果物をはじめとする農産物が豊かで、「フルーツ王国」「ワイン県」などの異名がある山梨県。とくに甲斐市・甲府市・北杜市などの中北地域には、ワイナリーやウイスキーの蒸溜所など大人向けの見学施設がある。都心から2時間弱の小旅行に出かけよう。
2025.7.24
南アルプスの地層がうみだす名水の森へ
世界5大ウイスキーのひとつに数えられるジャパニーズウイスキー。世界でも人気の高い銘柄が多く、そのひとつをつくっているのが山梨県北杜(ほくと)市にある「サントリー白州(はくしゅう)蒸溜所」だ。
1973(昭和48)年に誕生した白州蒸溜所は、標高約700メートル、南アルプスの麓(ふもと)にあり、世界的に見ても珍しい高地に位置する森の蒸溜所だ。ウイスキーづくりの現場を知ると同時に、森林浴やバードウォッチングも楽しめる。ウイスキー人気の高まりとともに注目のスポットとなっているだけに入場は予約制、見学ツアーは抽選制なので、事前に申し込んでおこう。
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豊かな森のなかにあるサントリー白州蒸溜所。
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森に包まれた敷地内にある、野鳥がやってくるバードサンクチュアリ。深呼吸しながら散策したい。
「白州蒸溜所ものづくりツアー」(有料)では、ウイスキーづくりの説明を受けながら、こだわりの木桶発酵槽やポットスチルといわれる蒸溜釜が並ぶ蒸溜棟、樽に入ったウイスキーが眠る貯蔵庫などを見学し、最後には「白州」や稀少なモルトウイスキー原酒のテイスティングができる。ウイスキーファンにはたまらない内容となっている。ツアーに参加しなくてもテイスティングラウンジやレストラン「Hakushu Terrace(はくしゅうテラス)」でも「白州」が味わえる。
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貯蔵庫(見学はツアー参加者限定)では、熟成期間による樽内の変化がわかるように展示。熟成が進むにつれ、琥珀色に色づき、濃厚で複雑味が増した香味になる。
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大きさや形が異なる銅製の蒸溜釜が並ぶ蒸溜棟(ツアー参加者限定)。
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蒸溜棟ではウイスキーの製造工程をプロジェクションマッピングで紹介。
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シングルモルトウイスキー「白州」をはじめとするサントリーのウイスキーを揃える「セントラルハウス テイスティングラウンジ」。窓の向こうに緑を眺めながら、さまざまな飲み方でウイスキーをテイスティングすることができる(有料)。
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山梨県産の食材をふんだんに使い、石窯で焼きあげた「白州フォレストピザ」(2,200円)と、ウイスキーと同じ仕込み水でつくったソーダ水と合わせた「白州 森香るハイボール」(700円)。レストラン「Hakushu Terrace」で味わえる。
白州にウイスキー蒸溜所が建設されたのは、南アルプスの花崗岩層で磨かれたキレのよい軟水がウイスキーづくりに向いていたからだが、同じく水と熟成にこだわるのが鰻店「小淵沢 井筒屋」。鰻を地下約40メートルから汲み上げた清冽な水で生かした後、独自の熟成を施し、炭火で焼きあげる。皮目はパリッ、なかはしっとり、ふっくら。その豊潤な味わいと香ばしい匂いに魅せられる。
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独自の血抜きと熟成の技法を取り入れることで生臭みがなく、うまみが凝縮された鰻を、高熱になるオガタンと紀州備長炭で焼きあげる。「熟成竹めし」(6,050円)。まず、そのまま味わった後で、薬味とだしをかけて食べる。
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古民家の風情漂う店内。
サントリー白州蒸溜所
TEL 0551-35-2211
山梨県北杜市白州町鳥原2913-1
9:30AM~4:30PM(最終入場4:00PM)
年末年始・工場休業日休(ほか臨時休業あり)
※入場には公式ウェブサイトより「ウイスキー博物館・セントラルハウス入場(無料)」の予約が必要
見学コース「白州蒸溜所ものづくりツアー」参加費:3,000円(10:00AM~、11:05AM~、0:10PM
~、1:15PM~、2:20PM~(所要時間約90分))
※予約抽選制。公式ウェブサイトで要確認
Hakushu Terrace はくしゅうテラス
TEL 050-1721-7155
10:00AM~4:30PM(フード 3:30PM(L.O.)、ドリンク 4:00PM(L.O.))
セントラルハウス テイスティングラウンジ
10:00AM~4:30PM(4:00PM(L.O.))、ギフトショップ 9:30AM~4:30PM
小淵沢 井筒屋
TEL 0551-36-5990
山梨県北杜市小淵沢町1035
11:00AM~1:45PM(L.O.)、5:00PM~7:15PM(L.O.)
