ポルトガルの首都・リスボン。大航海時代、栄華を誇ったその地には、大らかでどこか懐かしい気分になる味や音楽、手仕事に出合うことができる。古きよき欧州が薫るリスボンの街らしいスポットを訪れ、タイムスリップした気分を味わいたい。
2025.1.22
心やすらぐ美味を求めて
街の中心部にある「ソラール・ドス・プレズントス」は、リスボンっ子に約50年も愛され続ける海鮮料理の店だ。オーナーがサッカーファンで、ポルトガルやスペインの有名選手が通う店でもある。300席もあるが、いつも満席。店頭のショーケースには生きたカニやオマール海老などが並び、わくわくする。
まずは「海の幸の盛り合わせ」をオーダーし、席に着いたときからテーブルに用意されている生ハムやサラミをつまみながらエスプマンテのサングリアを飲んでくつろぐ。ほどなく到着したエビ、カニ、カキが並ぶ巨大なプレートは迫力満点だ。
「食べたらほっとする、ポルトガル伝統の家庭のごちそうを提供することを心がけています」とエグゼクティブ・シェフのウーゴ・アラウージョ氏。「イカスミの雑炊」はだしがきいて米の炊き加減も絶妙。旅行客にとってもほっとする味だ。
夜はおしゃれな店が並ぶシアード地区と、シックなレストランやバーが多いバイロ・アルト地区の間にある、ファドを聴けるレストラン「ファド・アオ・カルモ」へ。ファドとは「運命・宿命」を意味する言葉で、19世紀にリスボンで生まれた民族音楽だ。夜が更けてくると、ファディスタ(ファドの歌い手)が登場し、歌を披露する。ポルトガルギターの奏でる哀愁漂う旋律にのり、力強く訴えるような歌声が響き渡った。
ソラール・ドス・プレズントス
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「イカスミの雑炊」(2名分・€62)。鉄鍋で出てくるがパエリアではなく、リゾットのような感じだ。
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「海の幸の盛り合わせ」(2名分・€125、写真は4名分)。すべて近海のもの。中央のカニみそはパンにのせて白ワインとともに。
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エスプマンテのサングリア。オーダーしてからスパークリングワインを注いで仕上げる。
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テーブルに着くと、まず生ハム、サラミ、チーズ、オリーブとパンのセットがまるでお通しのように出てくる。ただし、食べた分だけ支払うシステムで、不要なら断ることもできる。
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エグゼクティブ・シェフのアラウージョ氏。
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ソラール・ドス・プレズントス内観。サッカー選手をはじめ著名人の来店が多くサインや似顔絵、写真がたくさん飾られている。
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店の外観。隣の路地をケーブルカーが走るリスボンらしいロケーション。
ファド・アオ・カルモ
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ポルトガルギターの伴奏で歌われるファド。ファドには人生の喜怒哀楽や心情が込められている。
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「ファド・アオ・カルモ」があるエリアは趣のある建物が多く、リスボンの古きよき雰囲気を味わえる。
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ファドにちなむ大きな絵が飾られたシックな店内。
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路地に面した店の外観。38席のこぢんまりした店だ。
ソラール・ドス・プレズントス Solar dos Presuntos
TEL 351 213 424 253
Rua das Portas
de Santo Antão 150,
Lisboa
正午~3:30PM、6:30PM~10:30PM
日・祝、12/24~1/3休 ※8月に夏季休業あり
ファド・アオ・カルモ Fado ao Carmo
TEL 351 912 115 677
Rua da Condessa 52, Lisboa
7:30PM~翌2:00AM(深夜)(ファドステージ 9:00PM~)
12/25、1/1休
ヘリテージホテルと、手仕事が生み出す名品
リスボンはいま、ヨーロッパの人々に人気の旅先だ。ほかの都市ではなかなか出合えない、古きよきヨーロッパの街角や雰囲気がここリスボンに息づいていることがその理由のひとつ。オレンジ色の屋根が連なる下町の風景、路地を走り抜けるトラム、フィリグラーナ(金線細工)や革小物など伝統的な手仕事の品が並ぶ店……。リスボンではタイムスリップした気分になることもしばしばだ。
