歴史ある加賀温泉郷で 至極のひとときの代表イメージ

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歴史ある加賀温泉郷で 至極のひととき

山庭の景色を眺められる竹敷きの広縁が印象的な「べにや無何有(むかゆう)」のエグゼクティブスイート。秋の風が湯あがりの肌に心地よい。

湯の里・加賀温泉郷は、その美しい自然から、四季折々の景色や山海の幸に恵まれた土地。開湯約1300年を誇る歴史と文化を感じながら、秋の加賀温泉郷で上質なひとときを堪能しよう。金沢と加賀温泉郷の間に位置し、北陸新幹線の延伸によりさらに注目が高まっている“ものづくりのまち・小松”にも訪れたい。

2025.9.12

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歴史と文化に彩られた加賀温泉郷へ

 金沢駅から北陸新幹線で20分弱。加賀温泉駅は、山代、山中といった1300年の歴史ある温泉地からなる加賀温泉郷の玄関口だ。

 山代温泉は、藩政期には大聖寺藩主の湯壺があり、明治以降は与謝野晶子や泉 鏡花らに愛された歴史と文化の薫る場所。わけても稀代の美食家であり芸術家の北大路魯山人が、若き日のひとときをこの地で過ごしたことはよく知られている。魯山人といえば陶芸のイメージが強いが、山代を最初に訪れた際は篆刻(てんこく)をしており、九谷焼窯元・初代須田菁華に陶芸を教わったことが、のちの魯山人の美学に大きな影響を与えたことは想像に難くない。「魯山人のいいところは『焼き物はおいしいものを食べるための器』といい、飾り物ではないと考えているところ」と、4代目須田菁華氏は話す。店に並ぶ品もそのほとんどが食器で、「蹴りろくろで粘土を挽き、絵付けもフリーハンド。人の手で作る自然の優しさが伝わる器を作っています」と4代目。氏の作る小皿一枚、湯呑みひとつにまで、おおらかな人柄が表れている。

  • 紙風船の小鉢は3代目考案のデザイン。須田菁華を代表する器のひとつで、4代目も大切に作り続けている。

  • 九谷焼のなかには精緻な絵付けを追求したものも多いが、4代目の食器は自由で奔放な筆使いが見て取れる。土瓶(60,000円~)、湯呑み(1客・10,000円~)。

  • 畳敷きの広い店内で、窯元ならではの品揃えのなかから好みの器を探せる。

  • 九谷五彩と呼ばれる色絵具を用いるのが九谷焼の特徴で、柄の多彩さも魅力。

 このような文化を育んだ温泉街を見守る「薬王院温泉寺」は、白山登拝の途中に山代の湯を見つけたという高僧・行基が、温泉守護のため薬師如来を安置したのが始まりとされる古寺。一時は荒廃していたが、平安時代後期に明覚上人により中興し、現在も「お薬師さん」の名で親しまれている。

  • 紅葉した木々が彩る境内。階段の上は本堂で、本堂の奥は裏山の「あいうえおの小径」へと続き、さらにその先の高台には明覚上人の供養塔が立っている。(写真/(一社)加賀市観光交流機構)

  • 現在、朱塗りの本堂に安置されている薬師如来は、大聖寺藩3代目藩主・前田利直の弟、利晶の持念仏であった像で、室町時代の作と伝わる。

 福井との県境近く、山懐に抱かれるようにある山中温泉は、北陸随一の渓谷美として古くから知られる「鶴仙渓」沿いの温泉街。大聖寺川の流れによって削られた深い谷を紅葉が彩り、いつまでも眺めていたいほどの景色を生み出している。

上流のこおろぎ橋から黒谷橋までの約1.3キロメートルが「鶴仙渓」と呼ばれている。川の流れる音をおともに渓谷沿いに続く遊歩道をゆっくり散歩できる。(写真/石川県観光連盟)

九谷焼窯元 須田菁華

TEL 0761-76-0008
石川県加賀市山代温泉東山町4
9:00AM~5:00PM
不定休

薬王院温泉寺

TEL 0761-76-1155
石川県加賀市山代温泉18-40甲
境内散策自由

鶴仙渓

TEL 0761-78-0330(山中温泉観光協会)
石川県加賀市山中温泉
見学自由

山代温泉 至極の宿で特別なひととき

 明治時代の共同浴場を復元した、山代温泉の共同浴場、古総湯。こけら葺きの屋根が魅力的なこの古総湯を中心に温泉街が形づくられ、周辺は湯の曲輪と呼ばれている。その湯の曲輪に立つ湯宿のひとつで、1639(寛永16)年、大聖寺藩主・前田利治から山代の湯を管理する湯番頭を仰せつかったのが「あらや滔々庵」の館主・初代荒屋源右衛門だ。「歴史ある湯をいまでも楽しんでもらえるのは、絶えず湧いているからこそ。温泉が出ている限り守り続けていきます」と話すのは、18代の永井隆幸氏。湯番頭の宿だけに、この宿にはかつて前田家ゆかりの者のみが宿泊を許された客室を移築した特別室「御陣」がある。この部屋にはかの魯山人も好んで滞在したという。魯山人が山代温泉を訪れたのは15代館主のころで、そのときに求めた看板や書画、器などが館内のあちこちに飾られている。「お湯や宿のもてなしに身を委ねることの心地よさを味わいながら、日本旅館ならではの美しさを感じていただきたい」と話す永井氏の想いは、魯山人の「この世の中を少しずつでも美しくして行きたい」という言葉に通じるものがあるようだ。

