直感を手がかりに、 感性をほどくアート体験の代表イメージ

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ソロで愉しむ大人のプライベート時間

直感を手がかりに、
感性をほどくアート体験

絵の具を垂らして美しい模様を描く「たらし込みアート」。フルイドアートとも呼ばれるこの技法は、近年世代を超えたアーティストが絵画表現に取り入れている。今回体験したのは円形のキャンバスを使ったコース。

ビジネスにも「アート思考」が重要と言われる昨今。各地で大人向けのアート教室が増えている。初心者にとって敷居が高いアートを身近に愉しめると評判なのが、東京・押上の「CREA BASE」。今回は、初心者でも味わい深い表現ができると人気の「たらし込みアート」を体験レポート。絵の具の流動性を使って模様を描く、新感覚のアート体験とは?

2025.11.05

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ものづくりのワクワクが詰まった大人の秘密基地

 真っ白な画用紙に、直感と想像力の赴くまま絵を描いていた子ども時代。やがて大人になって向き合うのは画用紙からデジタルの液晶画面に代わり、いつの間にか描くこととは疎遠に。「アートは高尚なもの」「難しいもの」という印象を持つ人も多いかもしれない。
 そんな大人が気軽にアートを愉しめる場として2022年に東京・押上に誕生したのが、アート&クラフト体験型スポット「CREA BASE」。お酒やドリンク片手にリラックスしてアートに触れ合い、完成度の高いものづくりが愉しめるとして、SNSを中心に広い世代から支持を得ている。

 シトロエンキッチンカーが停まるリノベーションビルに足を踏み入れると、カフェスペースの先に奥行きのある工房が広がる。木材や鉄、レンガなどの多様なマテリアルを活かしたアンティーク調の空間には、絵画やグラスアート、陶芸などの美しい作品のほか、絵の具やキャンバスなどの画材がずらり。学校の美術室を思わせる異空間に、胸が高鳴る。

  • 東京スカイツリーの麓に佇む元倉庫ビルをリノベーションしてつくられた体験スタジオ「CREA BASE」。現在は都内に4店舗を展開する。

  • クリエイティブな雰囲気の工房スペース。画材、エプロンなど絵を描くのに必要な材料・道具が揃っているため手ぶらでOK。

  • 廃材を活かした内装とインテリアは、建築設計事務所「CREAWORKS」によるもの。あらゆる場所が「映える」設計になっている。

 運営母体は、同ビルに隣接する建設設計事務所「CREAWORKS」。「現場での廃材に新たな価値を与えたい」「ものづくりを通して人が集まり、地域に貢献できる場所をつくりたい」、そんな同社代表の想いがすべての原点だ。

 「大人になるとアートに触れる機会が減り、そのなかで“アートはうまくなければいけない”と疎遠になってしまう方も多いもの。だからこそ「CREA BASE」が大切にしているのは、多くの方々が楽しくアートやものづくりに触れ合える時間と空間を提供することです。押上店では絵の具の素材感を活かしたテクスチャーアート、インクの滲みを愉しむアルコールインクアート、アクリルや針金でつくるグラスアート、名画、陶芸(アートプレート)、キャンドルの灯りに包まれて創作する「アートナイト」など、初心者から上級者、年代や性別などの区別を超えて自由に楽しんでいただける約20種のワークショップを用意しています」(CREA BASE押上店 店長)
 
 なかでも一番人気は、今回挑戦する「たらし込みアート」。「フルイドアート」とも呼ばれる絵の具の流動性を活かしたアートは、色の重なりや流れをコントロールすることで、世界にひとつだけの抽象表現を生み出す技法。絵を描いた経験があまりない人でも失敗しにくく、気軽に挑戦できるのが魅力だという。

  • 制作されたアートが並ぶ工房。複数のコースに挑戦するリピーターも多く、ワークショップの数は年々拡大している。

  • クラフト感のあるカウンターにもさまざまなアートが飾られている。

  • 写真映えする作品たち。SNS発信にも力を入れており、男女問わず幅広い世代がアートに触れている。

組み合わせは無限大。偶然性を愉しむ「たらし込みアート」

 今回体験したのは、直径30cmの円形キャンバスを使用した「ラウンドアート(たらし込み)」の2時間コース。絵の具や画材に触れるのは学生以来の筆者。うまくできるか不安もあったが、講師らの丁寧なレクチャーと、制作プロセスに沿ったサポートのおかげで、心置きなく創作に集中することができた。

 最初のステップは「色選び」。壁に並んだ約60色のアクリル絵の具から、6色(白+5色)を選ぶ。自室用にブルー系のアートを作ろうと試みた筆者は、青だけでも豊富な色があることに驚嘆。イメージを膨らませながらじっくり色選びをした後は、パレットの上に色を出し、全体のバランスを見て重ねる順番を決めていく。

