食の魅力が多く集まる福岡県は、玄界灘や響灘、周防灘、有明海と多様な漁場に恵まれているうえ、内陸には山間部や平野があり、農畜産物の生産も盛ん。中心街から程よい距離感にある豊かな自然が、福岡を食の都にしている。今回は、海山里の幸を味わえる糸島市やうきは市と、博多駅発着の観光列車にフィーチャーして紹介する。
2025.6.12
糸島
玄界灘を眺め、海山の恵みを食す
福岡市の中心部から車で30〜40分程で到着する糸島市は、良質な食材の宝庫として名高い。玄界灘に面しているため新鮮な海の幸はいわずもがな。「糸島野菜」としてブランド化が進む野菜の栽培をはじめとした農業や畜産業も盛んで、糸島食材を使うレストランも人気を博している。
店内から海が一望できる「Restaurant TASK」では、旬の糸島食材をふんだんに使った、見た目も鮮やかな料理が味わえる。オーナーシェフの開 智和氏は、フレンチひとすじ約30年のベテラン。かつて勤めていたホテルで使っていた糸島食材に惚れ込み、店を出すなら糸島で、と物件を探していたところ、理想の眺望がかなうこの店に出合い2022年にオープンした。開店から3年、いまでは地元生産者との繋がりも強固となり、漁師や農家から直接仕入れる食材も多い。「うちの店の料理を通して、糸島食材のおいしさを知ってもらいたい」と、素材の魅力を伝えるべく添加物などは極力使用していないという。開氏が標榜する“体にやさしいフレンチ”を、ロケーションとともに堪能したい。
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「Restaurant TASK」店内。初夏には海に沈む夕日を眺めながらのディナーが楽しめる。
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「糸島牛のグリエ」と「新生丸 サワラのロースト」(いずれも6,600円のランチコースの一例)。サワラは漁師から丸ごと1尾単位で仕入れて店で捌く。
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開氏と、サービスを担う妻・しのぶ氏。
海辺の別荘のようなたたずまいの「僧伽小野 一秀庵」は、1日2組限定のオーベルジュ。地元の海山の幸をふんだんに使った創作和食が味わえ、前営業日までに予約すればランチやディナーのみでも利用できる。宿坊をイメージしたという客室は華美な装飾を抑えており、窓の外に広がる穏やかな海の美しさがひときわ映える造り。館内には岩風呂と檜風呂のふたつの露天風呂があり、寄せては返す波の音を聞きながら湯あみが楽しめる。
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糸島牛をマデラソースで味わうひと皿と寒ブリのかぶら蒸し(夕食の一例)。宿泊はオールインクルーシブとなっており、夕食では月替わりのコースに加えて、カルパッチョやイカの姿造り、寿司、デザートなどのアラカルトメニューのほか、地酒などを揃えたアルコール類も好きなだけ味わえる。
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一番人気の客室「松林(しょうりん)」。テラスのすぐ下に海が広がり、窓を開け放てば客室に潮風が満ちる。
Restaurant TASK(レストラン タスク)
TEL 092-332-0880
福岡県糸島市二丈福井6064-1A
11:00AM~2:00PM(L.O.)、6:00PM~8:00PM(L.O.) ※ディナーは2日前までの完全予約制
木曜休 ※ほか不定休あり
僧伽小野 一秀庵 (さんがおの いっしゅうあん)
TEL 092-328-3938
福岡県糸島市志摩久家2143-2
おひとり様1泊2食付36,000円~(サービス料込・宿泊税200円別)
11:30AM~2:00PM(L.O.)、5:30PM~8:30PM(L.O.)