火・水、12/31・1/1休
眼下に広がる甲府盆地の眺望とワインを味わう
2019年8月から「ワイン県」を宣言している山梨は、日本ワイン発祥の地といわれ、ワイナリーの数は日本で最も多い。甲府盆地一帯はその一大生産地だ。日本ワインの評価が高まる昨今だが、ワインづくりの現場を訪ねて「サントリー登美の丘ワイナリー」にやってきた。標高400〜600メートルの高台にあるワイナリーに到着すると、眼下にブドウ畑と甲府盆地、はるかに富士山を見晴らす絶景が広がる。まずは予約した「FROM FARMワイナリーツアー」(有料)に参加する。専用バスに乗り込み、広大なブドウ畑へと向かう。
開園は1909(明治42)年。約150ヘクタール、東京ドーム約32個分もの敷地が広がる。年間日照時間が長い山梨県のなかでもとくに雨が少なく、昼夜の気温差が大きいこの土地は、ブドウの栽培に適したエリアだという。収穫時期はブドウの種類によって異なるが、晩夏から初秋はそろそろ収穫が始まる季節。房になったブドウの姿を間近に見ることができる。次に向かうのは、石造りのワイン熟成庫。なかに入ると、ひんやりとした空気に包まれ、気持ちがいい。夏でも16度前後、湿度60パーセント程度に保たれているこの場所で、フレンチオークの樽に詰められたワインが熟成される。
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ワイナリーのなかで最も高い標高約600メートルにある眺望台(見学はツアー参加者限定)。ブドウ畑とともに南アルプス、八ヶ岳、富士山など、雄大な山々を見渡せる。
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ソファでゆったりとワインが楽しめる「富士見テラス」。
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日本固有の白ワイン品種「甲州」。淡い藤紫色の果実が美しい。
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山をくり抜いて造られた重厚感ある石造りの熟成庫外観(見学はツアー参加者限定)。
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樽が並ぶ樽熟庫内。発酵後の若いワインは、樽に詰めて熟成されることで、渋みや酸味が穏やかになり、深みが増す。隣には瓶に詰めたワインを熟成させる瓶熟庫もあり、飲みごろを迎えて出番を待つワインが並んでいる。
ワイナリーツアーでは解説付で試飲が楽しめるが、ワインショップでのテイスティングもまた楽しい。栽培や醸造過程を知れば、つくり手の情熱やロマンを共有した気分に。特別なワインを取り揃えたプレミアムワインのセラーや、100円から気軽に楽しめるものもある。
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熟成庫のような雰囲気のワインショップ。登美・登美の丘シリーズなど、世界のワインコンクールで賞を獲得してきた銘柄も並び、ゆっくりと選べる。
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「サントリー登美の丘ワイナリー」を代表する3種(各45ミリリットル)が味わえる「登美の丘フライト」(1,500円)。ソムリエの長久保正邦氏がワインの説明をしてくれる。
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ワインショップの奥にあるサーバーでは、プレミアムワインが味わえる(各30ミリリットル・1,500円、各45ミリリットル・2,000円)。
時代に合わせて進化する山梨の手仕事「甲州印伝」のいま
「甲州印伝」とは、鹿革に漆で模様を施した工芸品。鹿革は軽くて丈夫であることから戦国武将の武具などに使われ、厄除けや身を守る意の「亀甲」や、「勝ち虫」といわれるトンボの柄など、さまざまな模様が施された。江戸時代になると武具の需要は減り、巾着などの袋物が多く作られるようになり、次第に財布や名刺入れ、バッグなど製品も多様化。現在は経済産業大臣が指定する伝統的工芸品になっている。
「印伝の山本」は1955(昭和30)年に創業。3代目としてその技術を継承し、進化をもたらしているのが山本裕輔氏。同店では色鮮やかでバリエーション豊富な柄の印伝を購入できる。また、好きな色や模様を組み合わせて、1点からオーダーできるのも魅力だ。ゲーム会社やアニメなどとのコラボ商品を幅広く展開するとともに、現在、輸入に頼っている素材についても新しい試みを始動。鹿革は地元の猟友会と協力し、害獣駆除として捕らえたニホンジカの革を活用。漆は北杜市で植林するなど、未来へ続くプロジェクトに取り組んでいる。
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山梨県産の鹿革を使用し、革のなめし技法にもこだわり環境負荷の少ない製法で製作。上はカードケース(16,500円)、下の白はパスケース(11,000円)。
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カラフルに染めた鹿革を使用したがまぐち。模様は伝統的な柄やモダンな柄など多種多様で、口金の形も異なる(3,000円~)。
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伝統的なトンボ柄の合切袋(がっさいぶくろ)(170×235ミリメートル・15,400円)。口紐のある縦型の袋物で、ほかのサイズもある。
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伝統工芸士(総合部門)の称号をもつ山本氏。写真は鹿革に伊勢型紙をのせ、漆を刷り込み、型紙から外すところ。漆付けから縫製までひとりで仕上げる。
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伝統的なものから新しいスタイルのものまで、豊富な品が並ぶ店内。
印伝の山本
TEL 055-233-1942
山梨県甲府市朝気3-8-4
9:00AM~6:30PM(土 10:00AM~6:00PM)
日・祝、お盆、年末年始休
取材・文/土井ゆう子 写真/中田浩資
●取材時期:2025年2月中旬 ※価格は消費税込。 ※掲載内容は時期や天候、施設の諸事情により変更となる場合があります。