旅といえば観光名所や名物グルメが定番だが、旅の魅力はそれだけではない。ふとした瞬間に触れる“生活の温度”に、心を動かされることもある。そんな土地の素顔に近づける場所のひとつとして、道の駅やご当地スーパーがあるのかもしれない。
今回訪れた徳島では、人気の道の駅から地元密着スーパーへ向かう短い移動のあいだに、多層的な食文化が、街の風景のなかに溶け込んでいた。鳴門金時の甘さ、すだちの香り、とれたての海鮮のみずみずしさ──。土地の日常に根付く食文化に触れると、旅はぐっと深まる。
観光だけでは見えない“徳島の素顔”を訪ねる、小さな食の旅へ。
2026.03.05
食の宝庫・徳島の魅力を訪ねて
四国の東側に位置する徳島県は、海・山・川の恵みが折り重なる食の宝庫だ。播磨灘、紀伊水道、太平洋の3つの海で水揚げされる魚介類、肥沃な土壌が育てる野菜や柑橘類、阿波尾鶏や川魚。豊かな自然を背景に独自の食文化が育まれ、“知られざるグルメ県”としての一面も持つ。四国と関西をつなぐ地形ゆえ、昔から人と文化が往来し、“文化の入り口”として発展してきた。
徳島の旅の最初の目的地が、鳴門市にある「道の駅くるくる なると」。2022年に誕生した新名所で、巨大な鳴門金時のオブジェに迎えられると、まるでテーマパークの入り口のような高揚感が広がる。
鳴門の恵みを凝縮したマルシェとスイーツ
入館した瞬間、館内にふわりと甘い香りが広がる。1階のマルシェには、鳴門金時、鳴門わかめ、徳島れんこん、すだちなど、地元の恵みがずらりと並ぶ。
「商品数は約2,500点。そのうち150点がオリジナルです。『ここに来れば新しい徳島に出合える』と思っていただけるよう商品を企画しています」と、店長の藤井沙都さん。
試食・試飲ができるデモキッチンでは、スタッフがレシピやアレンジを紹介。訪れる人たちの「おいしい!」の声が、鳴門の食文化の多彩さを教えてくれる。
-
マルシェには生産者から毎日届く地元中心の農産物のほか、寿司や惣菜、試食コーナーなど多彩な専門店が集結。
-
オリジナルの鳴門鯛・鳴門金時のクレーンゲームなど遊び心あふれるコーナーも。
入館したときに感じた香りの源は「ベーカリー イモホレタ」だった。名物の「おいもあんぱん」は、なんと1日2,000個以上も売れた大ヒット商品。焼き立てが1時間おきに棚に並ぶ“ライブ感”も魅力だ。焼き立てが補充されると、次々と手に取られ、あっという間に売れていく。
-
人気の「おいもあんぱん」(330円)。焼き立ての生地のなかには鳴門金時を使用した“おいも餡”がぎっしり。
-
鳴門の塩を混ぜ込んだ餡は、芋の甘さを引き立てしっとり濃厚で上品な甘さ。
隣接する「ナルトエエモン」では「鳴門金時うずまきソフト」を。濃厚な金時ペーストと、和三盆を使用したミルクソフトがふわりと溶け合う。さらに、お芋専門店「芋屋鳴福」のアナウンスに誘われ向かうと、山積みの「極細けんぴ」が次々と店頭からなくなっていく。鳴門金時の人気と実力を思い知る瞬間だった。
-
渦潮をモチーフにした「鳴門金時うずまきソフト」(480円)。
-
鳴門金時のモンブラン、クリーム、大学芋が三位一体に。
-
極細の鳴門金時に蜜と鳴門の塩をからめた「極細けんぴ」(580円)。1時間ごとに登場し、すぐに売り切れる名物。
-
カリッと軽やかな食感で、手が止まらなくなるおいしさ。
道の駅の域を超えた“本格食堂”
