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小樽の文化と美味を巡る

重厚な外観に歴史を感じる「旧三井銀行小樽支店」。

明治時代以降に「炭鉄港」の要衝として開発が進められた小樽は、「北の玄関口」として発展を遂げた。貿易から観光へと経済の礎は変わっても、街角のあちこちには往時の栄華の名残りが大切に保存されている。建築や工芸品、食からその歴史を感じたら、良質な水がもたらす美酒を堪能したい。小樽で生まれ、受け継がれゆく文化の魅力を、存分に楽しむ旅へ。

2025.4.14

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栄華の記憶を求めて小樽歴史散歩

 小樽は港を中心に発展を遂げた港湾都市だ。明治政府は1869(明治2)年に開拓使を設置し、炭鉱・鉄道・港の開発を急ピッチで推進。その中心地となった栄華の記憶を求めて、街を歩いた。
 港での商いの増加に伴い、小樽には多くの金融機関が進出。「小樽銀行街」と称された一角には、当時の最先端の建築技術で建てられた銀行の支店が立ち並んだ。「旧三井銀行小樽支店」は、地下貸金庫室を守る米モスラー社製の重厚な鉄扉をはじめ、歴史的建造物としてのみどころが満載だ。

  • 竣工は1927(昭和2)年。関東大震災の被害から教訓を得て、当時としては最先端の耐震構造を採用した。

  • 岡山県北木島産の花崗岩を積み上げた重厚な外観や、堅牢な金庫室が特徴の、鉄骨鉄筋コンクリート造の洋風建築。「小樽銀行街(色内銀行街)」を象徴する建築物として、2022年には重要文化財に指定された。

 さて、江戸時代後期から栄えた小樽のニシン漁は、明治に入るとさらなる活況を呈した。漁で用いられたガラスの浮き玉の製造技術はガラス工芸として受け継がれている。そこで「体験工房 小樽il PONTE〜イルポンテ〜」の、「吹きガラス体験」に挑戦。吹き竿を回しながら成形する工程は緊張感もあり、旅の記念品としてもうれしいひと品だ。

  • 吹き竿で巻き取った高温のガラスに息を吹き込んで成形する「吹きガラス体験」(1名・4,400円~)。グラスや小皿などを作れる。対象は小学生以上で、所要時間は15分程度。時間帯によっては予約が不要なので、公式ウェブサイトで確認しよう。

  • 工房オリジナルの作品も販売している。

 締めはやっぱり寿司だろう。
 「日本海、オホーツク海、太平洋という3つの海から旬の魚介を仕入れられるのが、小樽のいいところ。例えば春告魚として知られるニシンですが、いまは産地を変えることで夏から秋にかけてもご提供しています」と話すのは、1967(昭和42)年創業の「伊勢鮨」の大将・小伊勢貴洋氏だ。
 旬の素材に漬けや炙りを施し、4種のワサビや煮切しょうゆで仕上げる「蝦夷前」の寿司は、一貫ずつの丁寧な仕事ぶりが際立つ。小樽の人たちが積み重ねてきた営みに想いを馳せながら、地元の美味を堪能した。

  • 「おまかせコース」(1名分・10,500円)は、握り15貫と料理3品、焼き物をメインとした構成。写真の握りは左から、釣りキンキ、サクラマス、本マグロ、生ニシン、ホッキ貝。シャコやアワビを炊いた名物料理「小樽盛り」や、ギンポの西京焼きも美味。

  • 大将の小伊勢氏。

旧三井銀行小樽支店

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TEL 0134-31-1033(似鳥美術館)
北海道小樽市色内1-3-10
10:00AM~5:00PM(5~10月9:30AM~)
水曜、年末年始休(5~10月 第4水曜休)
入館料:大人500円(小樽芸術村4館共通券 大人2,900円)

https://www.nitorihd.co.jp/otaru-art-base/former-mitsui-bank/

体験工房 小樽il PONTE~イルポンテ~

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TEL 0134-32-7880
北海道小樽市色内2-1-19
9:00AM~6:00PM
不定休

https://otaru-ilponte.com/

伊勢鮨

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TEL 0134-23-1425
北海道小樽市稲穂3-15-3
11:30AM~2:30PM(L.O.)、5:00PM~8:30PM(L.O.)
水曜、第1・第2火曜休(祝日は営業、振替休あり)
昼夜共通 おまかせ握り8,500円~

http://www.isezushi.com/

地産の美酒に酔いしれて

 良質な水に恵まれた小樽は、ワイン、ビール、日本酒という3種の醸造酒が造られている酒どころでもある。生産現場を知れば、その味わいもより深まるというもの。そんな趣向で、それぞれの醸造所を訪ねてみた。

 最初に目指したのは、朝里川温泉の丘の上に工場を構える北海道ワインの「おたるワインギャラリー」。注目は所要時間と内容別にコースが設定されている有料の見学プラン。専門スタッフによる解説と特別テイスティングルームでのペアリングが楽しめる「フルコース」がおすすめだ。創業者・嶌村彰禧(しまむらあきよし)氏の「ワイン造りは農業なり」という信条をいまも貫く企業文化と、北海道のワインの多様さを体感したい。

