スマート化の時代に、あえてカメラを持つという選択の代表イメージ

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特集 ライフスタイル

奥深きカメラの世界へ

スマート化の時代に、あえてカメラを持つという選択

初心者向けのカメラだけでなく、カメラに詳しい人にも刺さるコレクターズアイテムも取り扱う。

ポケットの中には、世界中の誰とでもつながることができるデバイスがある。その小さな板を使えば、目の前の光景を高画質で簡単に記録することもできる。そんな現代に、あえて重くてかさばるカメラを持ち歩く理由を探すと、そこに合理性という言葉は見当たらないのかもしれない。だが、人生を豊かにするために合理性は必須だろうか。あえて“不便さ”を受け入れ、シャッターを切る瞬間に自分の感性を込めてみる。そんな大人の遊びができる場所が、東京・秋葉原にある。

2026.03.05

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宝探しをするように、懐かしいカメラとの出合いを楽しむ

 「2nd BASE」は、「とある写真家の秘密基地」をコンセプトに掲げるカメラ店だ。1975年創業で今年50周年を迎えた「三宝カメラ」が手がける新レーベルで、“第二の基地”としてスタートした。
 棚に並ぶのは最新機種ではなく、数十年前に作られたオールドレンズやフィルムカメラが中心。長年カメラファンに親しまれてきた信頼と実績を背景に持ちつつ、この場所ではよりカジュアルに、オープンな感覚で写真を楽しむスタイルを提案している。
 学生時代に見たCMのカメラを懐かしんで手に取ってみたり、ところ狭しと並んだマニアックなレンズの中から気になる一本を探してみたり。ショーケースの高級機を緊張して眺めるのではなく、まるで宝探しをするように出合いそのものを楽しむ。ここではそんな感覚で、カメラに向き合えるのだ。

  • 雑多に飾られた非売品のカメラ雑貨たち。眺めているだけで気分が高まる“秘密基地”のような遊び心のある空間づくりを大切にしている。

  • 撮影スペースとしても利用可能。どこを切り取っても絵になるのは、「写真家の秘密基地」を思わせるこの店ならではだ。

  • フィルムカメラとオールドレンズを2つの柱として展開。ミラーレスカメラやカメラストラップ、フィルターまで揃い、ゆっくりと選べるのが魅力。

 効率を求められる場面が増えた現代において、カメラという趣味は心に響く。学生から働き盛りの世代まで、若い層の来店が多いと語るのは店長の三村裕太さんだ。
 確かにスマートフォンのカメラ機能は驚くほど進化している。アプリを使えばその場で仕上がりを調整でき、記録用としては十分すぎるほどだ。だが三村さんは「記録」と「記憶」は違うのだと話す。
 「スマホは電話もメッセージもできて、カメラの性能も十分です。一方で、カメラは“写真を撮るだけ”の道具。ファインダーを覗いている間は余計なノイズが入らないところが魅力です」
 光を探して構図を考え、シャッターを押す一瞬に集中する。写真と向き合う時間は、余裕ある大人だからこそ味わえる贅沢だ。専用の道具を持つこと、日常から離れて本来の自分を取り戻すこと、それがひとつの豊かさにつながる。

店長・三村祐太さん。自身もフィルムカメラやオールドレンズを収集する、生粋のカメラ愛好家だ。

クセも弱点も、すべてが個性になる。オールドレンズの世界

 2nd BASEを訪れる客の多くが求めるのが「オールドレンズ」だ。これは主にフィルムカメラ時代に作られたマニュアルフォーカスのレンズを指し、現代のレンズがシャープに写るよう設計されているのに対して、オールドレンズはメーカーごとの“癖”が写りに現れる。
 「オールドレンズは現行レンズに比べて、手に取りやすい価格帯。そして、ピントが合っている部分以外が大きくボケたり、周辺が暗く落ちたりと、ノスタルジックな雰囲気が楽しめます。現行のレンズでは“弱点”とされる部分が、オールドの世界では “個性”になるんです」
 さらに楽しみ方の幅も広い。「マウントアダプター」という部品を使えば、オールドレンズを幅広いカメラに装着できるのだ。そのまま撮影しても十分味わい深いが、初心者でも踏み込めるテクニックとして、三村さんは3つの方法を教えてくれた。
 「1つめは『多重露光』。複数の画像を重ねるのでアートのような写真になります。2つめは『モノクロ』。白と黒しか色がないので、被写体に集中した描写ができます。上級者はグレーの階調を調整して楽しまれる方が多いですね。そして3つめは『ブラックミスト』というフィルターを使うこと。光を拡散させ、コントラストを保ちながらも柔らかな雰囲気の写真になります」
 これらは現行レンズでも使えるが、オールドレンズならよりシネマティックな質感が得られる。レンズを買って終わりではなく、その先に広がる世界は果てしない。

  • 多重露光は、カメラ本体の機能設定で「多重露光モード」をオンにして複数回シャッターを切ることで、複数の写真を1枚に重ねてアーティスティックな写真に仕上がる。(画像提供:2nd BASE/フィルムカメラで撮影)

  • モノクロは、色の情報がない分、構図や光に焦点を当てることで、より力強く印象的な描写を楽しむことができる。(画像提供:2nd BASE/フィルムカメラで撮影)

  • ブラックミストは、ハイライトとシャドウのコントラストを抑え、シネマティックな質感が得られるソフトフィルター。(画像提供:2nd BASE/現行レンズで撮影)

