世界でも旅好きで知られるカナダの人々にとって、サステイナビリティー(持続可能性、SDGs)やリジェネラティブ・ツーリズム(再生型観光)は旅の醍醐味として定着しつつある。
そんな旅人たちを惹き付けている場所がある。そこはカナダ東部の大西洋に面したニューブランズウィック州、ノバスコシア州、ニューファンドランド・ラブラドール州に点在する13のユネスコ登録サイト(7つの世界遺産と3つの世界ジオパーク、3つのエコパーク)で、アトランティック・カナダユネスコ回廊と呼ばれている。
例えば、グラン・プレの景観。ノバスコシア州にある美しい草原が広がるこの地ではアカディアンの歴史が脈々と息づく。17世紀後半、フランス南西部からこの地に移住した彼らは干潟だった土地を創意工夫し、肥沃な農地に改良した。しかし、イギリス軍に土地の没収と追放命令を言い渡されてしまい、繁栄したコミュニティーは失われ、その混乱で家族は離散、多くが亡くなった。1755年に起きたこの悲劇を忘れないために、強制追放されたアカディアンを乗せた船が出港したホートンランディングには十字架が建てられ、詩人ロングフェローは長編叙事詩『エヴァンジェリン』を書き残した。
グラン・プレのすぐ先にファンディ湾がある。ここは大規模な潮の満ち引きが起きる場所で、そのユニークな気候と粘土質の土地がワイン造りに最適だ。ワイナリーでは新鮮な魚介類と相性ぴったりのワインが味わえる。
地元でとれる豊かな自然の恵みを味わう
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ファンディ湾の大規模な潮の満ち引きと粘土質の土地が生んだワイン。
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アルマ村特産のおいしいロブスターは、漁だけでなく、保存や加工業等の雇用を生み、一匹のロブスターにコミュニティーの5家族が関わっている。
ニューブランズウィック州に入ると、前述のファンディ湾に面したホープウェル・ロックス州立公園がある。世界最大級といわれる潮の干満差は約15メートルで、干潮になると海底があらわになり、巨大でユニークな形状のフラワーポットロックを見上げながら散策を楽しむ。満潮になると、さきほど歩いた場所をシーカヤックでまわる。波のうねりを体に受けながらの冒険は、自然との一体感が感じられる瞬間だ。
ファンディ湾の近くにアルマという名の小さな漁村がある。干潮時に朝の海底散歩を満喫して空腹を感じたら、アルマ特産のロブスターを食べに行く。過酷で困難なロブスター漁は自然と乱獲を防いでおり、そのおかげで漁師たちはそのバトンを次の世代へと渡していくことができる。家族との時間を大切にするアルマ村の人々にはこうしたサステイナビリティーの精神が自然に根付いている。
ニューファンドランド・ラブラドール州には、さらに壮大な地球の物語にふれることができる秘境がある。そのひとつがグロスモーン国立公園だ。グロスモーンとは「偉大なる絶壁」という意味で、その言葉どおり、氷河によって削られた断崖やフィヨルドが広がり、何億年もの地球の歴史をひもとく。
地球の奥深さを感じる圧倒的な景観に出合う旅
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グロスモーン国立公園にあるウェスタンブルックポンドの湖上から高さ700メートル超えの絶壁を望む。
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ホープウェル・ロックス州立公園では干潮時には海底散歩で、満潮時にはシーカヤックで景観を満喫。 写真提供:カナダ観光局
ユネスコ回廊をまわる旅の日々は非日常の連続だ。しかし、その体験すべてが本来あるべき姿、いま、するべきことを教えてくれる。そして、もうひとつの大切な気付きは、コミュニティーの力こそが旅を豊かにしてくれるということ。まるでひとつの家族のような小さなコミュニティーは、旅人を自分たちの家族の一員であるかのように迎え入れて包み込む。その心地よさと温かさがやみつきになって、人はまたすぐに旅に出たくなるのかもしれない。
取材・文
佐藤須美 Sumi Sato
カナダ在住歴30年。カナダ・トロントを拠点とするJapan Communications Ltd.に在籍し、執筆、撮影、取材コーディネートほか、多種多様なマーケティング事業のマネージメントを通して異文化コミュニケーションに従事。
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