  • 地下のワイン貯蔵庫を改装した特別テイスティングルーム「keller3(ケラー・ドライ)」。

  • 2024年に創業50周年を迎えた北海道ワイン。

  • 店内のショップには限定醸造の稀少な銘柄をはじめ、赤・白・ロゼとさまざまなタイプのワインが揃う。

  • 案内役は、「おたるワインギャラリー」のソムリエ・竹内浩二氏。

  • ワイナリー見学の「フルコース」(1名・6,600円(4月より1名・7,700円)・所要約90分・要予約)なら、専門スタッフの解説を聞きながら厳選された4種のワインをチーズなどのおつまみと一緒に味わえる。

 小樽運河の散策時に立ち寄りたいのが、「小樽ビール ビアパブ『小樽倉庫No.1』」。巨大な釜の前で味わう新鮮なドイツビールは格別で、その本格的な仕上がりにはビール好きも一驚するだろう。

  • 左はレギュラービールの「ヴァイス」、右はヴァイスをベースに木苺のシロップを加えた「ヒムベーアビール(木苺)」。

  • 巨大なろ過釜と仕込み釜を囲むように座席が配されている。店内には無料の見学通路があり、醸造の工程やビール造りの歴史が学べる。

 明治開拓期、商業都市として急速な発展を遂げた小樽には、数多くの酒蔵があった。1899(明治32)年創業の「田中酒造」もそのうちのひとつ。歴史的建造物である石造倉庫を活用した「田中酒造 亀甲蔵」では、北海道産の酒米を100パーセント使った酒造りの様子を無料で見学できる。
 おすすめの時間帯は午前中で、蒸しあがった酒米の芳醇な香りに包まれながら、タンクへの櫂入れの様子などが見られることも。すっきりと清澄でキレがよく、深いうまみが染み出してくる「純米大吟醸酒 宝川」をはじめ、地元小樽や札幌のファンも多い銘酒の数々は、ショップでの試飲が可能だ。

  • ニセコ町産酒米「彗星」を磨き抜いて醸した、蔵を代表する銘柄「純米大吟醸酒 宝川」。

  • 留仕込のタンクに櫂入れをする杜氏の高野篤生氏。数々の受賞歴を誇る名匠だ。

  • 火入れをしない生詰め原酒などの限定酒も。

  • 店頭で人気の酒3種。左から「純米大吟醸酒 宝川」(720ミリリットル・6,000円)、「宝川 貴醸酒2020」(720ミリリットル・11,000円)、「ゆず酒 宝川」(720ミリリットル・3,000円)。

小樽ビール ビアパブ「小樽倉庫No.1」

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TEL 0134-21-2323
北海道小樽市港町5-4
11:00AM~9:00PM(L.O.)
不定休

https://otarubeer.com/jp/

おたるワインギャラリー

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TEL 0134-34-2187
北海道小樽市朝里川温泉1-130
ワインショップ 9:00AM~5:00PM
年末年始休
※ワイナリー見学の予約は公式ウェブサイトから

https://www.hokkaidowine.com/

田中酒造 亀甲蔵

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TEL 0134-21-2390
北海道小樽市信香町2-2
9:05AM~5:55PM
無休
見学無料

https://tanakashuzo.com/

小樽の町の新潮流
新港とアートの発信地を歩く

 古きよき町並みが残る梁川通り。「裏小樽モンパルナス」は3棟のレトロな建物をリノベーションした複合文化施設だ。1階にはそれぞれレンタルアートスペースとレンタルカフェ、古着店&カレー専門店が入居し、2階は民泊施設に。「アートを通した地域活性化の拠点になれば」と副代表の平山秀朋氏が話すとおり、2024 年5月のオープン以来、多彩なイベントが開かれ、話題を呼んでいる。

  • 増改築を繰り返してユニークな外観に。A棟1階(左下)のレンタルアートスペースでは、小規模ライブや個展を開催できる。

  • さまざまなアートイベントを実施。(写真/大谷康介)

  • 「使い方はアイデア次第。アートの発信地になれば」と平山氏。地元出身の妻・三起子氏と運営に当たる。

 一方、小樽港の第3号ふ頭周辺は再開発が進む注目のエリア。2024年4月には14万トン級の大型クルーズ船の接岸が可能になったほか、同年3月には「小樽国際インフォメーションセンター」が開業。観光案内所と土産店を併設し、屋外にはテイクアウト専門店もある。潮風を感じながら、小樽グルメを満喫するのも楽しそうだ。

  • 土産店「ポートマルシェotarue(オタルエ)」には後志(しりべし)地方のローカルスイーツや海産物が充実。

  • にぎわい空間「みなとオアシス小樽」として一帯の整備が進む。小型観光船の発着口を集約した観光船ターミナルも竣工予定。

複合文化施設 裏小樽モンパルナス

TEL 0134-34-2705(ジーンズショップロッキ)
北海道小樽市稲穂4-5-17

https://www.uraotarumontparnasse.com/

小樽国際インフォメーションセンター

TEL 0134-33-1661
北海道小樽市港町5-3
ポートマルシェotarue 9:00AM~8:00PM
無休

https://otaru.gr.jp/

取材・文/能登亨樹 写真/亀畑清隆

※価格は消費税込。 L.O.=ラストオーダー
●取材時期:2024年10月上旬 ※掲載内容は時期や天候、施設の諸事情により変更となる場合があります。

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