もっと知りたい、冬の燗酒の代表イメージ

コラム

“おこもり”は冬のぜいたく

もっと知りたい、冬の燗酒

世界的な日本食ブームで注目が集まっている日本酒。冷酒、冷や、燗酒など、料理に合わせてさまざまな温度でその個性を楽しめる点も、ほかの酒にはあまり見られない特徴だ。冬本番を迎えるこれからの季節、燗酒で食事の楽しみの幅を広げてみてはどうだろうか。基礎から応用まで、東京・代々木上原の日本酒居酒屋「笹吟」の店主、田中 颯氏に聞いた。

2025.11.14

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Q1 燗酒とはどんなもの?

 日本酒は冷やした「冷酒」、常温の「冷や」、温めた「燗酒」と、さまざまな温度で楽しむことができる酒。ひと口に燗酒といっても、その温度によって香りや味がガラリと変わる奥深い特性をもっています。丁寧に造られた上質な日本酒は、燗酒で味わうと酒の味をより深く感じることができます。

「笹吟」では熱伝導率の高い錫(すず)のちろりで湯煎した燗酒を、温めた徳利に入れて提供。

Q2 燗酒のいちばんの魅力は?

 一般的な傾向として、日本酒は冷たいと全体に味わいが引き締まってシャープになり、スッキリとした印象に。一方、温めると香りが豊かに広がります。また、いちばんの魅力は米の甘みやうまみが引き出され、ふんわりまろやかに感じられること。アルコールのとがった感じもやわらぎ、飲みやすくなります。

Q3 燗酒にはどんな種類がある?

 日本酒は温度がおよそ5度変わると味わいが変わり、温度帯によって呼び名も変わります。燗酒の場合は低い方から「日向燗」「人肌燗」「ぬる燗」「上燗」「熱燗」「飛び切り燗」と6種類の呼び名があり、30〜55度と温度の幅があります。それぞれの温度帯を試して、微妙に変わる味わいを実感し、自分好みの燗酒を見つけると楽しいでしょう。呼び名は全部覚えなくても、「ぬる燗」と「熱燗」を基本に、それよりちょっと“ぬるめ”や“熱め”など、感覚的に覚えておくのでもよいと思います。

燗酒の6種類

「日向燗(ひなたかん)」
約30度、体温より少し低い温度/ほんのりと香りが引き立つ、純米酒・純米吟醸酒・純米大吟醸酒など

「人肌燗(ひとはだかん)」
約35度、体温と同じくらいの温度/米や麴(こうじ)由来の膨らみのある香りが感じられる、純米酒・純米吟醸酒・純米大吟醸酒など

「ぬる燗(ぬるかん)」
約40度、風呂の湯程度の温度/ふくよかな香りとうまみが引き立つ、純米酒・純米吟醸酒・純米大吟醸酒など

「上燗(じょうかん)」
約45度、熱めの風呂の湯程度の温度/香りが強く感じられる、純米酒(火入れしたもの)、本醸造酒・普通酒など

「熱燗(あつかん)」
約50度、ふれると熱く感じる温度/シャープな香りと味わいが楽しめる、純米酒(火入れしたもの)、本醸造酒・普通酒など

「飛び切り燗(とびきりかん)」
約55度、熱くて手で持てないくらいの温度/シャープな辛口の味わいになる、純米酒(火入れしたもの)、本醸造酒・普通酒など

Q4 燗酒に合う日本酒は?

 しっかりとした味わいがあり、熟成感のある日本酒は、燗をすることでうまみが増し、おいしさが引き出されます。熱燗なら火入れ(加熱処理)をした純米酒、本醸造酒、普通酒など。伝統的な造り方の「山廃仕込み」「生酛(きもと)造り」の日本酒も燗酒に向いています。一方、香り高い純米大吟醸酒は燗酒に向かないとよくいわれますが、繊細な味わいを生かせるぬる燗なら、純米吟醸酒、純米大吟醸酒も燗酒に向くといえます。

熱燗向きが右側の2本「神亀 純米酒」と「喜久醉(きくよい)特別本醸造」。ぬる燗向きが左側の2本「玄宰 特別純米」と「栗駒山 蔵の華 純米吟醸」。

Q5 燗酒と料理の相性は?

 味覚は口のなかの温度によって感じ方が変化し、冷えた状態や熱すぎる食べ物や飲み物では甘みやうまみを感じにくくなるといわれています。また、料理と口のなかの温度の差が大きいと、えぐみや苦みを感じやすくなり、冷たい刺身に熱燗を合わせると、魚の生臭みを際立たせてしまうことがあります。酒のタイプにもよりますが、冷たい料理や味の淡い料理にはぬる燗を、温かい料理や味が濃いめの料理には熱燗を合わせると、うまく調和するでしょう。

ぬる燗に合わせて

  • 「刺身3種盛り(マグロ、シマアジ、サバ)」(2,100円)。

  • 「いちじくとほうれん草の白和え」(850円)。

熱燗に合わせて

  • 「カマンベールチーズのもろみ味噌漬け」(680円)。

  • 「石川芋と鯛の煮おろし」(1,500円)。

Q6 自宅で上手に燗をつけるには?

 家庭で燗をつけるなら、酒をちろりや徳利に入れて、湯煎するのが最もシンプルで失敗のない方法です。このとき、料理用の温度計があると、とても重宝します。温度計を酒のなかに入れて、ときどきかき混ぜながら、好みの温度になるまで温めます。湯煎は鍋ややかんで湯を沸かすのが昔ながらのやり方ですが、少人数分なら、上蓋が開く電気ケトルを使って、そのなかに酒を入れた徳利を浸けると、卓上で手軽に燗つけを楽しむことができます。電子レンジでの燗つけは、酒器内で温度差が生じ、味にムラができてしまいがちで、上手に燗つけをするのは意外と難しく、あまりおすすめできません。

Q7 燗酒をさらに楽しむには?

 目安の温度ぴったりに燗をするだけでなく、最初に熱燗や飛び切り燗につけた酒を、徐々に冷ましながら、さまざまな温度帯で味わう方法があります。また、純米酒や純米吟醸酒なら、1本の酒を冷酒、冷や、ぬる燗といろいろな温度帯で味わうのも楽しいものです。温度によって香りや味わいが大きく異なることに驚くでしょう。香りや味わいは酒器によっても変わります。燗酒はぜひ口が広い平杯で飲んでみましょう。芳醇な香りと味わいが楽しめます。

笹吟

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TEL 03-5454-3715
東京都渋谷区上原1-32-15
5:00PM~11:00PM(フード~9:45PM(L.O.)
※一部メニューは~9:00PM(L.O.)、ドリンク ~10:30PM(L.O.))
日・祝、年末年始休
※お通し:500円

https://www.instagram.com/sasagin_yoyogiuehara/

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カウンター主体の店内で。日本酒は1/2合からオーダーできる。酒販店で日本酒を学び、「笹吟」二代目店主を務める田中氏。

取材・文/土井ゆう子 写真/伏木 博
●取材時期:2025年6月下旬
※価格は消費税込。
L.O.=ラストオーダー
※掲載内容は店舗の諸事情により変更となる場合があります。

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