流行の塗り絵本と、揃えておきたい画材ガイドの代表イメージ

連載 趣味のある休日

趣味のある休日

流行の塗り絵本と、揃えておきたい画材ガイド

イタリアのアマルフィ海岸などを収録した『大人が楽しむ ヨーロッパの絶景ぬり絵』(JTBパブリッシング)。美しい写真を参考に、色鉛筆で下絵を塗る。

絵を描く楽しみはさまざま。ここでは、近ごろブームになっている「大人の塗り絵」に注目して、その楽しみ方とおすすめ本を紹介していこう。

2025.9.12

TAGS

静かなブームの「大人の塗り絵」にトライ

 下絵の線にあわせて、色鉛筆やクレヨンなどで色を塗り付け、美しい絵を完成させることができる「大人の塗り絵」。手軽に始めることができ、無心に色を塗る時間が、気分転換やストレス解消になると、近年ブームが続いている。

それぞれ約30ヵ所のカラー写真と下絵を収録した『大人が楽しむ ヨーロッパの絶景ぬり絵』と『大人が楽しむ 日本の絶景ぬり絵』(ともにJTBパブリッシング・各1,430円)。アジア編、ハワイ編などもある人気のシリーズ。

 ここでは『大人が楽しむ 絶景ぬり絵』シリーズの著者、飯島夏香氏に油性色鉛筆を使った基本的な塗り絵の技法を教えてもらい、陰影や立体感を出すなど、仕上がりが変わるポイントを紹介する。ちょっとしたコツやテクニックを知ることで、仕上がりの完成度が大幅にアップし、塗り絵がますます楽しくなる。
 「見本の写真や絵を見ながら、そっくりそのまま塗るのもいいですが、旅先で見た空の色など、自分の記憶のなかの色を塗ったりすると、より楽しさが広がりますよ」

著者に教えてもらった「塗り絵のコツ」

  • 色鉛筆を寝かせて広い範囲を塗る

    描き始めは、細かな部分を塗っていくよりも、空や海などの広い場所、木々や屋根が密集しているようなところに、色鉛筆を寝かせて、大まかに色をのせていくのがよい。

  • 色を重ね塗りして深みや陰影を表現

    色味が複雑なところは、色を塗り重ねてみよう。同系色を塗り重ねると深みや陰影、立体感が表現でき、異なる色なら多彩な色の表現が可能になる。薄い色から軽い力で塗っていくとよい。

  • 目立たせるところは色鉛筆を立てて濃く塗る

    細部の仕上げや、色濃く発色させて目立たせたいところは、色鉛筆を立てて塗る。持ち方は、一般的に鉛筆を持つときよりも立てるイメージで。風景画では、縁取りはしない方がきれい。

  • 消しゴムを使って白抜きをする

    紙の白さを生かす技法で、色鉛筆での塗り絵なら消しゴムを使用。例えば、青く塗った空の一部を消しゴムで消して雲を表現。消しゴムは角を利用すると白抜きしやすい。

  • ティッシュを使ってグラデーションを表現

    色鉛筆で塗った場所をティッシュや指でこすると、色がぼけ、全体にふんわりした仕上がりに。色の境目などをティッシュでこすれば、グラデーションを表現することもできる。

教えてくれたのは……

飯島夏香氏
いいじまなつこ 武蔵野美術大学修士課程日本画コース修了。現在、アーティストとして主に日本画材を用いて、建物などの構造物をモチーフに、記憶からなる人それぞれの視点をテーマとして絵画制作を行う。2025年10月下旬に「ex-chamber museum」でグループ展を開催予定。

売り場担当者に聞いた、評判の塗り絵本

 美しい絵や写真を手本に、色を塗り重ねて美しい作品を仕上げる塗り絵の本。植物や動物、風景といったさまざまな絵柄があり、自分の好みやレベルにあったものを選びたい。おすすめを、「紀伊國屋書店 新宿本店」の売り場担当者に聞いた。

  • 『大人の塗り絵 美しい花編』
    マリー・アントワネットやナポレオン1世皇后・ジョゼフィーヌに仕えた宮廷画家で、植物画で有名なピエール=ジョゼフ・ルドゥーテの絵から選りすぐった11点を収録。パンジー、アネモネ、スイートピー、野バラ、アイリス、朝顔、ラズベリー、デイジー、赤いバラ、ツバキなど(河出書房新社・1,089円)。

