人や地球環境、社会、地域に配慮したエシカルな考えや取り組みを、世界の街で暮らす人たちが日々の目線を通してレポートします。
2026.01.29
マドリード、バルセロナに次ぐスペイン第3の都市・バレンシアは、地中海に面し、温暖な気候に恵まれている。15・16世紀には大航海時代の交易の要として隆盛を極め、現代でも地中海を代表する港湾都市のひとつだが、他方で大気汚染や緑地の減少が続いていた。
しかし近年、環境を改善しようという、市と市民による取り組みが功を奏し、2024年には「EUグリーンキャピタル」に選ばれるまでの成果を挙げている。EUグリーンキャピタルは、環境を保護しながら、経済発展を実現させた都市を認定するもので、毎年1都市が選出されている。
バレンシアが認定されたのには、住環境がよく、人々がリラックスして生活できることが大きい。約500万平方メートルの広大な緑地を有し、バレンシア市民の約97パーセントは緑地や砂浜など、自然を感じられる場所から300メートル以内に住んでいる。また、歴史的建造物が集まる旧市街の中心部は車の通行を制限し、人々が散策したり、屋外で食事を楽しめるスペースを確保。コロナ禍に設置・整備した自転車専用道路は延べ200キロメートルにも及ぶ。
彩りも鮮やかなバレンシアの名産物が並ぶ
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「クロチーナ」と呼ばれるバレンシア特産のムール貝。小ぶりだが味が濃厚で、白ワインとガーリックで蒸し、レモンをたっぷり搾って食べる。
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バレンシアオレンジやブラッドオレンジの搾りたてジュース。
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生産者と消費者の間では、にぎやかな会話が交わされる。
なかでも大きな成果を挙げているのが、地産地消の取り組みだ。陽光や水に恵まれたバレンシアは、果実や野菜の一大産地であり、地中海の海の幸にも恵まれている。こうした恵みを住民の食生活に直結させる「キロメートル・ゼロ」という考え方により、輸送コストと二酸化炭素排出量を削減し、環境への負荷も軽減している。
その象徴的存在が、旧市街の中心にある「メルカド・セントラル」(中央市場)。建物は1928年に完成した、100年近い歴史をもつ、広さ約8000平方メートルの2階建てのモデルニスモ建築。
ここはいわゆる卸売市場ではなく、一般客向けのB to C。270あまりの店が並び、規模はヨーロッパ最大級。現在ここで店を開いているのは、主にバレンシアとその近郊の生産者たちだ。
旅行者にとっても魅力的なメルカド・セントラル
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アントニ・ガウディの弟子のふたりによって設計された壮麗な建物。
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食材だけでなく、総菜の量り売りもあり、旅行者にもうれしい。バレンシア名物のパエリアはぜひ味わいたい。
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ルーフの上の尖塔には市場のシンボル、オウムの姿。売り手のにぎやかなおしゃべりを象徴しているといわれている。
「以前は仲買業者やスーパーを対象に、規格を満たした均質な生産物を、まとまった量、買取り側が設定した価格で売っていました。でもここならば、必ずしも見ためが揃っていなくても、おいしければお客さんは買ってくれますし、自分で価格を設定することもできます。数年前、健康によりよいものをとオレンジを有機栽培に変えたのですが、お客さんとコミュニケーションをとるなかで、価格や見た目にも納得してもらえました。その結果、自分の果樹栽培に誇りをもてるようになったのです」と話してくれたのはバレンシアオレンジやレモンなど、柑橘類を販売する店の主。
バレンシアは古くから耕地面積が狭い小規模農業が中心で、一時は離農者も多かったという。市場で店をもち、自らの生産物を売るという方法は、バレンシアの農業のサステイナビリティーに繋がっている。また、住民からは「地産の食材を買うことでバレンシアの食文化に関心が深まった」「健康的な食を意識するようになった」という声も多く、この土地の暮らしの満足感向上に貢献している。
取材・文・写真
入江啓祐 Keisuke Irie
フォトグラファー。大学卒業後、航空会社に勤務。ペルージャ大学でイタリア語を学んだ後、ミラノに3年在住。独立してフォトグラファーとなり、100ヵ国以上で撮影を重ねると同時に、ミラノ万博のコーディネーション、日本酒の啓蒙活動など、日本とヨーロッパの食の交流事業にも携わる。
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