  • オールドレンズと作例写真が並ぶコーナー。仕上がりの特徴がひと目でわかるように陳列されている。

カメラ選びはスペックや流行よりも、相性で決める

 これからカメラを始めたい、もしくはもう一度手にしたい人へ、三村さんはこんなアドバイスをくれた。
 「スペックや流行に流されないでください。プロが使うような最新のフラッグシップ機が、皆さんにとっての正解とは限りません。スペックは二の次で、自分に一番フィットするカメラを選ぶのが大事です。手に馴染む感じ、好みの画質、何を撮りたいかなど。僕自身も最初は形から入りましたから」
 ハイスペックなカメラは確かに魅力的だが、大きくて重い。日常のスナップ程度であれば次第に持ち歩かなくなり、続かなくなることもある。三村さん自身もミラーレス、一眼レフ、フィルム、オールドレンズと遍歴し、最終的に「キヤノン EOS 6D」という少し前のモデルに落ち着いたという。
 「このカメラが出す色味が僕の中では“最強”なんです。もっと新しくて高画素な機種もありますが、この6Dで撮ったときの空気感だけは何者にも代え難い。プロの方でも『この機種じゃないと自分らしさが出ない』と、古いモデルを使い続ける人は少なくありません」
 流行でもスペックでもなく、「自分らしい」カメラを選ぶこと。それは大人の特権だ。

  • 三村さん自身の“最強カメラ”と語る「キヤノン EOS 6D」。小型軽量のフルサイズとして評価されたモデルで、後継機は「EOS 6D Mark II」。

  • Z世代や外国人客に人気を集める旧型のコンデジ。感度の高いインフルエンサーの投稿をきっかけに火がついた。ざらついた質感の仕上がりが若い世代に支持されている。

 デジタルでの撮影に慣れてきたら、フィルムの“沼”が待っている。デジタルのように気兼ねなくシャッターを切れるわけでもなく、ましてや現像するまで何が写っているかわからない。その不確実さが最大の魅力だ。しかもフィルムの楽しみは、撮って終わりではない。現像という工程にもこだわりを発揮できる余地がある。街の写真店での現像もいいが、専門店に依頼すれば仕上がりは一段と変わる。
 「カラーディレクターがいるラボなら、『黄色を強めに』、『この写真家さんの雰囲気で』など細かいオーダーができます。自分の撮った写真にプロの手が入ることでより理想の『作品』に近づきます。その体験を知ると、デジタルには戻れなくなってしまいそうになりますね」

  • フィルムの品揃えも豊富。多様なメーカーが揃うため、仕上げたい雰囲気に合わせて選ぶ楽しみが広がる。

  • 店頭には1,000円のフィルムガチャも。初心者も、いつもと気分を変えたい人も、気軽にフィルムを試せる仕掛けだ。

これから買う人に勧めたい、三村店長が選ぶ3つのセット

 では具体的に何から始めればいいのか、三村さんに初心者におすすめのセットを3つ選んでいただいた。

入門としてのマニュアルのフィルムカメラ

 「50mmの標準レンズ。単焦点レンズはズームができないので、自分が動いて構図を決めるため写真の勉強になりますし、ボケも作りやすい。ボディは完全機械式で電池いらず。耐久性も高いです。露出のオートがない分、学びが深い。写真学校でも最初に選ばれることが多い組み合わせです。コダックのフィルムは暖色が強いのが特徴ですが、その中でもULTRAMAXは青も強く、バランスのいいフィルムです。スナップから旅行まで、幅広く使えます」

ボディ:Nikon New FM2(49,500円)
レンズ:Nikon AI-Nikkor 50mm F/1.4s(24,200円)
フィルム:Kodak ULTRAMAX 400(1,980円)
※すべて参考価格

風景を撮りたい人のためのフィルムカメラ

 「こちらのレンズは24mmの広角で風景向き。ボディは先ほどとは逆で電子シャッターのためオート機能も使え、機動性が高いです。富士フイルムのフィルムは色の再現性が良く、風景の色をより忠実に捉えてくれます」

ボディ:MINOLTA New X-700(MD ROKKOR 50mmのレンズとセットで38,500円)
レンズ:MINOLTA New MD 24mm F/2.8(24,200円)
フィルム:FUJIFILM 400(2,200円)
※すべて参考価格

デジタル×オールドレンズは「大人の趣味」な組み合わせ

 「フルサイズだと写る範囲が広くなるので、オールドレンズと相性がいい。中でも手に取りやすい価格帯の機種です。レンズは柔らかな写りで明るく、ボケもしっかり作りやすい。ポートレートにもおすすめです」

ボディ:SONY α7II(73,700円)
マウントアダプター:K&F Concept KF-42E2(3,510円)
レンズ:PENTAX Super-Takumar 55mm F/1.8(12,100円)
※すべて参考価格

その時に感じた思いを一枚の写真に残す

 撮影後の楽しみ方は、SNSにアップしたり、大きくプリントして写真展を開いたり、家族の記録として撮り続けたりと、人それぞれだ。
 「写真を楽しむというところでは、子どもの写真を撮るのがいまは一番楽しいですね」と三村さんは微笑む。同じシーンであっても、誰一人として同じ写真にはならない。撮った一枚には、その時の思いが確かに宿っているからだ。
 休日の午後、スマートフォンをバッグの奥にしまい込み、相棒のカメラを首から下げて街へ出かける。路地裏の光、道端の草花、ビルの反射。普段なら見過ごす景色が、オールドレンズを通すことで全く別の表情を見せてくれるはずだ。

オールドレンズの“沼”にようこそ。

2nd BASE

  • カルーセルの画像

TEL 03-6303-2388
東京都千代田区神田練塀町13-1外 SEEKBASE AKI-OKA MANUFACTURE 01棟

https://www.2ndbase.jp/

取材・文/薮田朋子 写真/野口岳彦 編集/都恋堂(山口美智子)

●取材時期:2025年11月中旬 ※価格は消費税込
※価格など掲載内容は時期や施設、店舗の諸事情により変更となる場合があります。

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