銘酒のある食卓 エールビールの代表イメージ

銘酒のある食卓

週末を豊かに彩る

銘酒のある食卓
エールビール

真空状態を利用したハンドポンプで注ぐ、昔ながらの“リアルエール”。英国の伝統的な製法で造られている。

ビールにはラガーとエールのふたつの主要なジャンルがあり、日本で広く親しまれているのは、キレと喉ごしのよさに特徴があるラガービール。一方、近年は個性豊かな味わいのエールビールの人気が高まり、さまざまな銘柄が生産されている。

2025.8.20

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華のある香りと個性あふれる味わい

 「ラガーとエールの大きな違いは、酵母にあります。日本の大手ビールメーカーが造っているのは、ほとんどがラガービールで、その発酵温度は0〜10度。発酵が進むと酵母が麦汁の底に沈む『下面発酵酵母』を使ったビールです。一方、エールは発酵温度が15〜25度で、酵母は発酵中に麦汁の表面に浮かびあがる『上面発酵酵母』を使用しています。一般的にラガーは香りが穏やかで、すっきりとした味わい。エールは香りが豊かで、うまみや味の強いタイプのものが多く、一気に飲み干すというより、ゆっくりと味わうタイプのビールです」。こう解説するのは大阪「ALE HOUSE 加美屋」のオーナー、船井忠司氏。
 料理との相性は、エールビールは香りに特徴があるので、同じ風味の料理と合わせたり、うまみが強いものや油分のある料理と合わせたりするのがよいという。

お店のおすすめのお酒
右、ベルギー・ヒューグ醸造所「デリリウム トレメンス」(ストロングゴールデンエール)(瓶330ミリリットル・1,700円)は、ほのかに甘く、後から強い苦みがやってくるタイプ。中央、長野県・ヤッホーブルーイング「インドの青鬼」(アメリカンIPA)(450ミリリットル・1,100円)は、華やかなホップの香り、強い苦みとコクが特徴。左、栃木県・ISHII BREWING「ORIHIME(おりひめ)リアルエール」(ペールエール)(600ミリリットル・1,600円)は、超微炭酸でホップと麦の香りのバランスが絶妙。

 「エールビールにはさまざまなスタイルがあります。ここ数年、人気が続いているのは、アメリカンホップ由来の柑橘の香りと強い苦みが特徴の、アメリカンIPA(インディア・ペールエール)です。一方、アルコール度数が低めで、苦みを抑えたヘイジーIPAを好む人も多いですね。また、しばらくアメリカンIPAの人気が続いた反動からか、最近はホップよりも麦の味わいをしっかり出した英国のペールエールの人気も高まってきています」
 個性豊かなエールビールをいろいろ飲み比べてみると、ビールの世界がより広がるだろう。

ベストマッチな3品

  • 蝦夷鹿のロースト
    クミンを利かせた蝦夷鹿のローストに、バルサミコソースとクリーミーなマッシュポテトが添えられている。ひと皿の分量が少なめで、つまみとして味わうのにちょうどいいひと品(400円)。合わせたいビールは「デリリウム トレメンス」。ほのかに甘みのあるビールとバルサミコソースの香りがよく合い、淡白な蝦夷鹿の味わいを引き立てる。

  • 奈良漬のポテトサラダ
    七味唐辛子と青のりをかけた奈良漬入りのポテトサラダと、香ばしく焼いたバゲット(400円)。合わせたいビールは「インドの青鬼」。アメリカンホップ特有の柑橘系の香りが、七味唐辛子のなかに入っている陳皮(乾燥させたミカンの皮)の風味とマッチ。マヨネーズが、ビールの後味の強い苦みをリセットしてくれる。

  • 加美屋式から揚げ
    八丁味噌とスタウト(黒ビール)を合わせたタレに、鶏モモ肉を浸け込んで揚げた唐揚げ(1個・250円)。奈良漬入りのタルタルソースや、それを燻製したソースが用意されている。合わせたいビールは「ORIHIME リアルエール」。うまみの強いリアルエールと、味噌の風味が浸み込んだ唐揚げでうまみの相乗効果が楽しめる。

ALE HOUSE 加美屋(エールハウス かみや)

