、平城京大極殿も眺められる。
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敷地内には郡山城や郡山藩主・柳澤家の史料を収蔵する地方史誌専門図書館「柳沢文庫」がある。
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天守台石垣のさかさ地蔵。築城を急いだため五輪塔や石仏などが石垣に多く用いられた。
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築城400年を記念して再建された追手門には、豊臣家の家紋「五三桐紋(ごさんきりもん)」が輝く。
秀長は城下町発展のために商工業を保護する一方、当時は画期的な、箱本制度と呼ばれる城下の13の町による自治制度を制定した。藍染めの職人町だった紺屋町は箱本十三町のひとつ。「箱本館「紺屋」」は江戸時代築と伝わる藍染め商家の建物を再生し、金魚を意匠とした数々の美術工芸品を展示・公開している。
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施設の工房で染めたハンカチなどの藍染めの品。
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吹き抜けの土間に金魚アートや藍甕が並び、建物内には郷土・金魚研究家が寄贈した美術工芸品などの金魚コレクションを展示。
同じく箱本十三町の柳町では、創業400年以上と伝わる和菓子店「本家菊屋 本店」に立ち寄りたい。秀長が秀吉をもてなす茶会の菓子を初代に依頼し、献上したのが始まりという「御城之口餅」は、粒餡を餅で包み、きな粉をまぶしたもの。茶店の風合いを残す建物も趣深い。
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丹波大納言小豆、近江産羽二重糯(もち)、国産青大豆のきな粉を使う「御城之口餅」(6個・800円)。秀吉は鶯(うぐいす)餅と命名したが、同店が城門を出て町の一軒目にあったことから御城之口餅の名が定着した。
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天井に飾る古今の菓子木型が同店の歴史を物語る。
史跡郡山城跡
TEL 0743-52-2010(大和郡山市観光協会)
奈良県大和郡山市城内町
散策自由(天守台展望施設・極楽橋通行7:00AM~7:00PM(10~3月 ~5:00PM))
箱本館「紺屋」
TEL 0743-58-5531
奈良県大和郡山市紺屋町19-1
9:00AM~5:00PM
月曜(祝日の場合は翌平日)、祝日の翌平日、年末年始休
入館無料
本家菊屋 本店
TEL 0743-52-0035
奈良県大和郡山市柳1-11
9:00AM~6:30PM(1/2・3 ~5:00PM)
1/1休
大和郡山で育まれてきた金魚の養殖と酒造り
大和郡山市は、全国シェアの約6割を占める金魚の一大養殖地でもある。その歴史は江戸時代、金魚の飼育を趣味にしていたという柳澤吉里が、甲斐国から郡山藩主として入った際に始まる。幕末は藩士の、明治維新後は職を失った武士や農家の副業として規模を拡大。農業用のため池が多いなど、水利に恵まれていたことも産地に発展した理由だ。現在も市内の新木町一帯には金魚の養殖池が広がり、販売数は年間約4300万匹におよぶ。「郡山金魚資料館」は、金魚養殖を手がけるやまと錦魚園が公開しているミュージアム貴重な品種を含めた金魚約30種類を展示しており、資料室では金魚にまつわる多数の文献も見ることができる。定番の和金型や、出目金などの琉金型、頭部に肉瘤があるオランダ型、らんちゅう型など、多種多様な金魚を飼育する敷地内の養殖池もぜひ見ておこう。
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約300年の歴史を誇る大和郡山市の金魚養殖。毎年4月に「史跡郡山城跡」内の柳澤神社で「金魚品評会」、8月に市内で「全国金魚すくい選手権大会」を開催。
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金魚の養殖池が並ぶ風景は大和郡山ならでは。数は減りつつあるものの、いまも約40戸が約50ヘクタールで養殖している。
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貴重な古書から浮世絵、近年の図鑑、解説本まで、金魚にまつわる資料を多数展示。
一方、史跡郡山城跡にも近い、「金魚ストリート」とも称される柳町商店街の一角には、1853(嘉永6)年から酒造りを行ってきた中谷酒造の「中谷酒造 柳町醸造所」がある。同社は清酒発祥の地として知られる奈良市の正暦寺に近い、いまも環濠集落が残る大和郡山市番条町が創業地。いち早く中国に進出するなど、海外にも清酒を広めている。「清酒を飲むだけではなく、文化から理解してもらいたい」という代表・中谷正人氏の想いのもと、2022年に開業したこの醸造所では、全国でも珍しい日本酒の体験醸造を行っている。吸水から蒸米、放冷、仕込までの工程を体験でき、合間には中谷氏による日本酒の歴史や製造工程に関する講義も。約4時間のプログラムを通して、清酒や酒造りの文化をぐっと身近に感じることができる。施設内には清酒バーもあり、体験時はもちろん、城下町の散策でも立ち寄って、気軽に同社の清酒を楽しみたい。
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施設内で販売している「大和大納言 豊臣秀長 磨き6割」、「大和郡山 中谷」(各720ミリリットル・各2,200円)。清酒バーは清酒を注文(90ミリリットル・300円~)すれば利用できる。
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「体験醸造」(720ミリリットル×2本付・9,000円)は公式ウェブサイトから2日前までに要予約。体験後、約3~4週間で清酒が受け取れる(配送可)。
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施設は2階を江戸時代の酒蔵の作業台に見立て、吹き抜けの構造に。
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展示されている桶は酒母(しゅぼ)を造るのに使われたもの。
郡山金魚資料館
TEL 0743-52-3418
奈良県大和郡山市新木町107
9:00AM~5:00PM
月曜休
入館無料
中谷酒造 柳町醸造所
TEL 0743-85-7281
奈良県大和郡山市柳二丁目4
1:30PM~7:00PM(変更の場合あり)
月・火休(祝日は開館)
取材・文/mado.lab 写真/合田慎二
●取材時期:2025年9月上旬
※価格は消費税込。
※掲載内容は時期や天候、施設の諸事情により変更となる場合があります。