30年変わらぬ理念をまとう 「モリカゲシャツ」の一着の代表イメージ

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「毎日着たくなる一枚」を探して。

30年変わらぬ理念をまとう
「モリカゲシャツ」の一着

着る人に寄り添う“用の美”を備えたシャツ。今回は長年の愛用者である編集者が、京都本店でオーダーを体験した。

1997年に京都市内に創業した「モリカゲシャツ」。30年近く変わらぬ理念のもとに、体のフォルムだけではなく、着る人の“らしさ”までをすくい取るシャツを仕立て続けている。モノが溢れる時代にあって、「自分のためにつくられる一着」を手にするということ──。それは、服を通して自分を見つめ直すような、静かな喜びに満ちたひとときだった。

2026.01.05

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作り手と使い手の距離が見えるものづくり

 京都・河原町丸太町。御所と鴨川の間にある閑静な通りにモリカゲシャツはある。自然光が差し込むガラス張りの店舗には、着心地のよさそうなカジュアルシャツが並んでいる。ベーシックで遊び心があり、それでいて目が離せない。トレンドの対岸にあるような、静かな存在感がそこにある。

  • 店舗があるのは、鴨川の近く、街の喧騒から離れた静かなエリア。

  • 丸太町交差点近くの老舗ビルの一階。水色の看板が目印。

  • 大きなガラス窓から自然光が差し込む店舗。2006年に三条富小路から移転した。

  • 静けさと温もりが漂う美しい店内。オーダーメイドは京都本店のみで受け付け。中央には作業台があり、布や衿などのパーツが並ぶ。

 「モリカゲシャツ」がここ京都で生まれたのは1997年。創業者でありデザイナーの森蔭大介さんはこう話す。「作り手と使い手の距離が見えるものづくりがしたい、そんな想いが最初にありました」。

 京都が地元の森蔭さんがものづくりに興味を持ったのは幼い頃。グラフィックデザイナーだった父の影響で、ものづくりは日常と地続きにあった。母のミシンを借り、小学生のときにはジーンズを解体して筆箱を作ったという。上京して文化服装学院の夜間で学び、昼は生地屋で働いて縫製の現場を肌で感じた。バブルの余韻が残る時代、アパレル業界は大量生産が当たり前。だが、その空気にどこか違和感を覚えていた。

 「デザイナーを目指した原点は、高校時代の服作りです。友人に頼まれて作った服を、すごく喜んでくれた。誰かのためにものを作り、それがその人の生活に溶け込む。そんなやりとりがしたくて、オーダーの仕事をしようと考えました。とはいえ、東京でオーダーをやっても埋もれてしまうとも思った。そこで地元京都に戻り、1993年に最初のお店を開きました」

代表・デザイナーの森蔭さん。京都弁の穏やかな口調が印象的。

 当時はシャツに限らず、スーツやドレスなど依頼があれば何でも作った。生地を選び、デザインを考え、パターンを起こし、裁断して縫って販売する──。すべての工程を自分の手で行っていた。その積み重ねが、現在の礎になっている。

 やがて森蔭さんの関心は、自然と「シャツ」というアイテムへと向かっていった。自らの日常着として身近なアイテムであり、顧客からの評判も高かった。 そこで「お客さんが探しやすいように」と、森蔭さんはシャツのオーダーに専念することを決意。1997年、シャツ専門ブランド「モリカゲシャツ」を立ち上げた。既存の型紙をベースにサイズやデザインを調整する“パターンオーダー”と、完成品としての“レディメイド(既成シャツ)”を両輪に据える現在のスタイルが、ここで確立された。

 創業から30年近く経ったいまも、その理念は変わらない。「誰かのために、丁寧に作り、届ける」。そのシンプルな信念が、「モリカゲシャツ」を支え続けている。

生活に寄り添う、「日々のユニフォーム」としてのシャツ

 当時はオーダーといえば紳士向けワイシャツが主流。仕事着のカジュアルシャツを作るブランドはほとんどなかったという。「自分が着たい服を作ったら、こうなったんです」と森蔭さんは笑う。「ネクタイはいらないけど、きちんと見える仕事着。リラックスして着られて、それでいて姿勢が整う。そんなシャツを作りたかったんです」。

 理想としたのは、肩や袖まわりにドレスシャツのようなフィット感がありながら、身ごろにはカジュアルシャツの動きやすさを持つ一枚。その絶妙なバランスを追い求めてつくった型紙は、創業以来、微調整を重ねながらもほとんど変わっていない。理由は「着心地がよくて、シルエットのいい型紙は、流行で変える必要がないから」と森蔭さん。
 生活のなかで自然に手が伸びる着心地のよさ、そして着る人を“素敵に見せる”シルエット。その人自身の輪郭をかたちづくるような服を、一生ものとして仕立てる。変わらない信念が、このブランドの核にある。