  • 『大人の塗り絵ブック世界の街かどから』
    オランダ在住のイラストレーター・水彩画家、アーバン・アンナ著の塗り絵本。著者が旅先で魅了されたベーカリーやカフェなどの店構えを45店セレクト。繊細で美しい絵が見本となり、厚手の紙なので、好きな画材で塗り絵を楽しめる(グラフィック社・1,650円)。

  • 『和菓子のぬりえ図鑑』
    老舗京菓子司「鶴屋𠮷信」監修の和菓子を題材にした塗り絵本。日本の四季を表す二十四節気を含む季節ごとの菓子40点を紹介。左ページの見本(絵・今井未知氏)を見ながら、右ページの塗り絵が塗り進められる構成。和菓子の説明や材料などの解説付(自由国民社・1,485円)。

  • 『北斎 ぬりえミュージアム』
    『冨嶽三十六景』の富士山から、北斎漫画のユーモアあふれる画、百物語のお化けまで、葛飾北斎の名作が30枚の塗り絵になった一冊。巻頭にはカラーの作品リスト、貼って楽しいスペシャルシール、北斎についての解説ページなども設けられている。全文英訳付(小学館・1,100円)。

  • 『美しい文様ぬりえ大人のための繊細で緻密な文様』
    イスラム文様、インド文様など、世界に伝わる文様をベースに、多数の図柄を収録した、塗りごたえたっぷりの一冊。繊細かつ緻密な文様は、色の配置を変えるだけで、自分だけの表現ができる(ホビージャパン・1,485円)。

  • 『レオンの足跡をたどれば〜猫と一緒に季節をめぐる旅のぬりえ〜』
    猫のレオンが旅をする物語仕立ての塗り絵本。四季の美しい景色、愛らしい動物たちにいやされながら、旅のゴールまで塗り絵が楽しめる。フルサイズ、カードサイズ、ミニサイズの3タイプの塗り絵を収録(江種鹿乃子著・ナツメ社・1,650円)。

紀伊國屋書店 新宿本店

TEL 03-3354-0131(受付 10:30AM~8:30PM)
東京都新宿区新宿3-17-7
10:00AM~9:00PM
無休

https://store.kinokuniya.co.jp/store/shinjuku-main-store/

こだわりの画材を探すなら

 作品作りに欠かせないのが紙、鉛筆や絵具などの画材類だ。ひと通りのものが揃う画材店やある種の画材に特化した店舗など、その業態はさまざま。描きたいものの表現の幅を広げてくれる画材を探しに、こだわりの画材店に出かけよう。

すべてがオリジナル製品。ホルンのマークが目印

 純国産の絵具製造から出発した、1917(大正6)年創業の東京・銀座にある画材店。店内にところ狭しと並ぶ、絵具や絵筆、パレット、スケッチブックはもちろん、それらを持ち運ぶためのバッグに至るまで、すべてがオリジナルの製品だ。アーティストとのコミュニケーションを大切にし、対話のなかから自社製品を開発している。トレードマークのホルンは、与謝野鉄幹・晶子夫妻を中心とした文化人グループが、ホルンの音のもとに多くの仲間が集まるようにと、願いを込めて考案したものだという。

  • 顔料とロウでできた芯だけの「色えんぴつ12色」(1,540円)。

  • 窓ガラスに描くことができ、サッと拭き取れる水溶性のクレヨンタイプの画材「カラーコンテ 12色」。鮮やかな発色で、紙に描いて水でにじませることもできる。(2,750円)。

  • 鮮やかな色調の「透明水彩 基本12色セット」(7,480円)。

月光荘画材店 [東京]

