サトウキビの搾り汁を主な原材料とする蒸留酒、ラム。カクテルやスイーツに使われる酒としてよく知られているが、独特の甘みとほろ苦さから、そのまま飲んでもおいしいスピリッツでもある。蒸留酒ブームの昨今、ラムへの理解を深めてみたい。
2025.7.14
気品ある甘みと独特のコクの強さを味わう
「ラムはサトウキビを原料にして造られるスピリッツ(蒸留酒)。その発祥はカリブ海の西インド諸島といわれています」。こう話すのは350種以上のラムを揃える「バー ランバリオン」のオーナーバーテンダー、菅原 翔氏。
大航海時代、コロンブスがカリブ海のエスパニョーラ島に持ち込んだサトウキビは、欧州での砂糖の需要の高まりとともに、その栽培が一気に広まった。「そんななか、厳しい環境で働く人たちが、砂糖を精製する際に出る副産物の“廃糖蜜”を発酵させて飲み始めたのがラムの起源だといわれています。現在では、南極大陸以外のすべての大陸で造られています」。

左、イギリス産「デッドマンズ フィンガーズ スパイスドラム」(858円)。バニラ、シナモンなどの風味に、ほのかなオレンジの香りが続く。中央、ニカラグア産「フロール・デ・カーニャ12年」(1,210円)。トーストナッツのアロマ、エレガントでやや甘みのある味わい。右、ラオスで日本人醸造家が造る「ラオディ ホワイト」(1,089円)。自社農園で栽培したサトウキビの一番搾りジュースから造る無農薬クラフトラム。すべてシングル(30ミリリットル)の価格。
ラムは糖蜜から造られるトラディショナルラムと呼ばれるものが大半だが、そのほかにも、サトウキビジュース100パーセントで造られるアグリコールラム、サトウキビジュースを煮詰めてシロップ状にしたものを原料とするハイテストモラセスなどがある。また、熟成や加工の違いでも分類され、樽熟成させないホワイトラム、2ヵ月から3年未満の樽熟成を経たゴールドラム、3年以上の樽熟成を行ったダークラム、さらに新しいジャンルとして、スパイスやハーブを漬け込んだスパイスドラムなどに分けられる。
「ラムそのものの味わいを楽しむならストレートがおすすめですが、僕はコーラで割ったラムコークや、少し水を加えてからお燗して飲むのも好きです。ラムで口のなかの温度を少し上げることで、シガーとの相性もよくなります」と菅原氏。ちなみに店名は、英国のデボンシャー地方の言葉で「高揚」「大騒ぎ」という意味があり、ラムの語源ともいわれる「ランバリオン」から命名。ラムはさまざまな製造法で造られる自由な酒。思い思いの飲み方で楽しみたい。
ベストマッチな3品
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キャベツとヤシの新芽のクミンシードマリネ
コスタリカやブラジルでポピュラーなヤシの新芽は軟らかく、ホワイトアスパラガスに似た味わい。キャベツ、ほのかな苦みと甘みのあるクミンシードとともにマリネしたひと品(550円)。パンチのある酸味は、なめらかな口当たりで、フルーティーな香りがある「ラオディ ホワイト」とマッチする。 -
自家製カステラ
ラムやラムベースのカクテルとともに味わってほしいという「自家製カステラ」(550円)。甘さは控えめで、硬めの生地が特徴。合わせたいラムは「フロール・デ・カーニャ12年」。バニラと焼きリンゴを思わせるエレガントで甘みのある味わいは、カステラに染み込ませるような感覚で楽しみたい。 -
天使のエビのアヒージョ
殻が薄く、身の締まりがよい「天使のエビ」を、頭や殻を付けたままガーリックオイルで煮込んだ料理(1,408円)。エビの香ばしさとガーリックの香りが食欲をそそる逸品。合わせたいのは、シーフードレストランのオリジナルラムとして造られた「デッドマンズ フィンガーズ スパイスドラム」。
バー ランバリオン

TEL 042-727-1065
東京都町田市原町田6-20-10 中野屋ビル地下1階
6:00PM~翌3:00AM(翌2:30AM(L.O.))
不定休
※サービス料:10パーセント
ラムと合わせたい2品
カクテルにして飲むことが多いラムだが、そのものを味わいながら食事も楽しむとなると、どんな料理と合わせるのがよいのだろう。東京・月島「TANGLIER」のオーナーバーテンダー、平木崇史氏におすすめの料理を教えてもらった。
「ラムといえば、トロピカルなイメージのカクテルのベースとして使われることが多いからか、日本では甘いお酒のイメージがあります。でも実際には、ドライなもの、ライトなもの、ちょっとクセのあるものなど、味わいはそれぞれ大きく異なります」と話す平木氏。いろいろな国や地域で造られていて、それぞれの文化や歴史によりラムの造り方も異なり、味の幅が広く、自由な酒であることが魅力だという。アルコール度数も40度前後から75度くらいまでと多様だ。
「飲み方は、チョコレートやドライフルーツと合わせるならストレートがいいですが、食中酒として味わうならソーダ割りがおすすめです」と平木氏。
紹介している「ジャガイモとコンビーフのハーブ焼き」は、コンビーフの肉の脂と、チーズのコクが合わさった、うまみの強い料理。「サンチャゴ・デ・クーバ アネホ」(店内価格・30ミリリットル・1,300円)のような、しっかりとした味わいのなかにさわやかさがあるラムとよく合う。
「ジャークチキン」は、ジャマイカ発祥のスパイシーなグリル料理。ジャマイカ産で柑橘系果実の香味がある「ワーシーパーク オーバープルーフ」(店内価格・30ミリリットル・1,000円)と相性抜群。アルコール度数63度と高いので、炭酸を多めに入れると、キリッとさわやかな味わいになる。
「とにかくラムは自由なお酒なので、いろいろな料理と合わせてみましょう。飲みたいラムの原産国の料理を調べて作ってみるのも面白いかもしれません」
ジャガイモとコンビーフのハーブ焼き
×
サンチャゴ・デ・クーバ アネホ