不定休
うきは
“うきはテロワール”を堪能する
イチゴ、桃、ブドウ、梨、柿と一年中果物を生産・出荷する「フルーツ王国」うきは市。それを可能にする条件を市が5年がかりで調査したところ、気候や日当たり、地形、湧水などの自然環境が果物生産に適していることがデータとして判明。市は農・畜産業をとりまく環境を“うきはテロワール”と名付け、ブランド力を高めるべく施策を打ち出している。
うきは市では大正時代より果樹栽培が始まったとされる。「夢語寄家」は、果樹栽培発祥の地にあり、果樹園に併設されているカフェ。ショーケースには旬の果物を使ったケーキが30種類程並び、地元野菜を中心としたランチは、平日でも満席となる盛況ぶり。敷地内に湧く水で淹れたコーヒーや紅茶も味わえる。
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「いちごタルト」(18センチメートルホール・5,724円)は1~5月の限定品で要予約。自社農園で収穫したさちのか、さがほのか、恋みのり、紅ほっぺ、淡雪などそのときにとれたイチゴがふんだんに使われる。旬の果物をメインにした「フルーツタルト」(15センチメートルホール・4,104円、18センチメートルホール・5,184円)は通年用意(要予約)。
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テーブル席、窓際のカウンター席のほか、過ごしやすい時期にはテラス席も利用できる。手作りケーキに加えてオリジナルのジャムなども販売。
「Mahoro756」は、東京やフランスの日本料理店で腕を振るってきた井上 誠氏が、故郷うきは市に開いた店。帰省のたびに水のおいしさと、地元の人々の地に足のついた暮らしぶりに感じ入り、ついにはここで料理を作りたいと2022年に店を構えた。味わえるのは、うきはの旬の食材を多く使った創作料理。酒匠の資格をもつ井上氏が厳選した日本酒やワインとともに堪能したい。
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「おまかせコース」(7,500円)より豚足と親芋のグラタン、赤豚肩ロースの炭火焼、抹茶のテリーヌ(内容は時期により変わる)。豚肉は「リバーワイルド」のものを、クレソンは山から摘んできたものを使用。
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築約70年の古民家を改装した和モダンな空間。
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オーナーシェフの井上氏。
「リバーワイルド」は養豚場が経営するハムファクトリー。養場では、うきはのブランド豚のほか、旬の果物を与える「柿豚」、「葡萄豚」、「桃ぶた」などを飼育。うまみが深い柿豚、脂にキレがある葡萄豚、フルーティーな桃ぶたとそれぞれに味わいが異なるという。カフェでは自慢のソーセージを使ったホットドッグなどを提供。“うきはテロワール”から生まれたグルメを味わい、その特質を感じたい。
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噛むほどにジューシーな味わいが広がる「ホットドッグ」(650円)と「自家製季節の果物シロップソーダ」(400円)。
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ドイツの製法で造られたソーセージなどが20種類近く並ぶ。別の冷凍ケースでは「柿豚」をはじめとした精肉も販売。
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「豚たちにとって快適な環境を整え、より健康で元気な豚を育てたい」と代表の杉 勝也氏(手前)、娘のかれん氏、かれん氏の夫の石橋拓大氏。石橋氏はイタリア方式のハム・ソーセージ製造を学ぶため、数ヵ月間イタリアに滞在する予定だ。
夢語寄家(むごよか)
TEL 0943-77-4174
福岡県うきは市浮羽町山北2212-7
10:00AM~4:30PM、カフェ ~4:00PM(L.O.)
火・水休(祝日の場合は変更あり)
Mahoro756(マホロナナゴロク)
TEL 0943-73-7523
福岡県うきは市浮羽町浮羽756フラットフォームうきは
5:30PM~7:30PM(最終入店)
日曜休 ※ほか不定休あり
リバーワイルド
TEL 0943-75-5150
福岡県うきは市吉井町橘田上中島2-572
11:00AM~5:00PM、カフェ~4:30PM(L.O.)
月~水休 ※ほか不定休あり
福岡をもっと楽しむ!
博多駅発着の観光列車で車窓と地産地消グルメを楽しむ
JR九州では観光列車を「D&S列車(デザイン&ストーリー列車)」と呼んでおり、現在10のD&S列車を運行。各列車は沿線の文化や車窓の風景が楽しめるよう工夫が凝らされている。
2024年春に運行を開始した「特急『かんぱち・いちろく』」のコンセプトは“ゆふ高原線の風土をあじわう列車”。福岡県や大分県で注目を集めるシェフを起用し、運行パターンや曜日ごとに異なる弁当を用意。座り心地を重視した座席もうれしい。
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大きな窓から沿線の景色が望める2号車「ラウンジ杉」。共用スペースとして自由に過ごせる。
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大分県の由布岳を背に走る「特急『かんぱち・いちろく』」。艶のある黒を基調としたデザインだ。
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福岡・大分両県の魅力が詰まった弁当が味わえる(料理は一例)。
幻の豪華列車の模型などを元に、100年の時を超えてよみがえった「或る列車」。自然環境をテーマにした料理で知られる成澤由浩氏がプロデュースするコース料理は、この列車だけのオリジナルメニュー。厳選した九州の旬の食材が満載だ。
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黒とゴールドを基調とした外観が緑に映える「或る列車」。
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1号車。クラシカルで優美な雰囲気が魅力。
5日間かけて九州7県を1周する「36ぷらす3」は、曜日ごとに5つのルートがあり、乗車券は1日単位での販売。ランチ付プラン(個室および座席)のほか、座席のみのグリーン席プランがあり、フレキシブルに利用できる。移動もワクワク楽しい時間となる列車で、博多駅発着の旅を満喫したい。
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黒いボディが印象的。車窓からは九州の海、山、川など豊かな自然が眺められる。
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2号車個室は広く、3~6名まで利用できる。3号車にはビュッフェもある。
特急「かんぱち・いちろく」
博多⇔由布院・大分・別府19,500円~(JR券(片道)、食事代込)
※出発日の5日前までに要申し込み
或る列車
博多⇔由布院36,000円~(JR券(片道)、コース料理、ドリンク代等込)
※出発日の5日前までに要申し込み
36ぷらす3
月曜日ルート ランチ付プラン(博多・佐賀→肥前浜・武雄温泉・早岐・佐世保)15,800円~(JR券、食事代込)
※ランチ付プランは出発日の5日前までに要申し込み
取材・文/宮本喜代美 写真/松隈直樹
●取材時期:2025年1月下旬
※価格は消費税込。 L.O.=ラストオーダー
※掲載内容は時期や天候、施設の諸事情により変更となる場合があります