  • 店内にはメンズとレディースのフルラインアイテム(既製品)が揃う。季節ごとに素材や柄・色などが変わる。

  • シャツのほか、ワンピースやパンツなどのアイテムも。

  • 関東方面に顧客が多いことから、一時期は東京や鎌倉にも出店していた。現在は東京などでポップアップを時々開催する。

 続けるなかで、店の考えに共感する顧客が増え、国内外を問わず幅広い層の愛用者が訪れた。同時に、百貨店やファッションビルからの出店依頼も舞い込むようになった。それでも森蔭さんは、積極的に店舗を増やしたり、通信販売を拡大したりすることはしなかった。

 「たくさん作れば売れるかもしれませんが、どうしてもつくり手と使い手の距離が遠くなってしまう。大量生産では得られない価値を求めて、わざわざここまで来てくださる。その気持ちに応えるためにも、誰かのために丁寧に作り、健康的に続けることを大事にしたいと思っています」

「デザインを選ぶ、採寸する」という対話

 この日、15年来の愛用者である編集者が京都本店を訪れた。「仕事でもプライベートでも、ずっと着られるシャツを」との希望に、森蔭さんはいつものように笑顔で迎える。

 オーダーメニューはA・B・Cの3種類。今回は、既存のアイテムをベースに、生地(2~4種類)とパーツを選び、サイズ調整を行う「オーダーB」で仕立てることにした。希望が明確でなくても、スタッフが丁寧に対話を重ねながら、その人に合う形を一緒に探してくれる。この日は、森蔭さん本人が担当してくださった。

 まずは採寸から。Lサイズのサンプルを試着し、首周りや肩幅、袖丈を見ながらシルエットを調整する。「首元が少しきつめなので、2cmほど余裕を持たせましょうか」と森蔭さん。わずかな調整が、仕上がりの印象を左右するという。

  • 採寸用のサンプルは、スタンダードシャツとネックギャザーシャツ。

  • 肩の高さや腕の長さの左右差も入念にチェック。「肩幅、袖丈はLサイズでちょうど良さそうですね」。

  • 腕のメジャーで測定し、後ろ姿のラインも確認する。

 次はデザインの考案。参考のため、ラックに並ぶ既製シャツのなかから編集者が手に取ったのは、インディゴオックスの「カーブラインシャツ」。前身ごろのカーブが特徴的な長袖シャツで、肩まわりはフィットしつつ身幅にはゆとりがあり、動きやすい。「モリカゲシャツ」らしいスタンダードなシルエットだ。「シルエットがきれいに見えますね」と編集者が言うと、森蔭さんがうなずく。

  • 店内に並ぶ既成シャツのなかから、イメージに近い一枚をセレクト。

  • シャープな印象を求めていた編集者が選んだ、縦の曲線が特徴的なカーブラインシャツ。

  • 「曲線のやわらかさがありながら、縦長ラインでスマートに着ていただけます」と森蔭さん。

 続いて、生地選びのプロセスへ。棚に整然と並ぶ生地に触れると、繊維の密度や手ざわりの違いが指先に伝わってくる。

 「顔まわりがすっきり見える、暗めの生地が好みなんですが…」と編集者。森蔭さんは少し考え、グレージュ色の綿麻素材のストライプを取り出した。
「この素材をベースに、生成りのリネンを合わせるのはどうでしょう。最近はリネンも通年で使える素材になっているんです」という森蔭さんの提案に、「この組み合わせ、すごくいいですね」と編集者の表情がぱっと明るくなる。

  • ブロード、オックスフォード、リネンなど、店内には100種類以上の生地が並ぶ。

  • 綿麻のストライプにリネンを重ねる森蔭さん。その人に似合う素材と配色を丁寧に提案してくれる。

  • 生地を並べて対話するうちに、イメージがどんどん膨らみ、わくわくした気持ちが込み上げてくる。

 次に、襟や袖などの細部を決めていく。襟は小ぶりでシャープな印象に。袖口(剣ボロ)には、蛍光イエローの差し色をひとすじ。「袖をまくったときに、ちらっと見えるぐらいがいいと思うんです」その一言に、プロの感性と美意識の深さを思い知らされる。

 背中のハンガーループ(ハンガーに掛けるための輪)にも同色を加えることに。控えめな遊び心が、清潔感のあるシャツに軽やかな表情を添える。気づけば、あっという間に1時間半が経っていた。

  • 襟サンプルから選定。「タキシードシャツのような雰囲気なので、小さめの襟のほうがすっきり見えます」。

  • 袖口サンプル。細部のデザインで印象が大きく変わる。

  • 数十種のボタンから、真珠の貝を削り出した「白蝶」を選んだ。光を受けて淡く透ける、上品な艶が魅力。

  • 袖口の剣ボロ部分に蛍光イエローの差し色を。袖をまくったときに、さりげなくのぞく。

  • 背中のハンガーループにも同色を入れ、後ろ姿にも遊び心のアクセントを。

 オーダーメイドの打ち合わせ時間は1〜2時間ほど(内容によって異なる)。服づくりの原点である“手の仕事”を実感できる時間だ。
「最初は理想のデザインがまとまらなかったのですが、提案をもらってイメージがはっきりとしてきました」と編集者。