サムネイル

TEL 03-3572-5605
東京都中央区銀座8-7-2 永寿ビル1階
11:00AM~6:00PM(土・日・祝 ~5:00PM)
年末年始休

https://gekkoso.co.jp/

豊富なオリジナル商品が並ぶ店内。

プロから初心者まで、愛用できる伝統画材ラボ

 アーティストの多様な表現を支える良質な絵画材料を揃え、ショップ、ラボ・ワークショップを備えた絵画材料専門の施設。広さ約200平方メートルのゆったりした店内には、4500色にもおよぶ顔料、600種類を超える絵筆や刷毛、硯(すずり)、膠(にかわ)、箔(はく)などの画材を陳列している。古墨や和紙、木枠などの品揃えも豊富で、眺めているだけで創作意欲が刺激される。専門知識が豊富な現役のアーティストであるスタッフがアドバイスしてくれるので、初心者も安心して訪れることができる。

  • 岩絵具を使いたい人向けのスターターセット「PIGMENT SELECT日本画セット/新岩絵具24」(24,750円)。

  • 日本の光に合わせて色が作られた「ゴンドラパステル150色セット」(桐箱入・23,980円)。

  • 岩絵具を使用して描いたアジサイ。

PIGMENT(ピグモン) TOKYO [東京]

サムネイル

TEL 03-5781-9550
東京都品川区東品川2-5-5 TERRADA Harbor Oneビル1階
11:00AM~7:00PM
月曜(祝日の場合は営業)、年末年始休

https://pigment.tokyo/

顔料が4500色以上並ぶ店内の棚は圧巻。

古書の町にある、老舗総合画材店

 1887(明治20)年創業の総合画材店。古書店や画廊が集まる東京・神田神保町にあり、1921(大正10)年に専門家用の油絵具を開発・販売した店として知られている。築約120年を経た趣のある建物の内部は、1階に文房堂オリジナル油絵具、洋画材料、セレクト雑貨、2階に文具、デザイン・コミック用の画材、6階に額縁、地下1階に版画、粘土、紙、絵手紙材料などを取り揃えている。ギャラリーやアートスクール、カフェも併設。買い物ついでにアートに浸る時間を過ごすことができる。

  • エドガー・ドガが愛し、印象派の画家たちが好んで使った「ラ・メゾン・ドゥ・パステル」のコレクション。「パステル フルサイズ5色セット」(木箱入・21,450円)。

  • ドイツ、ファーバーカステル社の「ポリクロモス色鉛筆」(33本+消しゴム付・15,730円)」。

  • すぐに水彩画制作がスタートできる道具一式とテクニック冊子がセットになった「木製水彩画箱」(21,780円)。

文房堂(ぶんぽうどう)神田本店 [東京]

サムネイル

TEL 03-3291-3442
東京都千代田区神田神保町1-21-1
10:00AM~6:30PM
年末年始休

http://www.bumpodo.co.jp/

歴史が感じられる重厚な外観。

心斎橋モダニズムの歴史とともに歩んだ老舗画材店

 1920(大正9)年に大阪・心斎橋に創業し、画商が少なかった時代には、藤田嗣治(つぐはる)の作品を預かったことでも知られる老舗画材店。現在は日常使いの文房具から専門的な画材道具、額縁など幅広く取り扱い、サンプルやPOPを作成し、美術にふれる楽しさ、喜びを感じられる売り場展開を実施している。店内にはワークショップやアーティストの作品展示スペースも設けられ、アートを創作する人、アートを身近に感じて楽しむ人の双方にとって、居心地のよい時間と空間を提供する。

  • 透明感があり発色のよい「ホルべイン 透明水彩絵具グラニュレーティングカラーズ」(24色・9,680円)。

  • 「ホルべイン 透明水彩絵具グラニュレーティングカラーズ」の色見本。

  • 日本の伝統色の固形色墨「彩墨 あや」のシリーズ。左から、臙脂(えんじ・1,320円)、若草(1,980円)、黄土(1,210円)。

カワチ心斎橋店 [大阪]

サムネイル

TEL 06-6252-5800
大阪市中央区東心斎橋1-18-24 クロスシティ心斎橋2階
11:00AM~7:00PM
年末年始休(ほか特別行事日休)

https://www.kawachigazai.co.jp/

黒を基調としたモダンなエントランス。

取材・文/土井ゆう子 写真/伏木 博、合田慎二
●取材時期:2025年5月上旬 ※価格は消費税込。
※価格など掲載内容は施設、店舗の諸事情により変更となる場合があります。

ページトップへ戻る