秋の深まりとともに、緋色に美しく染まる京都の街並み。古来、紅葉を愛でてきた私たちにとって、古都の秋はとりわけ趣深いものとして親しまれている。次の京都への旅は、洗練された庭の紅葉と秋を彩る美食や、深まる秋をより身近に感じられる滞在を楽しみに出かけたい。
2024.11.25
美食の町・京都で秋を味わい尽くす
世界有数の美食の町・京都での晩ごはんは、一見さんも予約可能な評判の店を訪ねてみた。
近年の京都の中心地は、フュージョンやイノベーティブの分野が活況で、多様な個性がしのぎを削る。御所南の「ルーデンス」もその分野で、“体がよろこぶ”を信条にイタリア料理の調理法に薬膳を取り入れた独自のスタイルで提供する。例えば、スペシャリテの「養生スープ」は、胃を温めて食を進みやすくする。「季節の前菜」のカネロニは、ガラス蓋をとるとスモーク香が立ち上る。ボローニャの伝統料理から着想し、見た目から予測できない味に昇華。主要食材は滋賀や京都近郊の生産者のもとを訪ねて直接仕入れた、丹精込めて生産されたもの。生産者の信頼が厚く、旬が短い稀少な食材も手に入る。
ルーデンス
御所東の「御料理 はやし」は、美食家が行きつける懐石料理店。「奇をてらったことはしてないんですよ」と話す、店主の林 亘氏。料理人歴50 年におよぶ現在も日々多様な食材と真摯に向き合い、「食材をどう仕立てるか、考えを巡らすのが楽しくてアイデアは尽きません」とも。おまかせ料理で描かれる京都の季節の機微は繊細で美しく、食べ手をいつの間にか惹き込む。秋には、漆黒の大椀の蓋をとると銀あんの出汁がやさしく香り、麗しい白菊を模したカブが現れる。お誂(あつら)えの箕(みの)の器には、温かいもの、常温のものなど、折々の美味を少しずつ取り合わせ、かき集めた散り紅葉を彷彿とさせる。ふと目に留まった、生けられた素朴な花のことを聞くと、その日の朝、林氏が自身の山で採取してきたものだという。何気ない会話が楽しめるのもカウンター席の特権で、旅の記憶に彩りを添える。
御料理 はやし
ルーデンス
TEL 075-231-5606
京都市中京区間之町通二条上る夷町560-8
正午、6:30PM一斉スタート
日・月、年末年始休
※前日までに要予約
御料理 はやし
TEL 075-213-4409
京都市上京区梶井町448-61
11:30AM~1:30PM(最終入店) 5:30PM~7:30PM(最終入店)
毎週水曜(月2回水・木連休)、年末年始休
※サービス料10%
※要予約(2ヵ月以内の日程)
※カウンター席は撮影不可
泊まって体験、京都の特別な朝
京都に泊まるなら、朝を特別なものと感じさせる宿を選びたい。
「宿坊 智積院(ちしゃくいん)会館」に泊まって体験したいのは、「真言宗智山派 総本山智積院」の「朝のお勤め」だ。だれでも予約なく参加できるが、5:40AMにロビー集合のため前泊したほうがいいだろう。6:00AMから金堂での勤行を参拝。御本尊の大日如来像の前で僧侶による読経が響き、厳粛な空気に包まれる。多いときは全国の真言宗智山派の寺院から修行僧ら100人超が参列し、その様子は圧巻だという。6:45AMごろ、明王殿に移動し、護摩のお勤めを参拝。根来(ねごろ)寺から伝来した不動明王像を前に、護摩木を焚き、迫力ある太鼓の音とともに僧侶の読経が響く。金堂とはまた違う、荘厳な空気が漂う。いずれも椅子が用意されていて参加しやすく、日常では得難い尊い時間に身を置くことができる。
宿坊 智積院会館
もう一軒、世界的な自然派ラグジュアリーホテルの新展開、2024年4月に開業した「シックスセンシズ 京都」を紹介したい。サステイナビリティーとウェルネスをコンセプトに掲げるホテルブランドで、都市部での開業は世界で2軒目、日本初となる。京都の自然と都市の共生をめざし、地域への敬意を込めたサービスを提供する。例えば、景観になじむよう建てられた2棟の間に、京都の有名な寺院の庭を手がける庭師によって造られた風雅な庭がある。風が心地いい時季はテラス席が開放されるため、秋の表情を楽しみながら朝食を満喫できる。メニューは、平飼いの鶏の卵を使うオムレツ、新鮮な野菜のスムージーなど、京都産食材の特性を大事にしたもの。こだわりをもって生産する生産者へ敬意を込めている。
シックスセンシズ 京都
宿坊 智積院会館
TEL 075-541-5363
京都市東山区東大路七条下る東瓦町964
おひとり様1泊10,500円~(サービス料込・宿泊税込)
シックスセンシズ 京都
TEL 075-531-0700
京都市東山区妙法院前側町431
おひとり様1泊85,000円~(サービス料込・宿泊税込)
京都の余韻を香りで楽しむ
特定の香りにより、一定の記憶や感情がよみがえることがある。特別な京都旅の思い出を、ふと思い起こせるよう香りと紐づけたい。
日本のお香の歴史を振り返ると、6世紀ごろに仏教とともに伝来したと考えられている。奈良時代に白檀や沈香などを調合する薫物が伝わり、平安時代に宮廷で部屋や着物に香をたきしめる風習が流行した。室町時代に聞香の方法が確立され、江戸時代には製造技術が伝わり、庶民の間で線香の使用が普及した。
旅先の京都で香りを選ぶなら、この地に由来する雅やかな和の香りに出合いたい。1705(寶永2)年ごろ創業の「松栄堂 京都本店」は、日用的な香りから香道などの専門的な道具まで多彩な製品を扱うほか、隣接する小さな香りのミュージアム「薫習館」で資料展示やワークショップを提供する。香りを選ぶ前に、京都本店でしか体験できない香房見学に参加してみよう。白檀などの貴重な材料や乾燥前の線香の成形工程を見れば、お香への関心がさらに深まるだろう。
香老舗 松栄堂 京都本店
香老舗 松栄堂 京都本店
TEL 075-212-5590(京都本店)
京都市中京区烏丸通二条上る東側
9:00AM~6:00PM
年始休
TEL 075-212-5591(香房見学予約・受付:平日9:00AM~5:00PM)
※香房見学は無料(1週間前までに要予約)
取材・文/佐川深雪 写真/合田慎二
●取材時期:2024年5月下旬
※価格は消費税込。 L.O.=ラストオーダー
※掲載内容は時期や天候、施設の諸事情により変更となる場合があります。