選び抜いたパーツを並べていくと完成の姿が少しずつ見えて、高揚感が広がっていく。

不便のなかにある豊かさを着る

 「オーダーって、ライブや演劇みたいなんです」と森蔭さん。「ご予約をされてから注文、仕上がりまで、“体験”としての楽しみもあると思っています。お客さまも参加者の一人。だからこそ、一緒に楽しんで作らせていただき、少しだけ驚きのある仕上がりを提案したいんです」
 オーダーを終えた後、森蔭さんらスタッフは出来上がりを想像しながら、改めて生地やステッチの組み合わせを微調整する。森蔭さんはその作業を「塩コショウ」と呼ぶ。
 「ほんの少しだけ、期待を良い意味で裏切るんです。たとえば後ろ姿がよりきれいに見えるよう、パーツのバランスを微妙に変えるとか。お客さまの言葉にならない希望をくみ取って、そっと仕込む。その小さな工夫が、新しい発見につながるし、仕上がりを見たときの会話のきっかけにもなる。そんな循環を大事にしています」

今回お話を伺ったモリカゲシャツの皆さん。オーダーは森蔭さん、西川さん(左)が担当する

 完成して終わり、ではない。モリカゲシャツでは、長く着てもらうために、修理や染め直しの相談にも応じている。2024年からは、自社製品を回収し、次の持ち主へつなぐリセールプロジェクト「iTTEKOI(イッテコイ)」も始まった。
 「生地を見て、手で触れて、言葉を交わしながら決めていく。そういう時間こそが記憶に残る。もし便利さの裏で体験が薄れてしまうなら、ちょっと不便なままでもいいんじゃないかって思うんです」
 だからこそ、全国から多くのファンがこの京都の小さな店を訪れる。手で触れ、言葉を交わしながら“自分の一着”をつくる、その豊かな時間を大切にするためだ。

対話の一つひとつから、理想が詰まったオリジナルの一着が創り出される。

世界に一枚だけのシャツを「まとう」という感覚

 オーダーから約2ヵ月後。編集者のもとに完成したシャツが届いた。包みを開けると、グレージュのストライプが目に飛び込み、店で過ごしたひとときが蘇る。手に取ると、柔らかな質感の奥に針目の確かさが感じられる。
 袖を通すと姿勢が自然と整い、街を歩くときの背筋が伸びる。服を着るというよりも“まとう”という言葉がしっくりくる。
 モリカゲシャツの服は、流行を追わない。けれど、時間を経ても古びない。30年前から続く理念が、いまも変わらず息づいている。忙しい日常のなかで少し立ち止まり、自分を整えるために、今日もお気に入りのシャツに腕を通す。

  • 細部にまでこだわりが詰まった完成品。佇まいだけで丁寧な仕立てを感じる。

  • 手に取ると「自分のためにつくられた一着」という実感が満ちてくる。

  • 個性のあるディテールが“着る楽しさ”を呼び起こす。

MORIKAGE SHIRT KYOTO(モリカゲシャツ キョウト)

TEL 075-241-7746
京都市上京区河原町通り丸太町上ル桝屋町 362-1
11:00AM-6:00PM(月・木・金・土・日曜)
1:00PM-7:00PM(火・水曜)
不定休( Instagramで確認ください)

https://www.instagram.com/mrkgshirt/

*オーダー方法は3種類。B・Cは要予約、メールフォームから申し込みが必要。いずれも基本の型をベースに、より自分に合ったサイズや好みにカスタマイズできるオーダーです。

https://mrkgs.com/pages/mto

オーダーA:36,300円(税込)

基本の型:men’sシャツ/women’sシャツ
セレクトできるもの:1種類の生地/サイズ/パーツ/ボタン
※スタッフが対応

オーダーB:47,300円(税込)

基本の型:men’sシャツ/women’sシャツ
セレクトできるもの:2~4種類の生地/サイズ/パーツ/ボタン
(5種類以上の場合:生地1種類+@3,300円)
※スタッフ、または森蔭さんが対応

オーダーC:69,300円(税込)

サイズ調整やご希望を伺ったあと、生地の組み合わせやアレンジなどを森蔭さんにお任せするコースです。
基本の型:men’sシャツ/women’sシャツ
※森蔭さんのみ対応

*仕上がりの目安は2〜3ヵ月後

取材・文/渡辺満樹子 写真/鈴木愛子 編集/都恋堂(栗林拓司)

●取材時期:2025年10月上旬
※掲載内容は時期や天候、施設の諸事情により変更となる場合があります。

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