■材料(1~2名分)
- ジャガイモ(中玉)…2個
- コンビーフ(缶詰)…80グラム
- タイム(パウダー)…大さじ1
- 塩…適量
- コショウ…適量
- シュレッドチーズ…ひとつかみ
- ドライパセリ(好みで)…適量
■作り方
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❶ジャガイモは芽の部分を取り除き、幅6~7ミリメートルに切る。
❷耐熱容器に①を並べて、ラップをかけ、600Wの電子レンジで4分加熱する。
❸フライパンにコンビーフを入れ、中弱火で炒める。 -
❹コンビーフの脂が溶けて軟らかくなってきたら②のジャガイモを入れる。
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❺タイム、塩、コショウを振って、コンビーフとジャガイモがなじむまで炒める。
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❻耐熱皿に④を入れ、シュレッドチーズをのせて、ラップをかけずに600Wの電子レンジで1分半加熱すれば完成。好みでドライパセリを散らす。
ジャークチキン
×
ワーシーパーク オーバープルーフ

■材料(1~2名分)
- 鶏モモ肉(唐揚げ用など)…200グラム
- ㋐オールスパイス…大さじ2
- ドライバジル…大さじ2
- トマトケチャップ…大さじ2
- 酢…大さじ2
- ニンニク(すりおろし)…小さじ1
- 塩…適量
- コショウ…適量
- トマトケチャップ…大さじ2
- マヨネーズ…大さじ2
- パクチー(好みで)…適量
■作り方
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❶鶏モモ肉をひと口大の大きさに切る。
❷鶏モモ肉と㋐を食品保存用ポリ袋に入れ、袋の外側からもみ込む。空気を抜いて袋の口を閉じ、3時間~ひと晩冷蔵庫に入れて味を染み込ませる。 -
❸フライパンを熱したら、②を入れて焼く。スパイスやハーブが焦げやすいので弱火にして、何度もひっくり返しながら、なかまで火が通るようにじっくり10分程焼く。
❹③を皿に盛り、トマトケチャップ、マヨネーズ、好みでパクチーを添える。
TANGLIER(タングリア)

TEL 03-4400-2208
東京都中央区月島3-12-8 月島アバックビル2階
5:00PM~翌1:00AM(0:30AM(深夜)(L.O.))
無休
※チャージ:600円

お店のおすすめメニュー
「キューバサンド」(1,500円)。オレンジでマリネしたローストポーク、ハム、チェダーチーズなどをはさんで焼いたホットサンド。ミントが香る「モヒート」(1,500円)と一緒に味わいたい。
おすすめの3銘柄
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ラオディ スパイスドラム ルアンプラバン
ラオス産の香辛料3種類を丸ごと自社製ホワイトラムに浸漬したスパイスドラム。ラオス北部特有の寒暖差によって育ったバーズアイチリ(唐辛子)は辛さがぎゅっと凝縮。その辛さがまず口に広がり、その後シナモンとカルダモンの甘みが余韻として続く。エキゾチックな甘みとピリピリとした刺激が特徴。アルコール度数45度(750ミリリットル・6,380円)
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房総ラム フルールブラン
千葉県南房総市にある自然派ラムブランド・ペナシュール房総の大井倉蒸溜所で造られるホワイトラム。特別に仕入れた日本独自の製法のモラセス(糖蜜)を原材料に仕込んでいる。一般的なトラディショナルラムと比べ、ラム独自の甘い香りがふくよかに感じられることから、ネオ・トラディショナルラムといわれている。アルコール度数40度(700ミリリットル・3,960円)。
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ロイヤル・センテナリオ 20年 フンダシオン
スコッチ樽で熟成させた中米コスタリカ産のプレミアム ダークラム。スコットランドのハイランド地区で使用されていたアメリカンホワイトオーク樽で熟成したラム原酒80パーセント、ローランド地区の樽で熟成したラム原酒を20パーセントの割合で使用。6~20年熟成のラム原酒をブレンドしている。甘口で、ハニーシロップのようになめらかでぜいたくな味わい。アルコール度数40度(700ミリリットル・9,680円)。
& SPIRITS.(アンド スピリッツ)
TEL 03-6416-5417
取材・文/土井ゆう子 写真/伏木 博
※価格は消費税込。 L.O.=ラストオーダー
●取材時期:2025年2月中旬 ※価格など掲載内容は店舗の諸事情により変更となる場合があります。