奥多摩の森で、 五感がよろこぶクラフトビール体験の代表イメージ

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今度の週末は、プチ贅沢なトリップを

奥多摩の森で、
五感がよろこぶクラフトビール体験

東京都奥多摩を拠点にするブルワリー「VERTERE」。駅前にある森の静寂に包まれた古民家のタップルームは、週末にはビール愛好家やレジャー客が訪れ、地域の名所となっている。

造り手の個性や地域性を反映した、ユニークな味わいや香りが魅力のクラフトビール。ビールが好きになればなるほど気になるのが、「ビールって一体どうやって作られているの?」ということ。今回は、クラフトビールブームを牽引する奥多摩のマイクロブルワリー(小規模なビール醸造所)「VERTERE(バテレ)」が週末に開催している「Brewery Tour / 醸造所ツアー」に参加して、“一期一会”のビール体験を愉しんだ。

2025.12.05

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奥多摩の大自然に溶け込む、体験型ブルワリー

 駅を出ると、清々しく澄んだ山の空気に包まれる。目の前には鮮やかな緑の稜線が広がり、清らかな川のせせらぎが心を癒す。東京の西端、秩父多摩甲斐国立公園の大自然の中にあり、美しい自然風景と懐かしい山村文化が溶け合う奥多摩。憩いのひとときを求めて、週末には多くのハイカーやレジャー客が訪れる。

 そんな奥多摩の自然に包まれ、クラフトビールブルワリー「VERTERE(バテレ)」はある。2014年、都内に住む2人の若者によって設立されたバテレが想い描いたのは、「“誰と・どこで・どうやって”飲むかを想像し、心に残るビール体験を創造すること」。このビジョンをもとに物件を探すなかで、たどり着いたのがここ奥多摩だ。2人は築70年の古民家をリノベーションして拠点を造り、「飲んだ人の心に残り、価値観を変えるビールづくり」をコンセプトに醸造をスタート。以来、多彩で個性的なビールを次々に生み出し、多くのクラフトビールファンを魅了してきた。

2024年2月に開設した新ブルワリー&ボトルショップ。週末限定でオープンし、ブルワリーツアーも開催する。

 今回訪れたのは、奥多摩駅から徒歩20分ほどの場所にある、広大な敷地を持つ新しいブルワリー。週末限定の見学ツアーでは、スタッフとともに施設内を巡りながら醸造過程を間近で見られるほか、ビールのテイスティングも愉しめる。

知る、触れる、感じる。ビールの奥深さを体感するツアー

 柔和な笑顔で出迎えてくれたのは、醸造スタッフの一人。見学の説明とあわせて差し出されたウェルカムドリンクは、奥多摩産のじゃがいも使った淡色のラガー「エラトー」。やわらかな飲み口のなかに華やかなホップのアロマと自然な甘みが広がり、期待が高まっていく。

  • 日替わりのウェルカムドリンク「エラトー」。奥多摩産の「治助イモ」を使用した優しい味わいのラガー。

  • 飲むとホップが醸し出すハーバルやフローラルのアロマが重なり合い、穏やかな余韻を残す。

 ブルワリー内に足を踏み入れると、巨大なステンレスタンクが整然と並ぶ姿に圧倒される。麦芽の甘く香ばしい香り、ハーブや柑橘を思わせるホップの香りなど、さまざまなアロマが入り混じる有機的な空間が広がる。

大きなタンクが立ち並ぶブルワリー。約1ヵ月間をかけて仕込み、発酵、熟成、缶詰めの工程が行われる。

 もともと奥多摩駅前の店舗で、150リットルの寸胴鍋から醸造をスタートしたというバテレ。以降、定番のIPAやサワーエールなど、ホップを存分に活かした多彩なラインアップでファンを増やしてきた。すると、需要に対して生産量が追いつかなくなり、昨年この新ブルワリーを開設。「仕込みは週2回。1回の仕込みで2000リットル、開設前と比べて約4倍の生産ができるようになりました」と醸造スタッフ。

 ビール作りの原料は、麦芽(モルト)、ホップ、酵母、水の4つが基本。まず案内されたのは、ビールの主原料となる麦芽の倉庫だ。「麦芽は、大麦を発芽させて焙煎したもの。バテレではドイツ・イギリス・北米のものを中心に8〜10種類を使い分けます。麦芽の量でアルコール度数、種類と比率で色と味が決まります」と醸造スタッフ。差し出された麦芽を試食すると、豊かな香りと香ばしい滋味が口中に広がる。