そんなこの街では、滞在先も歴史あるホテルを選びたい。
鉄道によってヨーロッパ各国が結ばれた19世期の終わり、「ホテル アベニーダ・パレス」はリスボンの当時の中央駅・ロシオ駅がつくられた際、駅に隣接する豪華ホテルとして開業。煌びやかなベル・エポック様式で、各国王室の御用達だ。1937年には昭和天皇ご夫妻が新婚旅行の際に滞在している。その後、革命や戦争に翻弄(ほんろう)されながらも、いまも時をわたって受け継がれてきた優雅さが感じられる。
「ホテル ブリタニア・アート・デコ」は、ブランドショップが軒を連ねるリベルダーデ大通りから少し入った閑静な場所にあるブティックホテルだ。1942年に建てられたアール・デコ様式の建築やインテリアを守りつつ、部屋は居心地よくモダンにリノベーションされている。このホテルはポートワインを輸入するイギリスの貿易商に愛されてきたため、部屋にはいまもポートワインがデキャンタで置かれており、ナイトキャップにぴったりだ。
甘く濃厚なポートワイン同様、リスボンという街も、時を経て醸成されたその深い味わいが、人々を魅了し続けている。
ホテル アベニーダ・パレス
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ロビー奥のパレスサロン。ステンドグラスの天井、赤いブロケードが貼られた壁などクラシックな華やかさに満ちている。
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「スーペリアルーム」の部屋。ベッドを分けてツインとしても利用できる。
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重厚な「アベニーダ・パレス」の紋章。
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ベル・エポック様式の階段は美しい曲線を描きながら、ステンドグラスの天井へと続いている。

ホテルブリタニア・アート・デコ
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リノベーションしたばかりのテラスルーム。6階にあり、テラスに明るい陽光があふれる。ポルトガル伝統のウッドフローリングが美しい。
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ラウンジ兼ライブラリー。シックで落ち着いた空間。アートやアンティークに関する本も多い。
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部屋に用意されているポートワインは無料。
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1944年に地元のアーティストによってロビーの壁に描かれたフレスコ画。
オウリヴェザリア・ダ・モーダ
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19.2金の細い金の糸を縒り合わせレースをつくるフィリグラーナは昔から伝わるポルトガルの伝統工芸。
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店内には手作りされたフィリグラーナやシルバーのジュエリーが多数揃う。
ルーヴァリア・ウリセス
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100年以上の歴史を誇る手袋専門店。店主のカルロス・カルヴァーリョ氏。サイズは細かく分かれている。
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柔らかい革で作られている手袋。色も多数あり、選ぶのが楽しい。
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店頭はこぢんまり。希望に応じて奥から品物を出してくれる古風な店だ。
ホテル アベニーダ・パレス Hotel Avenida Palace
TEL 351 213 218 100
Rua 1º Dezembro 123, Lisboa
ホテルブリタニア・アート・デコ Hotel Britania Art Deco
TEL 351 213 155 016
Rua Rodrigues
Sampaio 17, Lisboa
オウリヴェザリア・ダ・モーダ Ourivesaria da Moda
TEL 351 213 421 431
Rua da Prata 257, Lisboa
月~金 10:00AM~7:00PM(土 ~1:00PM) 日・祝休
ルーヴァリア・ウリセス Luvaria Ulisses
TEL 351 213 420 295
Rua do Carmo 87 A,
Lisboa
10:00AM~7:00PM
日曜、12/25、1/1休
取材・文/山口あゆみ 写真/入江啓祐
●取材時期:2024年7月上旬
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※運航状況は変わる可能性があります。旅行を計画される際は、各航空会社の公式ウェブサイトで事前にご確認ください。