象の保護と地域の暮らしをサステイナブルにの代表イメージ

SDGs 世界の街からエシカル通信

チェンマイ/タイ

象の保護と地域の暮らしをサステイナブルに

象は鎖に繋がれておらず、自由に敷地内を歩ける。象は毎日、体の約10パーセントの重さに匹敵する、200~300キログラムの食料を必要とする。

人や地球環境、社会、地域に配慮したエシカルな考えや取り組みを、世界の街で暮らす人たちが日々の目線を通してレポートします。

2025.5.23

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 タイ第2の都市、チェンマイはバンコクから北へ約720キロメートルの場所にある。13世紀にラーンナー王朝の首都として栄えた古都で、当時の城壁や寺、文化などが残っていて、国内外の旅行者を魅了している。
 街から20分も車を走らせると、山や田園風景が広がり、トレッキングやコーヒー収穫、さまざまな民族の村でのホームステイなどのアクティビティーを楽しめる。なかでも、象とふれあえる象キャンプが人気だ。
 もともと象は山で伐採した木材を運ぶことに従事していたが、森林伐採が禁止されると観光業にかり出された。ショーや象乗り体験が象キャンプの目玉になり、多くの観光客を呼んだが、それと同時に象の負担も大きくなっていった。
 そんななか、象の保護とリハビリのための「エレファント・ネイチャー・パーク」(Save Elephant 財団)を1995年に設立したのがセーンドゥアン・チャイラート氏(通称レック。64歳)だ。子どものころに祖父が象をもらったことをきっかけに象への愛が深まり、後に森林伐採や観光業の悪環境で働かされている象を目の当たりにし、保護する活動を始めた。

象たちへの想いが多くの人々を惹きつける

  • プログラムのひとつ、「Sky Walk」では、高い位置から象を観察できる。

  • 象の誕生日には果物と米で作ったバースデーケーキをプレゼントする。

  • 「エレファント・ネイチャー・パーク」の創設者、レック氏。

  • レック氏を見つけると、母親を慕うように象がやって来る。象はお互いに面倒をみあう、愛にあふれた特別な生き物だとレック氏は話す。

 エレファント・ネイチャー・パークでは、虐待を受けたり、木材を運ぶときに地雷を踏んだり、目が見えなかったり、年をとったりした象を引き取っている。その数は100頭以上。施設には毎日大勢の観光客が訪れるが、象は人を乗せることも、ショーをすることも、働くこともせず、自由に過ごしている。そんな姿を見て、観光客は笑顔になって帰っていく。
 観光客が払うツアー代金は象の餌代やスタッフの報酬などに充てられるが、餌の農作物は村の農家から買い、スタッフは村の人を多く雇用するなど、地域の人に恩恵がいく仕組みを作っている。そうすることで、レック氏たちが地域の人から協力してもらえ、象を継続して保護できるからだ。

観光客、地域、パークのサステイナブルな循環

  • 子象や年老いた象、病気の象など、象の体調に合わせてスタッフとボランティアが果物を仕分ける。

  • 象が水浴びしたり、土遊びしたり、仲間とじゃれたりする様子を近くで観察できる。

 いまでこそ、観光客、地域、パークとみんながウィンウィンで、象を保護するサステイナブルな循環ができているが、ここに至るまでにはたくさんの壁があったという。川沿いのこの地に施設を作った当初、地域の人から猛反対を受けた。森林伐採や狩り、爆発物を使って漁をしていたのをレック氏が止めさせようとしたからだ。
 レック氏は、象を保護するプロジェクトを成功させるためには、地元の人をパートナーにしなければならないと思い、歩み寄った。学校や寺のトイレを建てたり、ペンキを塗ったり、図書館や橋を作ったり……。地滑りで村に死者が出たときは、片付けを手伝うと同時に森林を守る大切さを教えた。そんな地道な努力が功を奏し、地元の人が協力してくれるようになったという。
 こうした活動は国内外で評価され、これまでにさまざまな賞を受けている。象の保護はもちろん、植林などの環境問題にも取り組む。現在はコーヒーの苗を無料配布して植えてもらい、その豆を買い取って販売し、運営費に回すなど、多岐にわたってサステイナブルな循環を作っている。

取材・文・写真

岡本麻里 Mari Okamoto

ライター。1999年からタイ・チェンマイ在住。執筆、撮影、取材コーディネートなど、タイの文化を伝える活動を行う。著書に『タイの屋台図鑑』『タイ味紀行』『北タイごはんと古都あるき~チェンマイへ』などがある。

http://kuidaore-thai.com/

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