小さなことを積み重ね、大きな一歩への代表イメージ

SDGs 世界の街からエシカル通信

ホーチミン市、コンダオ諸島/ベトナム

小さなことを積み重ね、大きな一歩へ

「ジ・オールド・コンパス」での1枚。写真の紙製ストローのほか、金属製やベトナムらしい竹製ストローは街なかのみやげ物店でも売られ、旅行者からの人気も高い。

人や地球環境、社会、地域に配慮したエシカルな考えや取り組みを、世界の街で暮らす人たち
が日々の目線を通してレポートします。

2025.3.25

TAGS

 世界有数の生産量を誇るコーヒー大国ベトナムに近年、変化が起きている。人々の憩いの一杯に添えられるストローに、脱プラスチックの波が押し寄せているのだ。市内の大手カフェチェーンでも、2019年ごろから紙ストローが導入されはじめ、いまでは竹や葦、果ては空心菜や米粉で作られたものまで、店ごとに多種多様なストローが見られるようになった。
 「2016年の開店当初から環境に配慮したストローを使っています。とくに金属製ストローは当時国内になく、オーダーメードで製作しました」と話すのはカフェ「ジ・オールド・コンパス」のユン・ダン氏。市内でいち早くリユースストローを取り入れた一軒で、店に集う外国人や知識層、裕福な若者の間で評判を呼んだ。コロナの影響からリユース品を好まない人もいるため、現在は客の要望に応じて紙ストローも使用しているが、ほかのカフェやレストランにプラスチックストローの使用禁止を促すなど、啓発活動にも力を入れている。

  • 「ジ・オールド・コンパス」には、地元の人々や旅行者が昼夜問わず集う。芸術や建築、歴史などに関する文化イベントや講演会も開催している。

  • オーナーのユン氏。カフェでは、プラスチック容器入りのドリンクも提供していない。

 一方、リサイクル製品の生産者にも、ベトナム発の気鋭の企業が生まれている。アルゼンチン出身のナノ・モランテ氏が設立した「プラスチックピープル」だ。同社はレストランや学校、路上などから収集した地域のプラスチック廃棄物から、独自の技術を用いて硬化プラスチックボードを製造。それらは建築家やデザイナーの手により、店舗の内装材や家具、ギフト用の小物に生まれ変わる。

硬化プラスチックボードは雨や日光に強く、カフェのテーブルにもなる。

 「とはいえ、ベトナムではまだリサイクルへの理解は進んでいません。再生品は高額になるため、一般の人々は選ばないのです」
 いまはまだ製品の大半が輸出用とナノ氏は話すが、取り組みに賛同する国内のレストランやホテルなどでの採用も増えてきている。
 「プラスチックの利用をやめることは現実的に難しい。ですが、新しいプラスチックの使用量を減らすことで、製造・流通過程を短縮。CO2削減や環境保護に貢献できると信じているのです」

ナノ氏が持つボードはどれも無添加・無着色。原料となるプラスチックの配合を変えることで、さまざまな色や模様、強度を作りあげている。

 環境への取り組みは離島にも広がっている。ベトナム南部コンダオ諸島のリゾートホテル「シックスセンシズ コンダオ」では、サステイナビリティーをブランドコンセプトに、意欲的に「廃棄物ゼロ」を目指している。例えば、ホテルで使用する飲料水や炭酸水を敷地内の自社プラントで製造。排水も独自の浄水施設で使用量の約25〜35パーセントを再生している。絶滅が危惧されるアオウミガメの孵化や放流も手がけており、その愛らしい姿をひと目見ようと訪れる宿泊客の人気アクティビティーにもなっているという。

「シックスセンシズ コンダオ」によるアオウミガメの放流現場。4月から11月が産卵シーズン。コンダオ国立公園と協同し、野生動物保護活動の紹介やゲストが活動に参加できるセンターを設立。2018年の開所以降、約3万匹を自然に返すことに成功した。

 2000年代初頭からの急速な経済発展を経て、ベトナムはいまや年約7パーセントのGDP成長率を誇る。所得の向上に伴い購買力も上昇し、大量消費に沸いている。その一方で、若者や企業を中心に環境への関心も高まっている。他国と比べるとその活動はいまだ黎明期だが、小さな事例を積み重ねることで着実に、大きな一歩を踏み出そうとしているのだ。

取材・文・写真

杉田憲昭 Noriaki Sugita

ベトナム・ホーチミン市在住。日本の出版社で編集者として勤務した後、2003年に渡越。現地の日本語フリーペーパー、航空会社機内誌の編集長を歴任し、編集・撮影プロダクション「グラフィカ/GRAFICA」を設立。日本やベトナムの各種媒体制作のほか、取材・撮影コーディネートも行う。

ページトップへ戻る