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TEL 06-6363-0876
大阪市北区堂山町2-10 K1ビル地下1階
5:00PM~翌2:00AM
金 5:00PM~翌5:00AM(祝前日の場合 3:00PM~)
土・祝前日 3:00PM~翌5:00AM
日・祝 3:00PM~翌2:00AM(すべて祝前日の場合 ~翌5:00AM、フードL.O.は閉店1時間前)
不定休

https://beer-kamiya.com/

エールビールと合わせたい2品

 香りや味わいにそれぞれ個性のあるエールビールを自宅で楽しむとき、どんな料理を用意すればよいのだろうか。東京「シャムロック バイ アボットチョイス」のグランシェフ・久保田功明氏に、その作り方を教えてもらった。
 エールビールとひと口にいっても、さまざまなビアスタイルがあり、その香りや味わいは千差万別だ。今回は代表的なIPAとペールエールに合う料理の作り方を久保田氏に教えてもらった。
 IPAは、かつて英国からインドへビールを海上輸送するために、傷まないよう防腐剤の役割をもつホップを大量に使用したことから生まれたビアスタイル。香りと苦みが強く、パンチのある苦みがクセになるという。
 「このスタイルの『志賀高原IPA』(店内価格473ミリリットル・1,200円)に合わせたのが、『ししとうの味噌カリーヴルスト ソテー』。カリーヴルストとは、ソーセージにケチャップ味のソースとカレーパウダーをかけた、ドイツで定番のつまみです。味噌と日本酒を加えたソースで炒めることで日本風にアレンジしました。味噌や日本酒の甘みが加わることでマイルドになり、IPAの強い苦みと調和します。『志賀高原IPA』は、ホップの野生的な香りと、ローストした麦芽の力強い風味があり、飲みごたえのあるビールです。味噌とカレーの風味をしっかりと受け止めてくれるでしょう」
 もうひと品は、英国で1845年に設立されたフラーズ醸造所のペールエール、「ロンドンプライド」(店内価格473ミリリットル・1,200円)に合わせた「サバ缶 DE ブルスケッタ」。
 「『ロンドンプライド』は、英国のパブでおなじみの伝統的なペールエール。香ばしい麦の風味と軽い酸味、やわらかな苦みの余韻が楽しめる、バランスのよい味わいが特徴です。幅広い料理と合わせやすいビールですが、今回はサバ缶を使用したつまみをご紹介します。トマト、レモンなどの酸味と、ハチミツの甘み、香ばしくから煎りしたカシューナッツが、ビールの風味と調和します。サバ缶に限らず、ツナ缶やサラダチキンを使用して作るのもおすすめです」
 冷やしてグイグイ飲める、飲み口が軽いラガービールに対して、少し温度が上がってもおいしく飲めるエールビールは、料理をつまみながらゆっくり飲むのに向いているといえる。
 「シャムロック バイ アボットチョイス」では、樽生ビール25タップのうち、半数以上がエールビール。さまざまなタイプがあるので、旬の食材やジビエなどを使ったシェフおすすめのメニューと合わせて楽しめる。自宅でつまみを作るときのヒントになるに違いない。

ししとうの味噌カリーヴルスト ソテー
×
長野・玉村本店 志賀高原IPA
(インディア・ペールエール)

■材料(2名分)

  • ソーセージ…100グラム
  • ジャガイモ…1個
  • シシトウ…6~8本
  • ケチャップ…大さじ2
    日本酒…大さじ2
    味噌…小さじ1
  • サラダ油…適量
  • 塩・コショウ…各少々
  • カレーパウダー…大さじ1

■作り方

  • ❶ソーセージをひと口サイズに切る。ジャガイモは皮ごとひと口サイズに切り、下ゆでしておく。
    ❷シシトウは竹串などで1本につき2、3ヵ所穴を開ける。

  • ❸ボウルに㋐を入れて合わせ、味噌をよく溶いておく。

  • ❹フライパンにサラダ油を入れて加熱し、ジャガイモを入れて中火で炒める。こんがりと焼き色が付いたらソーセージを入れてさらに炒める。

  • ❺ソーセージに焼き色が付いたらシシトウを入れて、塩・コショウを振る。
    ❻シシトウに火が通ったら、③を注ぎ入れて炒める。

  • ❼仕上げにカレーパウダーを加えて、炒め合わせれば完成。

サバ缶 DE ブルスケッタ
×
英国・フラーズ醸造所 ロンドンプライド(ペールエール)

■材料(2名分)

  • サバ水煮缶…1缶(190グラム)
  • トマト…1個
  • バジル(みじん切り)…葉3~4枚分
    オリーブオイル…小さじ2
    塩・コショウ…各少々
    レモン果汁…5ミリリットル
    ハチミツ…3グラム
  • カシューナッツ…約20粒
  • おろしニンニク…小さじ2
    オリーブオイル…大さじ2
  • バゲット(厚さ1センチメートル)…4枚

■作り方

  • ❶サバ缶は水切りしてから身を細かくほぐし、大きな骨は取り除き、ボウルに入れる。
    ❷トマトは皮を湯むきし、約3ミリメートル角に切り、①に加える。

  • ❸別のボウルに㋐を入れ、混ぜ合わせておく。

  • ❹カシューナッツを包丁で粗く刻む。

  • ❺フライパンでから煎りして香ばしさを出す。

  • ❻②に④を加え、③を入れてあえる。
    ❼㋑を合わせて、バゲットの片面に塗り、オーブントースターでこんがりと焼く。焼きあがったら、その上に⑥を適量のせれば完成。