  • 麦芽は1回2000リットルの仕込みで500〜850kg使用。ビアタイプによってオーツ麦・小麦も使用する。

  • 焙煎の深さによって麦芽の色や味わいが異なり、ビールの風味も大きく変わる。

  • 麦芽の食べ比べ。シリアルのような香ばしさや、麦茶を思わせる苦みを感じるものまでさまざま。

 続いて、麦芽からビールのもとになる“麦汁”を造りだす「仕込み」のプロセスへ。粉砕した麦芽を仕込みタンクに投入し、お湯を加えて攪拌すると、麦芽の酵素が働いてでんぷんが糖へと変わる“糖化”が始まる。ここから麦芽やカスを濾過した麦汁を煮沸殺菌し、苦味や香りづけのホップを加えて冷却すると、“ビールのもと”ができあがる。見学では、仕込みタンクの中を覗かせてもらえる機会も。こうして造り手の話を聞きながら間近で見学できるのも、小規模ブルワリーならではの体験だ。

  • 麦芽を粉砕器の上から落として粉砕し、タンクへ。粉砕することで麦芽に含まれているでんぷんが抽出しやすくなる。

  • タンクの中で麦芽とお湯を攪拌。かつてはこの作業を手作業で行っていたのだとか。

  • ホップを入れる小窓から中を覗く。麦汁をとった後の麦芽やホップのカスは、地元農家で肥料として使われる。

 続いて「発酵・熟成」の工程へ。麦汁を発酵タンクに移して酵母を加えると、酵母がアルコールと泡(二酸化炭素)を生み出す「発酵」のプロセスが始まる。バテレではこの発酵の段階で、さらに風味や香りづけのためのホップ(ドライホップ)を加えていく。

 「ホップはアメリカやニュージーランド、ヨーロッパのものなど約30種を使い、出したい香りや味、ビアタイプで種類や量を決めます。発酵の要となる酵母は約10種類。ここに奥多摩の軟水を加えて、酵母の良さを生かすために非加熱処理で醸し、3週間ほど熟成させます。ブルワーの仕事は、温度やpHの調整、発酵の進み具合をチェックすること。あとは自然や微生物に任せれば、ビールが勝手に美味しくなってくれるんです」と醸造スタッフ。

  • 発酵タンクは2400リットルが10基、4800リットルが4基あり、年間約20万リットルを生産。週2回の仕込みごとにタンクの中身を入れ替える。

  • 仕込んだばかりの発酵タンクでは、発生した二酸化炭素がホースを伝い、バケツの水の中でボコボコと泡を立てていた。

  • ホップを潰して固めたもの。ハーブや果物、スパイスを思わせるフレッシュな香り。

  • 奥多摩は気温の変化が大きいため、ブルワーは温度や湿度の調整に特に気を配る。

変化と進化を繰り返し、一期一会のビールを生み出す

 バテレの醸造チームは4人。スタッフでアイデアを出し合いながら、毎月1〜2種類の新作をリリースしている。これまで出した商品数はなんと200種以上。多彩な素材を使い分けての小ロット醸造を続けるなかで、スタッフが大事にしているのは「常に変化と進化を続けていくこと」だという。

 「VERTEREはラテン語で『変化する』『変える』という意味。クラフトビールは季節、素材の組み合わせや量、使うタイミングを少し変えるだけでも味わいが大きく変わってきます。同じ名前のビールでも次回はもっと美味しくなるように、季節と素材を見極めながらレシピを変えています」(醸造スタッフ)

 既存のスタイルに固執せず、変わることを愉しむこと。絶えず新しいチャレンジを続けながら、新しい可能性を追求していくこと──。それがバテレのスタッフに共通する価値観であり、その哲学こそが、いまここでしか味わえない、一期一会の味わいを生み出しているのだと実感する。

 そんなバテレの価値観を体現するのが、ボトルデザインだ。白地に写真が映える静謐(せいひつ)な佇まいのボトルラベルは、美術館やアート鑑賞から着想を得たもの。写真撮影やデザインは社内スタッフが手がけ、名前はラテン語の植物学名などから付けられているという。「飲んだ時の印象を大切にしてほしいという想いから、ボトルのデザイン・商品名・味に極力関連性を持たせていません。クラフトビールの魅力は、造り手も飲み手も自由なところ。『こんなビールです』『こう感じてほしい』と決めるのではなく、先入観なく自由に愉しんでほしい。これが私たちの考え方です」(醸造スタッフ)

