いつ訪れてもその季節にあった楽しみ方ができる金沢は、秋を迎えてさらにその魅力を増す。加賀百万石の文化と恵まれた自然環境が調和し、いまだから見られる景色、いましか味わえない料理がある。名店揃いの金沢で、城下町の風情とともに、美食や美景にいくつもの秋を見つけたい。
2025.8.25
街歩きしながら秋の景色を探す
金沢と聞いてまず思い浮かべるのは、「兼六園」や「玉泉院丸庭園」といった歴代加賀藩主が手がけた大庭園だろう。だが、藩主の名園とは規模こそ違えど、加賀百万石の時代を生きた武家の屋敷にも訪れるべき庭園がいくつかある。
秋の金沢を訪れたなら、紅葉したドウダンツツジが見事な「武家屋敷 寺島蔵人邸」へ。寺島蔵人は禄高450石の中級武士であり、画家でもあったという風流人。黄色から橙色へとグラデーションしながら鮮やかに色づく無数の小さな葉は、座敷から眺める景色のなかでひときわ存在感を放つ。「ドウダンツツジの成長はとてもゆっくり。同時期に植えられたのではないかと思われるイロハモミジの太い幹を見ると、その成長速度が想像できると思います」と寺島家の寺島恭子氏は話す。これほど大きな木は珍しいそう。
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この庭の水のない池にちなみ蔵人が書斎を「乾泉亭」と名付け、文人画家の浦上玉堂が扁額を残した。
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一般的に庭木として植えられる観賞用の樹木のほかに、有事に備えて実のなる木が多くあるのが武家の庭の特徴だそう。天気がよければ縁側から庭へ降りて散策できる。
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波打つような枝ぶりが独特なドウダンツツジ。10月24日(金)、25日(土)にはライトアップも開催。
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家屋と庭園、土蔵、土塀などが市の文化財に指定されている。蔵人の書画など寺島家に伝わる名品も展示される。
兼六園近くの「西田家庭園『玉泉園』」は、加賀藩の重臣であった脇田家の庭園。兼六園が完成する約120年前には完成していたという。傾斜を生かした上下2段式の池泉回遊式庭園となっており、作庭様式は中国の山水図をもとにした「玉澗(ぎょっかん)様式」と呼ばれるもの。築山や池、名石などを配し、深山に分け入ったような自然に近い姿の庭園に、色づいたカエデやイロハモミジの紅葉が常緑の草木に映えて、よりいっそう鮮やかに感じられる。

庭園を巡りながら街を歩くと、金沢市役所に続く「アメリカ楓通り」の赤い葉が目に飛び込んでくる。高さ約15メートルのアメリカフウの木の葉が一斉に紅葉し、壮観な景色が楽しめる。

武家屋敷 寺島蔵人邸
TEL 076-224-2789
石川県金沢市大手町10-3
9:30AM~5:00PM(最終入館は閉館30分前、呈茶は4:00PMまで)
入館料:大人310円
火曜(祝日の場合は翌平日)、展示替えなどの期間、年末年始休
西田家庭園「玉泉園」
TEL 076-221-0181
石川県金沢市小将町8-3
9:00AM~5:00PM(12月 10:00AM~4:00PM)
入園料:大人700円
水曜、12/25~2月末休
アメリカ楓通り
石川県金沢市広坂2丁目付近
見学自由
秋冬の味覚を 名店揃いの金沢で
料亭文化が根付く金沢で、そのよさをレストランスタイルで味わえる「かなざわ玉泉邸」。西田家庭園「玉泉園」に隣接しており、江戸時代末期の武家屋敷を利用した店内から名園を眺めつつ食事ができるすばらしいロケーションだ。地元の料亭で腕を磨いた料理長が、食材選びから調理、盛り付けに至るまで丁寧に手をかけ、石川が誇る季節食材を堪能させてくれる。11月6日は地元の人も待ちわびるズワイガニ漁の解禁日。この時期から会席料理の献立にもカニが登場する。
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目と舌で秋らしさを感じられる料理。メスのズワイガニ「香箱ガニ」は漁期が11月6日から12月29日までと定められているため、味わえるのはこの期間のみ。
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秋の終わりごろから市場に出始めるマダラの白子は酢の物で。新鮮なものはややピンクがかっている。
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主庭池を正面に眺められる個室「仙叟(せんそう)の間」。
寒さが増すと食べたくなるのが、金沢グルメの代表格にもなっている金沢おでん。一般的なおでん種の大根や卵、こんにゃくなどと一緒に、車麩や梅貝、赤巻といったこの地方独特の具材を煮込むのが特徴だ。もともとおでんは、すぐに出せるものとして用意していたメニューで「自然に定着した料理なので、具は同じでも店ごとに違いがあるのが面白いところ」と、金沢おでんを提供する老舗居酒屋「季節料理 おでん 黒百合」3代目店主の和田 純氏はいう。おでんのほか、刺身や焼き魚などの一品料理も充実していて、地酒がすすむ。
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2種類のカツオ節と昆布、煮干しで取った一番だしにサバ節を入れてコクを出すのが家伝の味。
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大きなおでん鍋のある板場を囲むカウンター席は、早い時間からおでんをつまみながら酒を楽しむ人々でにぎわう。
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車麩(350円)、赤巻(250円)、梅貝(700円)などが金沢おでんを代表するおでん種。刺身盛合せ五種盛(1,800円)や白山麓の名物白山堅豆腐(580円)などメニューが豊富。
秋の味覚といえば栗。ひがし茶屋街にある「和栗白露」は、能登で栽培される“能登栗”を使った話題の和栗菓子専門店。能登栗の農家は高齢化により年々減少し、さらに能登地震の影響を甚大に受けた。店主の坂本太朗氏は契約農家から仕入れるだけでなく、自家農園でも栗を栽培する。古くから能登の風土を表現する“能登はやさしや土までも”という言葉があるように、能登栗も滋味深く優しい味わいをしている。
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「金茶」(2,530円)は味の濃い美玖里(みくり)という品種の栗のみを使用。
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能登栗の「榛摺(はりずり)」(3,300円)。甘さを引き出すために低温で熟成後、焼き栗にして作ったペーストを食べる直前に細く絞り出して仕上げることで、香ばしい焼き栗の香りが際立つ。
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築100年の金沢町家を利用したカフェ。テイクアウト商品も販売。 ※「榛摺」は2024年収穫分は品切れのため、再販は2025年秋を予定。
かなざわ玉泉邸
TEL 050-5485-1463
石川県金沢市小将町8-3
正午~3:00PM、6:00PM~9:00PM ※要予約
月曜休(祝日の場合は営業)
季節料理 おでん 黒百合
TEL 076-260-3722
石川県金沢市木ノ新保町1-1 金沢百番街「あんと」内
11:00AM~9:00PM(L.O.)
1/1休 ※ほか年に3回不定休あり
和栗白露
石川県金沢市観音町3-1-16
11:00AM~5:00PM(カフェは4:30PM(L.O.))
不定休
取材・文/山下あつこ 写真/シンヤシゲカズ、山岸政仁
●取材時期:2025年4月中旬 ※価格は消費税込。 L.O.=ラストオーダー
※掲載内容は時期や天候、施設の諸事情により変更となる場合があります。