お肉と野菜を楽しむカフェ「ホレタテキッチン」では、「阿波黒牛の鉄板牛ステーキ」や、「鳴門わかめとアサリのボンゴレ」など多彩なメニューが充実。なかでも最近人気なのが、すだちと阿波尾鶏を使ったフライドチキンバーガー。ジューシーな鶏肉に、すだちの爽やかな後味がクセになるおいしさだ。
1階奥にある「大渦食堂」では、徳島産を中心とした海の幸を豪快に盛り込んだ海鮮丼が名物。「くるくるなるどん」は鳴門鯛やタコ、すだちぶり、鳴門わかめが入った贅沢な一杯で、すだちを搾れば爽やかな風味が広がる。一方の「大渦5色丼」は、鮮やかな厚切りの魚介がたっぷり入った食べ応えのある一杯。どちらも定番のさしみ醤油や胡麻ダレ、しめは出汁茶漬けと、三段階のおいしさが楽しめる。
-
鳴門の景色が一望できる屋上広場。見晴らしデッキやベンチもあり、のんびりくつろげる。
-
竹ちくわや鳴門鯛など、徳島の特産品をモチーフにした遊具は子どもに大人気。
-
水・金・土・日限定のジップライン(事前予約制)も好評。鳴門の景色を眺めながら空中散歩を。
地域と連携し、埋もれた素材を価値へ変えていく
「道の駅くるくるなると」のコンセプトは、「食べる・買う」を超えた“食の体験型テーマパーク”だ。地元の農家や漁業者、企業と連携し、眠っていた素材の魅力を掘り起こし、商品企画の力で新しい価値へと再編集していく。
「徳島には魅力的な素材が多いのに、活かしきれず埋もれている部分もある。だからこそ、心に残る体験とともに素材の可能性を立ち上げたいんです」と、藤井店長は言う。
150点にのぼるオリジナル商品は、味はもちろんネーミングやパッケージデザインまで丁寧に設計。生産者が店頭に立つ試食販売も好評という。「作り手の思いが見える売り場をもっと増やし、地域から全国へ魅力を届けたいですね」と、藤井店長。
産地と商品企画をつなぎ、地域素材を新たな名物へと昇華させていく──。鳴門の食文化をアップデートし、全国へ魅力を発信する、新しい道の駅のかたちを体感するひとときだった。
“徳島の暮らしのリアル”が見える台所
道の駅を後にし、徳島市街地へと車を走らせる。吉野川の広い川幅を越えた瞬間、空気の質がほんの少し変わる。観光地の胸躍る空気から、生活圏へそっと潜り込んでいくような感覚だ。
向かったのは、地元で27店舗を展開するスーパー「キョーエイ」の旗艦店・沖洲市場店。徳島市中央卸売市場から車で約3分という立地を活かし、2022年のオープン以来、生鮮品の強さで評判だ。
店内に入ると、まず青果の生命力に圧倒される。キョーエイ名物の「すきとく市」には2,100人以上の生産者が参加し、県内11ヶ所の集荷場から届く採れたての野菜や果物、そして手づくりの加工品が並ぶ。
「生産者さんが農作物に自分で値段をつけて、好きな量だけ出荷できる“現代版の楽市楽座”なんです」と店長の戸川稔大さん。顔写真入りPOPや手書きのメッセージが温度を添え、生産者が軽トラックで直接納品する光景も珍しくないと言う。
「天候や作柄などを話題に生産者さんと日常的に会話するんです。その関係性が、鮮度や品質の維持につながっていると感じます」と戸川店長は笑う。
-
市場のような活気にあふれた青果コーナー。鮮やかな色合いの鳴門金時、すだち、生しいたけ、蜜柑などの地の恵みがずらり。
-
キョーエイで20年近く続く「すきとく市」。農産物から味噌などの加工品、手作りの赤飯や芋けんぴ、田舎まんじゅうまで揃う。
-
生産者のPOPが目を引く青果コーナー。
-
「新鮮な野菜や果物が手に入ると、お客様からも喜んでいただいています(戸川店長)」。
市場の延長にある鮮魚・精肉・惣菜