  • 色選びはおよそ20分間。60種の絵の具から自由に選ぶ。参加者同士でイメージを話し合って盛り上がる、賑やかなプロセス。

  • 紙パレットの上で色が重なるイメージを確認。「この2色が混ざるとこんな色になるのか…」と、新たな発見も。

  • 今回セレクトしたカラー。色が重なり、どのような表現が生まれるのか待ち遠しい。

  • ドリンクはコース料金に含まれており、コーヒーやレモネードなどのソフトドリンク、ビールやワインなどのアルコール類も揃っている。カフェ感覚でリラックスして愉しめる。

 次は、選んだ絵の具にポーリングメディウムを加えて混ぜていくステップ。メディウムには異なる色同士が混ざるのを抑える役割があり、それぞれの色が独立した美しい層をつくることができるという。

  • それぞれの絵の具にポーリングメディウム加える。

  • サラサラとした質感を生むために、よくかき混ぜる。

  • 6色のカラーが完成。

 続いてプラカップのなかに色を重ねていく工程へ。各色を3回程度に分けて層をつくっていく。最初に入れる色がベースとなり、多めに入れた色が濃く出るとのこと。目の前に徐々に生まれる、神秘的な色の層に魅了される。カラフルなマーブル模様に、参加者からも歓声が上がる。

  • 隣り合う色を考えながら、注ぐ順番を決める。

  • 色をすべて加えると、美しい層が誕生。この状態でもアート作品のよう。

  • 写真撮影タイムも確保されており、制作に集中しながら思い出に残すことができる。

時を忘れて自分と向き合う、癒しの時間

 いよいよキャンバスの上に絵の具を流していくプロセス。プラカップをキャンバスに乗せて上下を返し、キャンバスを斜めに傾けて全体に広げていく。液の流れる方向やスピードを変え、色の表情をコントロールする。一秒一秒、有機的に移ろいゆくマーブル模様。時間を忘れて色の世界に没頭するうちに、イメージに近い宇宙のような抽象模様が現れた。

  • カップにキャンバスを重ね、ひっくり返す。

  • カップを数回に分けて開き、少しずつ絵の具を落としてキャンバス全体に広げていく。

  • 傾ける角度やスピードを変えることで、色のレイヤーが変化する。

  • 想像以上に完成度が高い作品を前に満足。

  • 間近で見ると、色の重なりは宇宙の広がりにも、鉱石の断面にも見えてくる。

  • 制作中は講師に気軽に質問でき、一人ひとりの作品がよりよくなるよう具体的なアドバイスをしてくれる。

 理想の模様になったところで作品は完成。想像以上の奥深い体験に、気がつけば2時間が経過していた。最初はワイワイと賑やかな雰囲気だったが、最終的には静寂のなかで一人ひとりがアートに没頭していたのが印象的だった。

 「アートのよさは、正解がないところ。大人にとって自分のための時間、自分の心に向き合う時間を確保することはとても重要だと感じます」と店長。その言葉通り、目の前の創作に夢中になるプロセスは、普段とは異なる脳を使っているような解放感もあり、瞑想のような癒しの効果も感じられた。また初めて出会う参加者とのコミュニケーションや、同行者の新たな一面を発見する愉しみなど、改めてアートの奥深さに触れるひとときだった。

アートを日常に取り入れ、感性をほどく

 創作が終わった後も、愉しみは続く。完成した作品は、乾燥後1~2週間ほどで自宅に配送される(※配送代は別料金)。作品を手にして改めて気づいたことは、自分でつくりあげた作品には特別な愛着が生まれるということ。大きな達成感とともに、自己肯定感も高めてくれる無二の体験だった。

 気づけば大人になり、誰かのために時間を使う日々。効率よく正解を出す合理性優先の日々のなかで、心のしなやかさを失ってはいないだろうか。そんな時こそスマホを手放して、アートが持つ自由な直感力や創造力に身を委ねてみたい。感性をほどき、柔軟な思考を思い出すことで、私たちの日常は豊かに彩られていくはずだ。

完成したたらし込みアート。インテリアのほか、プレゼントとして贈る人もいるのだそう。
壁にかければ、お部屋のお洒落なアクセントに。

CREA BASE 押上(スカイツリー前)店

TEL 080-2942-3790
東京都墨田区向島4丁目30-5 1F
11:00AM~8:00PM(土日)
11:00AM~6:00PM(平日)
定休日:火・水 ※現在押上店は定休日なしで営業中

https://creabase.jp/oshiage/

ラウンドアート(たらし込み)

【年齢制限】成人(18歳)以上
【所要時間】2時間(15分前より受付開始)
【料金】1人¥6,600(税込)
【料金に含まれるもの】・作品(サイズ直径30cm)・絵画レッスン・画材・ドリンク(ワイン、紅茶、コーヒー、ジュースなど)

取材・文/渡辺満樹子 写真/鈴木愛子 

●取材時期:2025年8月上旬
※掲載内容は時期や天候、施設の諸事情により変更となる場合があります。

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