家事や食事をはじめ、毎日の身近なシーンで使う日用品ほど、手に馴染み、使い心地のいい品を選びたいもの。消耗品といえるアイテムも、職人の手により計算し尽くされた逸品は、日々の暮らしに輝きを与えてくれる。世界に広がる「Made in Japan」の真価を、あらためて肌で感じてみたい。
2026.02.18
硬く密度の高い銘木を使い、機能性にこだわった江戸木箸
食事に欠かせない箸。なかでも「江戸木箸」は1987(昭和62)年に創業した「大黒屋」が、ほかの産地と差別化するために命名した登録商標だ。「大黒屋」には、四方面、五角、六角、七角、八角、丸形、小判、さらに納豆用、卵かけご飯用、ラーメン用など、用途に合わせた多様な形状の箸があり、店内には200種類以上が並ぶ。
「箸は、食べ物を口に運ぶ“命の箸渡し”をする大切な道具です。手の大きさや感覚は人それぞれで、自分が使いやすいと感じる箸は、長さ・太さ・形・重さなど千差万別。実際に手に取って、握って、操作性のいいものを選んでいただきたい。そうすれば食事の邪魔をせず、よりおいしく食べることができる箸に出合えるはずです」。こう話すのは二代目社長の丸川徳人(とくひと)氏。
使用する木材は、縞黒檀(しまこくたん)や鉄木など。塗りをメインにした箸は、漆をよく吸うように比較的軟らかい木材が使用されるが、木地を生かす拭き漆仕上げの江戸木箸は、硬く水に強い木を使用する。
箸の形状は、小割(棒状)にした木をベルトサンダーという機械で削り出して作る。定規などは一切使わず、職人の感覚だけで箸頭から箸先まで一定の形に削り出すため、熟練の技が必要だ。五角形、七角形など、削る面が奇数になるとさらに難度が上がるが、握る部分は七角形で、箸先は五角形に仕上げた「七五削り箸」という品もある。
箸の操作性で大切なのは、食べ物をつまむ箸先一寸(約3センチメートル)。硬い木材を使っているからこそ、細く繊細に仕上げることができる。厳選した銘木の素材そのもののよさを生かして一本一本手作業で作られ、修理やメンテナンスも可能。一生ものの箸に出合えるだろう。
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左から、「極上 五角削り箸 縞黒檀」(7,700円)、「極上 七角削り箸 縞黒檀」(8,800円)、「極上 五角削り箸 サティーネ」(6,600円)、「五角削り箸 研ぎ出し 鉄木 緑」(3,300円)。箸は3本(奇数)の指で操作するので奇数の五角形や七角形などの箸は指に収まりやすい。サティーネはブラジル、ペルーなどで産出されるクワ科の木材で、赤みのある色が特徴。
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ベルトサンダーで削り出して形作る。
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材料の銘木。上から真黒(まぐろ)、縞黒檀、サティーネ。
江戸木箸 大黒屋[東京]

TEL 03-3611-0163
東京都墨田区東向島2-4-8
10:00AM~5:00PM
日・祝、第2・3土曜、お盆、年末年始休
品格ある暮らしの名脇役、京金網
茶こし、焼き網、豆腐すくいなどの日用品を作る金網細工は、京料理や和菓子などとともに発展してきた京金網の伝統的な技術。その起源は平安時代にさかのぼるといわれている。
銅やステンレスの針金を編みあげる「亀甲編み」に象徴される金網細工は、洗練された美しさとともに強度も備え、長く使い続けられる暮らしの道具だ。長年使って綻(ほころ)びが生じたら修理もできる。
「高台寺 一念坂 金網つじ」では、職人でもある二代目、辻 徹氏が「世界中で愛されるものを作りたい」と、グローバルな視点で新しい製品、新しい編み方を生み出している。
例えば、円錐(えんすい)の網パーツと土台となる円形の網パーツを組み合わせて使う「手編みコーヒードリッパー」は、円錐の網パーツに亀甲模様を施すことで独特の凸凹が生まれ、コーヒー粉を蒸らすときにしっかりと膨らみをもたせることができ、豊かなコクが引き出せるという。土台も亀甲模様になっており、カップにのせてドリップする際にカップのなかを見ながら湯を注ぐことができる。キッチンまわりのものだけでなく、影が美しい金網のランプシェードやアクセサリーも製作している。
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「手編み手付きセラミック付き焼き網」。セラミックの遠赤外線効果で、食パンがおいしく焼けると人気。大W22.5×D22.5×H2.5・柄9センチメートル(18,700円)。小W15.5×D15.5×H2.5・柄7センチメートル(14,850円)。
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「手編みコーヒードリッパー 銅」。φ10.5×H7センチメートル(39,600円)。
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菊出しという技法で菊の花の模様に編んだ「とうふすくい 八角」。頭6×6・柄17センチメートル(銅・ステンレス各11,220円)。
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釘を打ちつけた台の上で指先の感覚だけで、細い針金を職人がひと目ひと目、編みあげてゆく。用途に応じて、針金の太さや網目の大きさが変わる。
高台寺 一念坂 金網つじ[京都]

