台湾第三の都市・高雄には南部の活気を内包する港の風が吹いている。かつて砂糖や魚粉の輸出で栄えた港で役割を担った倉庫街や建物は、長い眠りを経て芸術や美食、新たな文化の発信地として花開いている。躍動する新しさと懐かしさ、高雄再認識の旅に出よう。
2025.6.24
アートがあふれる最旬エリアへ
機体が高雄国際空港に向けて降下を始めると、窓の外には港に停泊する船舶や新旧の建築物、活気のある高雄(ガオション)の街が広がってくる。
高雄港に隣接する倉庫街は、「駁二藝術特區(ブォアーイーシューダーチュー)」。かつて砂糖や魚粉の輸出のための倉庫として高雄の繁栄を支えたが、1970年代の砂糖価格下落後は利用が減り、一時は忘れられた場所に。その後2000年代に、高雄で大型花火大会が計画されると、港に面したこの倉庫街がぴったりだと白羽の矢が立った。それをきっかけに台湾南部の芸術や文化を愛する人々が再生のために動き始め、「前衛、實驗、創新」をテーマに台湾から世界へ発信するアートのプラットフォームが誕生した。
-
埠頭近く、台湾初の水平旋回景観橋梁「高雄大港橋」からの眺め。左手にある白い建物は2021年にオープンした「高雄流行音樂中心」。スペインと台湾の合同チームによる設計で、波の起伏にも見える独特なデザイン。最大1万人を収容する屋外広場や200人規模の小型スペースなどさまざまな音楽空間を擁する。
-
倉庫街や港を眺めながら、のんびり走る高雄ライトレール。哈瑪星駅で高雄メトロと接続している。
-
「駁二塔」にスペイン出身アーティストの描いた海洋の女神が港を見守る。
-
散策をする人々とアートが自然に溶け合う空間。
-
施設に隣接する築約50年のアパートの壁も、台湾の若いアーティストたちによりアートの一部に。
レンガ造りの倉庫街で、窓ガラス越しの店の雰囲気に惹かれて「繭裹子 駁二店(ジェングゥオズー ブォアーディエン)」のドアを開けてみると、フェアトレードの認可を受けた雑貨が柔らかな自然光のなか、色とりどりに並んでいる。台湾でデザインされ、ネパールやインド、スリランカの素材を用いて現地の製造者によるハンドメイドで生まれた衣類や生活雑貨にふれていると、人の手のぬくもりを感じられる。港で出合う異国の香りのする雑貨は、ひと味違う台湾みやげになりそうだ。
-
倉庫ならではの高い天井、直射日光を避けた優しい明るさ。犬や猫などをモチーフにしたアイマスクはこの店のオリジナルデザイン。素材と製造はスリランカで(各NT$550)。
-
ハンドメイドで仕上げたワンピース(各NT$2,980)。
潮風に吹かれる散策の途中、軽い食事もかねて立ち寄ってみたのは「典藏駁二餐廳(ディエンザンブォアールチャンティン)」。おすすめを聞くと、果物スムージーや青々とした台湾トマトサラダ、イカの台湾バジル炒めを紹介してくれた。どれも歩き疲れた体にうれしい台湾美食。土地の新鮮な食材が心と体をいやしてくれる。
-
長いカウンターの上部には鳥籠のオブジェ。
-
手前から時計回りに、イカリングとエリンギ、ズッキーニの台湾バジル炒め「爆炒酸辣魷魚九層塔杏鮑菇與綠櫛瓜」(NT$350)、夜市風緑トマトと無花果(イチジク)やチーズのサラダ「2.0改良版夜市風格的綠番茄&無花果&羊奶起司&杏桃&堅果淋」(NT$300)、台湾の良質な天然水で造られたバックスキン生ビール「凍杯柏克金啤酒」(NT$150)、青梅スムージー「冰釀青梅冰沙」(NT$140)。
駁二藝術特區 The Pier-2 Art Center
TEL 07-521-4899
高雄市鹽埕區大勇路1號
10:00AM~6:00PM(金~日・祝 ~8:00PM)
屋外は見学自由、一部有料施設あり
繭裹子 駁二店 TWINE Pier2
TEL 07-521-1580
高雄市鹽埕區大義街2-2號C8-13倉庫
10:30AM~7:30PM
無休
典藏駁二餐廳 ARTCO.C6
TEL 07-521-1936