シャムロック バイ アボットチョイス

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TEL 03-6434-5589
東京都港区六本木7-13-6 コンドウビル1階
3:00PM~翌5:00AM
無休

https://www.instagram.com/shamrock_roppongi/tsukishima/

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お店のおすすめメニュー
手前は、「フィッシュ&チップス」(Mサイズ・1,210円)。冷凍の魚は一切使わず、魚の種類はスズキやヒラメ、アンコウなど、仕入れ状況によって異なる。衣にビールを使って、香り高くふっくらと揚げている。写真はスズキを使用。奥のビールは、スコットランド ブリュードッグの「キング クラッシュダブルミルクシェイクIPA」(118ミリリットル・1,450円、236ミリリットル・1,700円)。マンゴーやパッションフルーツなどのアロマが広がり、ほのかにホップの苦みが感じられる。

エールビールで人気の6つのスタイルを詳しく紹介

 クラフトビールを中心に、国内外のビールを販売する「HOP STAR」に、エールビールで人気のビアスタイルを教えてもらうとともに、その一例をピックアップしてもらった。仕入れ状況によって早いサイクルで切り替わるが、一期一会の出合いも魅力のひとつだ。

  • IPA アイピーエー

    ホップの強い香りと苦み、しっかりとした飲みごたえ
    インディア・ペールエールの略称で、クラフトビールの代表的存在といえる。ホップが大量に使われていて、香りと苦みが強く、アルコール度数も高いものが多い。兵庫県神戸市・オープンエア湊山醸造所の「ビッグドリームス」(350ミリリットル・869円)は、パイナップルのアロマと甘酸っぱさが特徴的な爽快で飲みやすいIPA。アルコール度数6.5パーセント。

  • Hazy IPA ヘイジー アイピーエー

    濁った見た目とトロピカルな香りが特徴
    hazy(濁った、かすんだ)な見た目が特徴で、色はオレンジや黄色。通常のIPAよりも苦みが控えめで、フルーティーかつジューシー。幅広い層に好まれている。アメリカ・フリモント ブリューイングの「ヘッドフル オブ ダイナマイト v60」(473ミリリットル・1,155円)は、マンゴーなどの香りとフローラルな香り。程よい甘さとほのかな苦みが感じられる。アルコール度数6.8パーセント。

  • West Coast IPA ウエストコースト アイピーエー

    キレのある苦みと柑橘系のホップの香り
    アメリカ西海岸で生まれたIPAの一種で、一般的に「アメリカンIPA」と呼ばれている。透き通った見た目で、北米産ホップ由来の柑橘系の香りと苦みが強い。三重県・ひみつビールの「ウィステリア」(350ミリリットル・1,155円)は、アメリカンホップ3種を使用し、花とフルーツの濃厚な香りとグレープフルーツのようなさわやかな苦みがある。アルコール度数6.5パーセント。

  • Sour Ale サワーエール

    さわやかな酸味と軽い飲み口が特徴
    乳酸菌や野生酵母などを使って造られる酸味のあるビール。脂っこい料理と合うだけでなく、暑い季節にもぴったりのビアスタイル。埼玉県・ティーンエイジ ブリューイング「マイ・ブラザー・ウッディ」(500ミリリットル・1,386円)は、酵母由来の酸味のなかに、より檜の風味が感じられるようドライ檜でさらに香り付けしている。アルコール度数5パーセント。

  • Farm House Ale ファームハウス エール

    スパイシーでドライな飲み口が個性的
    もともとは、ベルギー南部で農家が夏場に農作業の疲れをいやすために醸造していた「セゾン」というビアスタイルで、バランスのよさが特徴。アメリカ・ジェスターキングブリュワリーの「エルセドロ」(750ミリリットル・3,036円)は、アメリカンホップで香りと苦みをのせ、スペイン産杉板を入れて熟成。熟した柑橘の風味と木の香りが溶けあっている。アルコール度数7.8パーセント。

  • Stout スタウト

    焙煎した麦芽の香ばしさとコクが特徴の黒いビール
    原料の一部にローストした大麦を使用した黒ビール。香ばしいナッツやチョコレート、コーヒーのような香りが特徴。アメリカ・ノースコーストブリューイングの「オールド ラスプーチン」(473ミリリットル・1,155円)は、きめ細かな泡、甘みと苦みを感じさせるラムのようなアロマ、チョコレートのような濃厚で複雑な味わいが特徴。アルコール度数9パーセント。

取材・文/土井ゆう子 写真/合田慎二、伏木 博
※価格は消費税込。 L.O.=ラストオーダー
●取材時期:2025年3月下旬 ※価格など掲載内容は店舗の諸事情により変更となる場合があります。

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