世界遺産に登録されているラオスの古都ルアンパバーンの中心部から車で30分程走ると、棚田が美しい田園地帯が広がる。そんな場所に、バッファロー(水牛)ミルクでつくるアイスクリームのスタンドやモッツァレラをはじめ各種のチーズを味わうことができるカフェを併設した「ラオス・バッファロー・デイリー」がある。ここでは乳製品を製造・販売するだけでなく、水牛を使った伝統的農法をよりサステイナブルにし、周辺の農村の経済を変革する取り組みを行っている。
ラオスでは近年まで酪農は行われず、どこの農家にもいる水牛は雄が田畑の労働力であり、雌は繁殖のためだけに飼われていた。
2013年にルアンパバーンに移り住んだオーストラリア出身のスージー・マーティン氏は、ラオスには輸入チーズしかないことを知り、地元の農家から妊娠した雌の水牛を3頭借りて、自らモッツァレラチーズをつくりはじめた。「モッツァレラチーズは、乳牛より水牛のミルクでつくったもののほうが味も濃厚で高級とされています。実際この地の水牛のモッツァレラは最高の味でした。また、ルアンパバーンにはホテルやレストランが数多くあるので、ニーズもあります。そこで乳製品のビジネスを思いついたのです」とスージー氏。オーストラリアの上場企業でアジア地区の支配人としてキャリアを積んできた彼女は、このビジネスを地元の経済に貢献するものにしたいと考えた。
愛情をもって水牛を飼育し、質の高い乳製品を製造
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ファーム内にある最新鋭のチーズ工房では、新鮮なミルクをモッツァレラチーズをはじめ、各種チーズやアイスクリームに加工している。
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ラオスの若き獣医師や酪農を志す人々の研修の場にもなっている。
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ファームでのびのびと暮らす、生まれて3ヵ月ほどの子牛たち。見学ツアーでふれあうこともできる。
ラオス・バッファロー・デイリーの水牛はすべて農家からの「レンタル」である。農家から妊娠した雌牛を引き取り、安全に出産をさせ、次の繁殖期まで良質な餌を与え、健康診断をし、搾乳して乳製品を製造する。農家はレンタルしている間、雌牛と子牛の世話から解放され、さらにラオスの平均月収を上回るレンタル料を受け取ることができる。
「このウィンウィンのシステムは当初農家の方々に理解されませんでした。『そんなうまい話があるはずない』と思われたのです。農村を回って粘り強く説明し、清潔なファームでのびのび過ごす水牛親子の様子や獣医による健康管理も実際に見てもらいました」
農場を見晴らすあずまやのカフェでチーズを堪能
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ファーム内のカフェで味わうことができるチーズの盛り合わせ。できたてのモッツァレラチーズのカプレーゼ、リコッタ、ブルーチーズなど、チーズ好きにはたまらない。
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レモングラスのアイスクリーム。季節ごとにさまざまなフレーバーが登場。
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カフェの前には池が広がり、その向こうには水牛たちがくつろぐ。
現在、預かっている水牛は約200頭。農場内で生産したチーズは近隣国にも輸出されている。また、農家の人々に雌牛の出産や子牛の育成について農場で研修を受けてもらうことで、水牛の死亡率が格段に下がり、伝統的な農法のサステイナビリティーにも寄与している。同時に農家が経済的に安定するよう、豚やウサギなどの畜産の指導も行っているという。
世界銀行の調査によれば、ラオスの子どもの約35パーセントが栄養不足であり、とくにたんぱく質の摂取量が少ないため、水牛のミルクによる栄養改善や酪農を目指す若手の研修、雇用のプロジェクトも行っている。農場や工房、カフェでは地元の若者が生き生きと立ち働いていた。
「私自身の人生も大きく変わりました。高級車に乗るのではなく、志を同じくする仲間とかわいい動物たちに囲まれる生活に」とスージー氏は語った。
取材・文
山口あゆみ Ayumi Yamaguchi
編集者。日本航空機内誌『SKYWARD』の編集長を経て、Scapesを設立、世界・日本各地の旅に関するコンテンツを中心に編集・出版。取材した国や地域は50におよぶ。著書に『エーゲ海の小さなホテル』(東京書籍)、『名古屋円頓寺商店街の奇跡』(講談社)などがある。
写真/入江啓祐
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