  • 缶ビール充填機はカナダ製。発酵タンクとホースで繋ぎ、充填作業を行う。

  • 次々と缶に充填されていくビール。この後ラベルを付けて完成。

  • 室温-2℃の倉庫では、樽や缶ビールのほかホップや酵母などの素材を保管。ビールは奥多摩駅前、立川、永福町の各タップルームのほか、飲食店や顧客のもとへ運ばれる。

旅先のブルワリーで味わう、非日常のビール体験

 見学の最後は試飲タイム。できたてのビールが並ぶ冷蔵庫から、日替わりで4種類のビールが愉しめる。ツアーの余韻とともにいただいたのは、コリアンダーや柑橘が香るリトアニア産酵母のウィートエール、乳酸菌由来の酸味を感じるフレッシュな味わいのサワーIPA、インド式チャイを使用した濃厚なチャイラテスタウト、複数の果物のアロマが口の中で弾けるジューシーなIPA。驚きに満ちた多彩な味わいに、五感が刺激され、全身の意識がほどけていく。まさに、クラフトビールの自由な想像性を再認識するひとときだった。

  • ボトルショップの缶ビールは常時約30種。地元の生産者や飲食店、ほかのブルワリーとのコラボ商品も展開し、日によって異なるラインアップが愉しめる。

  • この日のビールは、左からリトアニア産酵母を使ったウィートエール「ホーティア」、ホップと乳酸菌による多層的な味わいのサワーIPA「アンソカリス」、スパイシーな香りと甘味が広がるチャイラテスタウト「グロバ」、多様フルーツを感じるジューシーなIPA「カシミロア」。

  • 醸造スタッフと対話しながら飲めるのもツアーの醍醐味。「幅広い種類を作っているため、どんな人でもお好みの一杯が見つけられるはず」というスタッフの言葉に表情がほころぶ。

  • Tシャツ、バッグ、キャップなどのアパレルやグラスなどのオリジナルグッズも評判。

旅の締めくくりは、奥多摩駅前のタップルームへ。

 ブルワリーを後に向かったのは、奥多摩駅前の裏路地に佇む古民家のタップルーム。地元の杉の木を使ってリノベーションした温もりある空間には、里山が一望できる気持ちのいいテラス席を併設。樽出しのタップは、人気のIPA系を中心にラガー系・黒ビール・サワーIPA系など常時10種を揃え、ホットドッグや唐揚げ、フィッシュ&チップスなどのフードも用意する。

 窓外の木々を眺めながらいただいだのは、奥多摩店限定のDDHヘイジーIPA「パパパシフローラ」。ドライホップを贅沢に使ったビールは、トロピカルフルーツのアロマと繊細な苦味が口のなかで弾け、おもわず感嘆の声が上がる。さらに一口飲むごとに、背景にある奥多摩の水や森の空気までが重なるのを感じる。ビールそのものはもちろん「どこで誰とどうやって飲むか」というバテレのビジョンが、身体にすっと沁みる瞬間だった。

  • バテレ好きが高じて働き始めたというスタッフ。「常に変化していく風土がバテレの魅力。いつも新しい発見があり、飲み飽きません」

  • 樽出しのタップは常時10種類。なくなり次第新しいものに変わる。

  • 特に新緑、紅葉の季節はハイカーやレジャー客で賑わう。

  • この日いただいたのは定番IPA「パシフローラ」に倍以上のホップを使ってアレンジした、奥多摩店限定ビール。

 五感をフル活用して、ビールの奥深さを立体的に体験したブルワリーツアー。地域や自然、人の営みによって変化するクラフトビールの魅力を再発見させてくれる、豊かな時間だった。
「もっとビールを深く愉しみたい」──。そんな人はぜひ非日常のビール体験を求めて、気軽な週末旅に出てみてはいかがだろうか。

VERTERE Brewery & Bottle Shop

住所:東京都西多摩郡奥多摩町氷川1099
営業時間:10:00AM-5:00PM(土・日)
定休日:月〜金曜 ※年末年始などは不定休
※JR青梅線奥多摩駅より徒歩約20分、西東京バス病院前バス停より徒歩約3分
※駐車場15台・立川、永福町にもタップルームあり。

http://verterebrew.com/

ブルワリーツアー

【開催日】土・日 ※スケジュールにより休みあり
【時間】第1部 10:30AM-正午、第2部 2:30PM-4:00PM(所要時間1時間30分)
【定員】各回10名
【料金】1人3,500円(税込)
試飲あり:5種類のビールのテイスティング(1種類あたり約150ml)試飲なし:お土産ビール(500ml缶1本) ※ビールの種類は毎回異なる
【申し込み方法】

オンラインショップにて希望日を選択のうえ事前決済

VERTERE Okutama Taproom[本店]

住所:東京都西多摩郡奥多摩町氷川212
営業時間:11:00AM-7:30PM(土・日・祝日)
定休日:月〜金曜 ※年末年始などは不定休

取材・文/渡辺満樹子 写真/鈴木愛子 編集/都恋堂(栗林拓司)

●取材時期:2025年9月上旬
※掲載内容は時期や天候、施設の諸事情により変更となる場合があります。

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