TEL 075-551-5500
京都市東山区高台寺南門通下河原東入桝屋町362
10:00AM~6:00PM
水曜、年末年始休
クマザサが原料の、和紙から作られる新素材
「SASAWASHI」の商品の素材となる「ささ和紙」は、日本の高冷地に群生するクマザサを漉(す)き込んで和紙にしたもの。その和紙を細長くカットし、丁寧に撚(よ)りをかけ、糸状にして織ったり編んだりして、生活のさまざまなシーンで「気持ちいい」と感じられるアイテムを製作している。
その製品はタオル、スリッパ、靴下、シーツから枕カバー、マット、カーテン、Tシャツなど多岐にわたる。クマザサを原料としたささ和紙には抗菌性があり、雑菌の繁殖を抑えるので素足で履く靴下やスリッパに最適。また綿の約2倍という吸水性から、タオルやマットにも用いられる。UVカット効果もあり、まだ新しい素材ながらその製品は日常に馴染み、長く愛用できるアイテムとなっている。
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上から、「ハンドタオル」34×34センチメートル(1,650円)、「フェイスタオル」34×80センチメートル(2,640円)、「バスタオル小」48×100センチメートル(4,180円)、「バスタオル」63×130センチメートル(6,930円)。
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肌ざわりが心地よい寝具。「BOXシーツ・シングル」W100×L200×D27センチメートル(22,000円)。
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クマザサの和紙を細く裂き、撚りをかけ、糸状にする。
SASAWASHI SHOP[東京]

TEL 03-5772-6008
東京都渋谷区神宮前4-1-23
11:00AM~6:00PM(4~9月 ~7:00PM)
日・月、年末年始休(ほか不定休あり)
あらゆるものをやさしく洗う棕櫚のたわし
「高田耕造商店」は、和歌山県で棕櫚(しゅろ)を使ったたわしや箒(ほうき)を製造販売する専門店。たわしというと、100円ショップで購入できるような廉価品が一般的だが、国内外の棕櫚の繊維を厳選し、職人がひとつひとつ手作業で作る逸品は、肌ざわりがやさしくコシが強い。用途に応じて形状や使われる棕櫚の繊維が細分化され、キッチン用、掃除用、紀州産棕櫚で作られるボディ用のたわしもある。
また、繊維が細く、しなやかな棕櫚の繊維から作られる箒は、ほこりを舞い上げず、床面を傷つけることなく部屋の隅々まできれいに掃くことができる。最初は座敷箒として、摩耗してきたら玄関などに使い、最後には庭箒に。使い方次第で10年、20年にわたって愛用することも可能だという。
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「しゅろのやさしいほうき 五玉 焼檜柄(長)」W24×D4.5×L115センチメートル(19,800円)。箒とサイズを合わせた「天然木ちりとり」(4,950円)。
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「しゅろのやさしいたわし からだ用 檜柄」W11×D6.5×L39センチメートル(5,500円)。
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「しゅろのやさしいたわし 中サイズ」(1,760円)など。
高田耕造商店[和歌山]

TEL 073-487-1264
日々の暮らしに寄り添うモダンデザインの南部鉄器
鉄瓶で沸かした湯はまろやかになり、その湯で淹れたお茶やコーヒーはおいしさが増す。さらに鉄分補給にもなるというメリットもあるといわれ、いまや南部鉄器は世界的にも知られるようになった。
岩手県盛岡市に工房と店舗を構える「釜定」は、明治時代に創業した南部鉄器の老舗。伝統的な意匠を機能美あふれるモダンなデザインに昇華させた製品は、国内外で高い評価を受けている。
いまのようなスタイルになったのは、二代目当主、宮 昌太郎の代から。昌太郎は若いころから美術や文学の世界に傾倒し、民藝運動に参加。1956(昭和31)年に創設された日本デザイナークラフトマン協会(のちの日本クラフトデザイン協会)などに積極的にかかわり、モダンなデザインの製品を多く生み出した。
釜定では、鉄瓶はもとより、その伝統的な技法をベースに鉄鍋や鍋敷き、灰皿、栓抜きといった日用品やオーナメントなど、多彩なアイテムを手がけている。なかでも三代目当主、宮 伸穂氏が手がけた洋鍋は、そのまま食卓に出せるシンプルで美しいデザインで、多様な料理に使えると人気だ。
伸穂氏は金沢美術工芸大学でさまざまな工芸の世界にふれ、東京藝術大学大学院で金工を学び、フィンランドで過ごした経験もある。
「工芸品は、時代にあったものでなければ使ってはもらえない」という考えのもと、現代のライフスタイルにあったシンプルなデザインで、IH対応やスタッキングできるもの、蓋のつまみや持ち手に木を使うなど、日常で使いやすい工夫を随所に凝らしている。
鉄は熱伝導率が高く、蓄熱性に優れ、食材にじっくり均一に火が入り、食材のうまみを引き出すことができる素材。しかも丈夫で、毎日の暮らしのなかで使うのに、理にかなった道具である。
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歴代の当主、職人が考えた鉄瓶が並ぶ。外側は本漆を用いた黒系の仕上げ、内側は独自の「焼抜き」技法で錆止めを行っているため、湯に鉄の味がしない。
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三代目、宮 伸穂氏デザインの鍋敷き。壁に飾りインテリアオブジェとしても楽しめる。
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上から、「洋鍋(中)」。ソテー、グリル、煮込み、揚げ物などマルチに使え、持ち手は取り外し可能。φ190(持手込205)×H105ミリメートル(15,950円)。無駄のないフォルムが美しい「シャロウパン」 φ215(持手込390)×H70ミリメートル(15,400円)。マルチに使えるひとり用フライパン「イグ鍋」φ165(持手込245)×H26(木台込50)ミリメートル(8,800円)。
釜定[岩手]

TEL 019-622-3911
岩手県盛岡市紺屋町2-5
9:00AM~5:30PM
日曜、年末年始休
取材・文/土井ゆう子 写真/秋田大輔、伏木 博
●取材時期:2025年8月下旬
※価格は消費税込。
※サイズのφは直径、Wは幅、Dは奥行き、Hは高さ、Lは長さ。
※価格など掲載内容は施設や店舗の諸事情により変更となる場合があります。