キョーエイ 沖洲市場店の象徴と言えるのが、鮮魚部門だ。「中央卸売市場が近く、競りで買った鮮魚が抜群の状態で届きます」と戸川店長。キハダマグロ、ブリ、カワハギなど旬の魚が光沢を放ち、1尾買いも可能だ。広い調理場を併設し、無料の下処理サービスは毎日50件を超える。
注目は寿司部門の「沖鮨」。鮮魚コーナーのスタッフが朝に捌いた生ネタだけを扱い、1貫100円から買える気軽さと品質の高さが魅力だ。
惣菜コーナーには、徳島の家庭文化がそのまま息づく。お好み焼きやちらし寿司、煮物にも登場するという金時豆。ほんのり甘い豆が料理を優しく包み込むのは、徳島ならではの食文化だ。
さらに“徳島県民のカツ”と言われるほどの存在感を放つ、フィッシュカツも見逃せない。カレー風味のスパイスがきいた一枚は、おかずにもつまみにも万能だ。「祖母の家では、親戚が集まると必ずフィッシュカツが出てきましたね」と戸川店長が懐かしそうに笑う。
ほかにも、阿波自然鶏を使った圧力釜フライドチキンや本格ピザなど、幅広い世代に愛される味も揃う。
グロサリー売り場には徳島製粉の商品が棚一面に並び、懐かしさを感じるパッケージの即席めんが旅人を迎える。名物の「半田そうめん」の太さ、「祖谷そば」の素朴さ、「大野海苔」の香ばしさ。軽くて持ち帰りやすいこともあり、地元客だけでなく出張者の土産としても人気だ。
-
精肉コーナーでは阿讃高原牛、阿讃自然豚、阿波自然鶏など、キョーエイオリジナルのブランド肉が並び、大容量のメガパックも人気。
-
徳島製粉のラインアップが一同に。
-
徳島名物ボウゼ(イボダイ)の姿寿司。酢で締め、すし飯を詰めて押し寿司にした郷土料理。
-
季節の野菜や錦糸玉子に加え、金時豆をちらした「田舎ちらし」。
-
店内には阿波踊りや地元企業のイラストが並び、地域密着の姿勢が表れる。
キョーエイの理念は「市民生活を守る砦となれ」。海の藍色を基調にした店内には、徳島の名所や名産物のイラストが散りばめられ、地域とともに呼吸する姿勢が滲む。日々の暮らしを支える営みのなかに、徳島の文化は静かに、しかし確かに息づいていた。
地域の暮らしとともに息づく場所が、旅を深くする
「道の駅くるくるなると」と「キョーエイ 沖洲市場店」。かたちは違えど、どちらにも共通していたのは、地域とともに息づく姿勢だった。鳴門の素材を体験として編み直す場所と、日々の暮らしをそのまま棚に映す場所。どちらも、土地の素顔が濃くにじみ出る“文化の入口”のように感じられた。
観光名所が“整えられた表情”だとすれば、道の駅やご当地スーパーには生活者の視点がそのまま宿っている。並ぶ食材の色、POPの手書き文字、カゴに入るいつもの食材──。そこには、旅人だからこそ気づける文化の視点があった。
空港へ向かう車内で、袋いっぱいの荷物を抱えながら思ったことは、「旅とは、こうした生活の断片を持ち帰ることなのかもしれない」ということ。
観光だけでは触れられない生活文化に触れた瞬間、旅の解像度は静かに深まる。徳島での小さな寄り道は、そんな旅の本質をそっと思い出させてくれる時間だった。
道の駅くるくるなると
TEL 088-685-9696
鳴門市大津町備前島字蟹田の越338-1
9:00AM-5:00PM
無休
キョーエイ 沖洲市場店
TEL 088-602-8820
徳島市北沖洲1-61-1
9:00AM-9:00PM
無休(元日は休業)
取材・文/渡辺満樹子 写真/中村宗徳 編集/都恋堂(栗林拓司)
●取材時期:2025年12月上旬
※掲載内容は時期や天候、施設の諸事情により変更となる場合があります。