前向きな発想でサステイナブルな幸せをの代表イメージ

SDGs 世界の街からエシカル通信

リスボン/ポルトガル

前向きな発想でサステイナブルな幸せを

リスボン中心部にあるプロジェクトのアトリエ。取材時も多くのおばあちゃんたちが集い、刺繡を楽しんでいた。

人や地球環境、社会、地域に配慮したエシカルな考えや取り組みを、世界の街で暮らす人たち
が日々の目線を通してレポートします。

2025.4.23

TAGS

 高齢者が健康で長く、そして楽しく生きること。現在、日本をはじめ、世界中の国と地域が向き合っている社会課題のひとつだ。高齢者の生活の質をどう上げ、いかに“ご機嫌”に暮らせるようにするか。この問題に真っ向から向き合う取り組みが「A Avó Veio Trabalhar(ア アヴォー ベイウ トラバリャール)」というプロジェクトだ。直訳すると、「おばあちゃんは働きに行く」。いったい、どういうことだろう。

 リスボンのアトリエを訪ねてみると、そこには愛らしいさまざまな商品が。カラフルなクッション、モノクロの写真に彩色したアートワークなどがところ狭しと並ぶ。よく見ると、そのどれもに刺繡の技術が使われていることがわかる。

雄鶏などポルトガルを代表するモチーフに、色とりどりの刺繡を施したブローチ。パッケージの裏には、作り手のおばあちゃんの名前と顔写真が。

 ポルトガルの刺繡は数世紀の歴史を誇る伝統的なもの。愛らしい刺繡は、みやげ物などでも見かける機会が多い。そんな、おばあちゃんたちの伝統技術をベースに、スタイリッシュなデザインを施したさまざまなアイテムをつくり、発信し、販売に繋げるプロジェクトこそA Avó Veio Trabalharだ。活動のきっかけを、発起人のひとり、デザイナーのスサナ・アントニオ氏に聞いた。
 「学校ではデザインを専攻し、1年間ミラノにも留学しました。最初は目にするデザインに感動していましたが、だんだんと表面的なものに思えてきました。もっとおしゃれに、もっと高く売れるようにデザインされたものばかり。私は社会のために、人々の生活の質を高めるために働きたかった。ポルトガルに戻り、福祉施設でボランティアを始め、そこで目にしたのは、おばあちゃんたちが伝統的な刺繡をする姿。私はおばあちゃんたちに、斬新な発想で、カラフルな刺繡をすることを勧めてみました。すると彼女たちの才能が一気に開花したのです」

発起人のひとり、スサナ氏。

 古きよき伝統と、洗練されたデザインの融合。プロジェクトには注目が集まり、有名ブランドから刺繡の依頼が入るようにもなった。だが、大事なのは活動自体なのだと、スサナ氏は続ける。「私たちの目的は、仕事の成果ではなくて、仕事をするという行動そのものにあります。さらには家から出て、実際に集まることがとても重要だと思っています。鬱と診断されてお薬を飲んでいるおばあちゃんもたくさんいます。大切なのは、朝起きて、歯を磨いておしゃれして、行くべき場所がある、ということ。プロジェクト名のとおり、働くために出かけることが大事。仕事は人生に価値を与えます。だれもがコミュニティーの役に立っていると感じることが大切なのです」。活動の想いや意義は共感され、広がっている。いま、少しずつではあるが、ポルトガル各地にA Avó Veio Trabalharのスタジオが増えているのだ。

プロジェクトの重要なキャッチコピーがいくつかあり、「OLD IS THE NEW TREND」もそのひとつ。老いは時代の新しい潮流であり、年齢を重ねるごとに魅力が増し、可能性も広がっていくというメッセージが込められている。

 そして、このような取り組みはポルトガルでは珍しくない。同国には、社会課題を前向きなプロジェクトに変換し、展開する個人や団体が多く存在している。ぜひポルトガルを旅し、サステイナブルな未来を模索する当地の気風を感じてほしい。

街にあふれる多彩で前向きな取り組みたち

  • 環境負荷が高いとされる衣料業界への提案として生み出されたプロジェクト「サーキュラー・ウエア」。使わなくなった服を無料で交換でき、旅行者も利用可能。

  • 空いたペットボトルなどに吸い殻を詰めて持ち寄ると、レモネードと交換してくれるカフェ。

  • 公衆電話ボックスを、小さな図書館として活用する取り組みも。

取材・文・撮影

乾 祐綺 Yuki Inui

ポルトガル・トーレスべドラスと日本・福岡の二拠点で活動。ワインとサーフィンを愛するフォトジャーナリスト。カルチャーやサステイナブルな取り組みなど、幅広いテーマの取材を続けている。日本とポルトガルを繋ぐ、さまざまなプロジェクトも両国で展開中。

ページトップへ戻る