  • 「有栖川」の浴室は湯船や床だけでなく、壁や天井まで総檜造り。

  • 福田大観と名乗ったころの魯山人作の看板。無名の芸術家に看板を注文しその生活を支えた。

  • 特別室「御陣」のほか、皇族・有栖川宮家の山荘を改装した離れ「有栖川」(写真)もある。

  • 作り込みが美しい、吹き寄せを表現した八寸。橋立港で揚がった魚介や加賀の伝統野菜などを使い、素材のもち味を生かした料理に。

 温泉街から少し離れた薬師山の高台に立つ「べにや無何有」も、宿主が追求する美意識にあふれた宿。館内のしつらえは限りなくシンプルで、建物を囲む山庭の豊かさと、この地で大切にされてきた温泉が、心身をいやしてくれる。紅葉した木々の美しさ、秋でも深い苔の緑、小さな花を咲かせる山野草などにふと目が行き、その美しさで満たされるほどの心のゆとりを養える。

  • 石川県のズワイガニ漁解禁日以降となる11月7日からは蟹料理も味わえる。七輪の炭火で軽く焼いてからいただく焼きガニはジューシーで、火を通すことにより甘みが増す。

  • 仄(ほの)暗い空間が瞑想へと導く大浴場「玄青GENSEI」。

  • 16ある客室はすべて広縁または月見台(テラス)と温泉露天風呂付。

べにや無何有

TEL 0120-07-1340
石川県加賀市山代温泉55-1-3
おひとり様1泊2食付83,490円~(サービス料込・入湯税150円別)

https://mukayu.com/

あらや滔々庵

TEL 0761-77-0010
石川県加賀市山代温泉18-119
おひとり様1泊2食付49,500円~(サービス料込・入湯税150円別)

https://www.araya-totoan.com/

“ものづくりのまち・小松”のとっておきをおみやげに

 北陸新幹線の駅で金沢と加賀温泉の間に位置する小松は、加賀前田家3代・利常が築いた城下町。利常が産業や文化を奨励したことから“ものづくりのまち”として発展し、今日へと至る。
 小松駅から車で約20分の山里、観音下(かながそ)にたたずむ「農口尚彦研究所」は、2017年に創業した新しい酒蔵。能登杜氏四天王のひとりとして知られ、70年以上、各地で酒を醸してきた名杜氏の技術と精神を未来に継ぐべく、御年92歳となる農口尚彦氏と若き蔵人が酒造りに全力を注ぐ。

  • 5種類を飲み比べる「テイスティングコース」(5,500円)。

  • 農口氏の歴史を紹介するギャラリーからは酒蔵内部も見学可能。

  • 山廃で仕込み、数年熟成させるのが農口流。左から、「五百万石」、「愛山」、「美山錦」、「雄町」(各720ミリリットル・5,500円)と「Limited Edition NOGUCHI NAOHIKO 01 2019 Vintage」(770ミリリットル・42,900円)。

 「スイーツガーデンマルフジ」は、小松の人たちに約70年愛されてきた洋菓子店。3代目の越栄純平氏と亮弥氏の兄弟が、祖父、父の代からのレシピとそれぞれが学んできたパティシエとショコラティエの技術を生かしてスイーツを作る。生ケーキや焼き菓子から、チョコレート、パンまで種類が豊富で、洋菓子のもたらす幸せの世界に浸れるお菓子のテーマパーク。

  • 奥から、スペシャリテの「凛」(830円・中央)や祖父の代から続くレシピの「フレーズ」(560円・右)、加賀野菜・五郎島金時芋のタルト「いもほり長者」(340円・左)。手前はボンボンショコラ(1個・350円)と地元産モナカで3種のチョコレートで作ったエアリーチョコを挟んだ「円-まどか-」(1個・440円)。

  • おとぎ話に出てくるようなレンガ造りの店。

農口尚彦研究所

TEL 0761-41-1227
石川県小松市観音下町ワ1-1
直売所 10:00AM~4:00PM
テイスティングルーム「杜庵」 11:00AM~正午、1:00PM~2:00PM、3:00PM~4:00PMの各回8名まで ※要予約
無休

https://noguchi-naohiko.co.jp/

スイーツガーデンマルフジ

TEL 0761-22-7866
石川県小松市沖町ナ30
10:00AM~6:00PM
月・火休(祝日の場合は営業、水曜は焼き菓子デー(ケーキは提供なし))

http://www.marufuji.cc/

取材・文/山下あつこ 写真/シンヤシゲカズ、山岸政仁

●取材時期:2025年4月中旬 ※価格は消費税込。 L.O.=ラストオーダー。
※掲載内容は時期や天候、施設の諸事情により変更となる場合があります。

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