高雄市鹽埕區大義街2號
11:30AM~9:00PM(土・日 ~10:00PM)
※1名につきNT$250以上の注文が必要
※サービス料:10%別
火曜休
くつろぎ時間を愛する街のカフェ巡り
台湾の人々は、日々の暮らしのなかでお茶やコーヒーを深く楽しむ時間を大切にしている。数多ある店のなかから、街の物語を感じられる場所を訪ねてみた。
歴史建築とコーヒータイムを楽しめるのは「新濱・駅前(ハマシン)」。駁二藝術特區にも近い哈瑪星エリアに残る、旧三和銀行高雄支店の建物をリノベーションしたカフェだ。1921年に三十四銀行高雄支店として創設され、1933年に合弁で三和銀行に、戦後は派出所として用いられた建物は、2階にバルコニー席も。水出しコーヒーと古い貨幣「金元寶(ジンユェンパオ)」を模ったトーストを味わい、銀行時代のにぎわいに思いを馳せる。
-
銀行時代のカウンターを残した店内。
-
古い貨幣を模ったトースト「金元寶吐司」(NT$180)、奥は水出しコーヒー「金庫冰滴咖啡」(NT$220)。金庫は一般客立ち入り禁止だが、丸窓から内部を除くことができる。
正統派ホテルの下午茶(アフタヌーンティー)なら、高雄洲際酒店(インターコンチネンタルガオション)の「BL.T33大廳酒吧(ロビーバー)」で。Bar、Lounge、Teaの頭文字とホテルの所在地からその名がついたロビーバーは、2ヵ月ごとにアフタヌーンティーセットのメニューが替わる。地元企業やコスメブランドとコラボしてテーマを決め、味や香りで季節の変化を楽しませてくれる。高雄マダムの優雅な談笑や、地元の紳士たちによる午後の商談。美しいスイーツを手に、思い思いにティータイムを過ごしている。
-
「下午茶」(2名分・NT$1,680)。プチケーキやスコーンなどのセットに、コーヒー、紅茶、台湾茶、ノンアルコールカクテルのいずれかを選べる。
-
中央にあるバーカウンター。
高層階で台湾茶を楽しめるのは「承億酒店(タイアーバンリゾート)」の25階に位置する「飛裊柒茶(リンガーティーサロン)」だ。要予約の「多寶格(ドーバオグー)」は、美しい玩具をひとつひとつ納めた宝箱のようなセットメニュー。花や果物を模(かたど)ったお菓子、台湾カラスミのパイやキャビアのサンドイッチが宝石のように詰め込まれている。極上の台湾茶とともに、上空ピクニックのような高雄のティータイムを楽しもう。
-
「多寶格」(2名分・NT$2,280)は、3日前までに予約を。選んだドリンクはコールドブリューの茘枝烏龍(奥)と阿里山金萱(手前)。どちらも台湾ではぐくまれた味わい。
-
モダンなティーカウンター。
-
「飛裊柒茶」のパティシエ・王健翰氏。台北の予約が取れない有名店で修業後、出身地である高雄で腕を振るう。
新濱・駅前 Hamasen1921
TEL 07-531-5770
高雄市鼓山區臨海三路7號
10:00AM~6:00PM(L.O.)
旧暦大晦日休
BL.T33 大廳酒吧 BL.T33 The Lobby Bar
TEL 07-339-1888
高雄市前鎮區新光路33號高雄洲際酒店
10:00AM~0:00AM(深夜)(9:00PM(L.O)、ドリンク11:00PM(L.O.))(アフタヌーンティー 2:30PM~4:30PM(L.O.))
無休
※サービス料:10%別
飛裊柒茶 LINGER Tea Saloon
TEL 07-333-3558
高雄市前鎮區林森四路189號承億酒店25樓
11:00AM~7:00PM
無休
※サービス料:10%別
https://www.taiurbanresort.com.tw/jp/restaurant-detail/Linger_Tea_Saloon/
取材・文・コーディネート/mimi天野 惠 写真/ミヤジシンゴ
※L.O.=ラストオーダー
●取材時期:2025年1月上旬
※掲載内容は時期や天候、施設の諸事情により変更となる場合があります。